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ガス灯で煌めく危険な炎
#10
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首都クリューヴの夜明け前の街並みには、地面に座ってワインとグラスを手にお酒を楽しむ方々が何組かいらっしゃいます。
リモワでも同じような方はいらっしゃいましたが、木箱をテーブルと椅子にしていらっしゃる方が多かったように思います。
流石に師匠が住む住宅地の辺りでは見かけることも無く、私が人を一人背負って歩く姿は目立つ事もありませんでした。
シオ様とガラノフ様の勝負の結果、激昂したガラノフ様を私が取り押さえる事となりました。
その間ルスランがオーナーに相談したようで、ガラノフ様を師匠の私邸へと連れていくことになりました。
「彼がランを燃やした奴で良いんだねぇ?」
「連れ帰るようにしたのはルスランですので、何かしら情報は持っているのかと思います」
「何、キー坊が犯人だって掴んだから連れて来たんじゃないの?」
師匠の疑問はご尤もです。
ただでさえ先に帰宅したルスランに起こされ、眠い時にこんな話を聞かされてお困りとは思いますが、今に至る経緯を説明いたしました。
「全く適当な、そうしないためにキー坊呼んだのに台無しだねぇ」
「街中に置きに戻りましょうか?」
「……いや」
師匠が少し考えてから、私に質問なさいます。
「キー坊の猫って今どこ?」
「ここにいます」
リィとフィルマにはガラノフ様を見ていてもらっていましたので、お二方ともここにいるはずです。
「リィを呼びますか?」
「いや、とりあえず彼に油断と呪いかけて、そこの椅子に縛り付けて」
「承知致しました、呪いはどのような内容にしますか?」
「『寝るな』かねぇ」
「了解しました」
とりあえず師匠に言われた通りの術式を彼に掛けます。
それからガラノフ様を椅子に座らせ、私の服の腰紐て後ろ手を椅子に縛りつけます。
「あとはどうなさいますか?」
「とりあえずキー坊シャワー浴びて着替えてきなよ、起きないなら今気絶してるんでしょ? 見張っててあげるから」
そう言いながら、近くのカウチソファに寝そべります。
このままお休みになられるのは目に見えますが、ガラノフ様が起きる事もなさそうなので、師匠の指示通りシャワーを浴びて来る事にしましょう。
今日、いや昨晩のカジノでは、滅多に見られない怖いものを見たように思いました。
一度気分転換が必要かもしれません。
───────
……流石ヴァローナの筆頭術士と言いますか、尋問に慣れていらっしゃいます。
今に至るまで師匠の雷や魅了、さらにはその長身から繰り出される平手打ちなど……
寝ているルスランが少し羨ましくなります。
とにかく、聞き出したお話によれば。
ガラノフ様はかなり甘いカクテルに強力な睡眠薬を盛り、それをルスランが飲ませたそうですが。
ルスランは一時退席したものの、しばらくしてから普通に業務に戻ってきたそうです。
仕方なく閉店後のカジノから彼を尾行したそうですが、人気のない所で背後から誰かに殴られ気絶したとの事。
その数日後ルスランが火傷で入院したと聞きかなり驚いたそうで、入れ替わりで入った私から状況を聞き出そうと必死だったそうです。
……と、ここまではまだ良かったと思います、動機を話し始めてからは違う意味で堪える物がありました。
ですが、そのお陰で何が起きたのか大体の目星をつけることが出来ました。
「……つまり、君の恋人がランに惚れて、それをランが振ったのに? それでもランにその恋人が言い寄ってて、ってそれ君関係ないよねぇ?」
「ぼ、僕の恋人だ! 無関係じゃない!」
「……まぁ、それで?」
「最後にアリナを見たって奴がルスランと居たって、その時何かしたに違いないから許せなくて、それで……」
「……それで?」
「あ、アイツの身ぐるみ剥いで! 広場に晒そうと思ってたんだよ!」
師匠がかなり苛立った様子で、ガラノフ様に問います。
「君、ここ来た事ある?」
「あるわけないだろ」
「ランに火をつけてはないの?」
「し、知らない! 僕が聞きたいくらいだ!」
「キー坊、猫呼んで」
「承知致しました」
私がカフスに魔力を通して声を掛けようとしたところ、リィが察して先に出てきてくれました。
『まぁ、何を頼みたいかはだいたい分かるけどさ』
私にしか聞こえない独り言をリィが呟くと同時に、弾けるような音が聞こえました。
くぐもった悲鳴の後、ガラノフ様は再び気絶なさったようです。
「猫に頼んで、カジノで気絶した後からの記憶消してもらえるかねぇ」
「リィ、お願いできますか?」
『構わないよ、お安い御用さ』
リィがガラノフ様の頭に乗り、額に前足を当てます。
それから闇を使ったのか、一瞬リィの前足の周囲が暗くなってから元の明るさに戻りました。
「キー坊、適当なとこに捨ててきて」
師匠が簡単に仰います、とりあえずカジノの裏にでも人通りが減った頃に向かいましょう。
「承知致しました」
師匠が疲れたのか、カウチソファに再び横になります。
「結局ランから話を聞くしかないけど……まぁ、前にキー坊と話してた動機で間違いないだろうねぇ。毒に心当たりある?」
「ただ強力な睡眠薬という情報だけでは……物にもよりますが、お酒と併用した場合普通の方なら死に至る可能性もあります」
「なるほどねぇ、とはいえこれは私じゃなくてランの問題だねぇ」
「睡眠薬の特定はしなくても問題ありませんか?」
「それくらいは隠密かランにやらせるかねぇ、カジノの外の話だからキー坊に頼まなくても出来そうだし」
師匠が額に手をやり、もう片方の肩を回します。
「今日休むかねぇ……一応聞くけど、隠密の資料に私とあの廃棄物の関係とか書いてなかったよねぇ?」
「去年末にヴァローナの辺境にある娼館に行かれましたか?」
「え? 行ったねぇ、年明けの祝いで遊びに」
「その時ガラノフ様が懇意にしていた女性が師匠に付きっきりだったそうで、師匠は目立つので覚えられていた可能性があると書かれていました」
師匠の動きが止まります。
「キー坊」
「はい」
「今すぐソイツ捨ててきて」
「……承知致しました」
取り急ぎ袋に詰めて台車でこの住宅区域の外に置いておきましょう、今日も日差しが強そうですが、木陰に置いておけば過ごしやすいかと思います。
それはさておき、師匠に確認しなければならない事があります。
「では師匠」
「何?」
「これで私は用済みですね」
「……あぁ、そうなるのか」
「オランディに帰ります、またご用の際には事前にご連絡を頂けますと幸いです」
師匠は大きなため息をつきます。
これからまだやる事も多いでしょうけど、私が頼まれたのは今回の犯人が誰かをつきとめることです。
「このままキー坊が侍従でいてくれると助かるんだけどねぇ……気が変わったらいつでも歓迎するよ、今回の事で思い知らされたねぇ」
「ありがとうございます」
「とりあえず今週は泊まってきなよ、次の休みに送ってあげるから」
「ありがとうございます。ですが見送りは大丈夫です、カジノで稼いだお金もありますので海路で帰ろうと思います」
「あーっそ」
それから師匠はカウチソファから立ち上がり、伸びをしながら居間を出ようとします。
「とりあえず寝るかねぇ、キー坊もそれ捨てたら寝ると良いよ」
「承知致しました」
とりあえずガラノフ様を運んでから、ジョーティのために簡単な朝食を作っておいてから寝るとしましょう。
目が覚めたら一度シオ様達の宿へ言伝をし、今週中にはここを発つ事をお伝えしたいと思いました。
───────
「あーあ、ガラノフのことバレてから一週間もたなかったか」
「来週からまた夕食が魚ばっかになるのかぁ……」
「持ち込んだ材料を置いていく許可は得てますので、好きに使ってください」
私邸での夕食の時間、私がここを去る話をお二人にしました。
別れを惜しんでくれているような発言は、やはり嬉しく思います。
「私の仕事が落ち着いたらまたそっちに遊びに行こうかねぇ、先の事にはなりそうだけど」
「それより俺の修行見てくれよ、キーノス居なくなったら見てくれるやついないだろ!」
「ランに頼んでほしいねぇ、術は使えなくても魔力は見えるでしょ?」
「昼間は寝る時間だ、夜なら見てやってもいい」
ジョーティの修行に関しては今後の成長が楽しみです、次に会うときには
「俺、父上に黒オーガに術教わったって自慢してやろうと思ったのになー」
私は思わず匙を落とします。
ジョーティが自然に言う言葉に驚きを隠せません。
「あ、そうだったねぇ。キー坊、猫目君はサトリの目を持ってるから千里眼より高度な解析能力があるんだよねぇ」
「……初日に教えてください」
「あと猫目君、キー坊が黒オーガって話はここ以外で言わないように」
「えーなんで? すげー自慢になるのに!」
なる訳ないと思います。
この世界ではオーガの黒色種はかなり珍しいので、遭遇しただけでも自慢になるのかもしれませんが。
ジョーティの目の事もですが、最後にとんでもない事を聞かされました。
ここでの日々も決して悪いものではありませんでしたが、やはりオランディに帰りたいと思います。
彼らとまた会うこともあるでしょう、今度はオランディに遊びに来てもらえたらと嬉しく思います。
リモワでも同じような方はいらっしゃいましたが、木箱をテーブルと椅子にしていらっしゃる方が多かったように思います。
流石に師匠が住む住宅地の辺りでは見かけることも無く、私が人を一人背負って歩く姿は目立つ事もありませんでした。
シオ様とガラノフ様の勝負の結果、激昂したガラノフ様を私が取り押さえる事となりました。
その間ルスランがオーナーに相談したようで、ガラノフ様を師匠の私邸へと連れていくことになりました。
「彼がランを燃やした奴で良いんだねぇ?」
「連れ帰るようにしたのはルスランですので、何かしら情報は持っているのかと思います」
「何、キー坊が犯人だって掴んだから連れて来たんじゃないの?」
師匠の疑問はご尤もです。
ただでさえ先に帰宅したルスランに起こされ、眠い時にこんな話を聞かされてお困りとは思いますが、今に至る経緯を説明いたしました。
「全く適当な、そうしないためにキー坊呼んだのに台無しだねぇ」
「街中に置きに戻りましょうか?」
「……いや」
師匠が少し考えてから、私に質問なさいます。
「キー坊の猫って今どこ?」
「ここにいます」
リィとフィルマにはガラノフ様を見ていてもらっていましたので、お二方ともここにいるはずです。
「リィを呼びますか?」
「いや、とりあえず彼に油断と呪いかけて、そこの椅子に縛り付けて」
「承知致しました、呪いはどのような内容にしますか?」
「『寝るな』かねぇ」
「了解しました」
とりあえず師匠に言われた通りの術式を彼に掛けます。
それからガラノフ様を椅子に座らせ、私の服の腰紐て後ろ手を椅子に縛りつけます。
「あとはどうなさいますか?」
「とりあえずキー坊シャワー浴びて着替えてきなよ、起きないなら今気絶してるんでしょ? 見張っててあげるから」
そう言いながら、近くのカウチソファに寝そべります。
このままお休みになられるのは目に見えますが、ガラノフ様が起きる事もなさそうなので、師匠の指示通りシャワーを浴びて来る事にしましょう。
今日、いや昨晩のカジノでは、滅多に見られない怖いものを見たように思いました。
一度気分転換が必要かもしれません。
───────
……流石ヴァローナの筆頭術士と言いますか、尋問に慣れていらっしゃいます。
今に至るまで師匠の雷や魅了、さらにはその長身から繰り出される平手打ちなど……
寝ているルスランが少し羨ましくなります。
とにかく、聞き出したお話によれば。
ガラノフ様はかなり甘いカクテルに強力な睡眠薬を盛り、それをルスランが飲ませたそうですが。
ルスランは一時退席したものの、しばらくしてから普通に業務に戻ってきたそうです。
仕方なく閉店後のカジノから彼を尾行したそうですが、人気のない所で背後から誰かに殴られ気絶したとの事。
その数日後ルスランが火傷で入院したと聞きかなり驚いたそうで、入れ替わりで入った私から状況を聞き出そうと必死だったそうです。
……と、ここまではまだ良かったと思います、動機を話し始めてからは違う意味で堪える物がありました。
ですが、そのお陰で何が起きたのか大体の目星をつけることが出来ました。
「……つまり、君の恋人がランに惚れて、それをランが振ったのに? それでもランにその恋人が言い寄ってて、ってそれ君関係ないよねぇ?」
「ぼ、僕の恋人だ! 無関係じゃない!」
「……まぁ、それで?」
「最後にアリナを見たって奴がルスランと居たって、その時何かしたに違いないから許せなくて、それで……」
「……それで?」
「あ、アイツの身ぐるみ剥いで! 広場に晒そうと思ってたんだよ!」
師匠がかなり苛立った様子で、ガラノフ様に問います。
「君、ここ来た事ある?」
「あるわけないだろ」
「ランに火をつけてはないの?」
「し、知らない! 僕が聞きたいくらいだ!」
「キー坊、猫呼んで」
「承知致しました」
私がカフスに魔力を通して声を掛けようとしたところ、リィが察して先に出てきてくれました。
『まぁ、何を頼みたいかはだいたい分かるけどさ』
私にしか聞こえない独り言をリィが呟くと同時に、弾けるような音が聞こえました。
くぐもった悲鳴の後、ガラノフ様は再び気絶なさったようです。
「猫に頼んで、カジノで気絶した後からの記憶消してもらえるかねぇ」
「リィ、お願いできますか?」
『構わないよ、お安い御用さ』
リィがガラノフ様の頭に乗り、額に前足を当てます。
それから闇を使ったのか、一瞬リィの前足の周囲が暗くなってから元の明るさに戻りました。
「キー坊、適当なとこに捨ててきて」
師匠が簡単に仰います、とりあえずカジノの裏にでも人通りが減った頃に向かいましょう。
「承知致しました」
師匠が疲れたのか、カウチソファに再び横になります。
「結局ランから話を聞くしかないけど……まぁ、前にキー坊と話してた動機で間違いないだろうねぇ。毒に心当たりある?」
「ただ強力な睡眠薬という情報だけでは……物にもよりますが、お酒と併用した場合普通の方なら死に至る可能性もあります」
「なるほどねぇ、とはいえこれは私じゃなくてランの問題だねぇ」
「睡眠薬の特定はしなくても問題ありませんか?」
「それくらいは隠密かランにやらせるかねぇ、カジノの外の話だからキー坊に頼まなくても出来そうだし」
師匠が額に手をやり、もう片方の肩を回します。
「今日休むかねぇ……一応聞くけど、隠密の資料に私とあの廃棄物の関係とか書いてなかったよねぇ?」
「去年末にヴァローナの辺境にある娼館に行かれましたか?」
「え? 行ったねぇ、年明けの祝いで遊びに」
「その時ガラノフ様が懇意にしていた女性が師匠に付きっきりだったそうで、師匠は目立つので覚えられていた可能性があると書かれていました」
師匠の動きが止まります。
「キー坊」
「はい」
「今すぐソイツ捨ててきて」
「……承知致しました」
取り急ぎ袋に詰めて台車でこの住宅区域の外に置いておきましょう、今日も日差しが強そうですが、木陰に置いておけば過ごしやすいかと思います。
それはさておき、師匠に確認しなければならない事があります。
「では師匠」
「何?」
「これで私は用済みですね」
「……あぁ、そうなるのか」
「オランディに帰ります、またご用の際には事前にご連絡を頂けますと幸いです」
師匠は大きなため息をつきます。
これからまだやる事も多いでしょうけど、私が頼まれたのは今回の犯人が誰かをつきとめることです。
「このままキー坊が侍従でいてくれると助かるんだけどねぇ……気が変わったらいつでも歓迎するよ、今回の事で思い知らされたねぇ」
「ありがとうございます」
「とりあえず今週は泊まってきなよ、次の休みに送ってあげるから」
「ありがとうございます。ですが見送りは大丈夫です、カジノで稼いだお金もありますので海路で帰ろうと思います」
「あーっそ」
それから師匠はカウチソファから立ち上がり、伸びをしながら居間を出ようとします。
「とりあえず寝るかねぇ、キー坊もそれ捨てたら寝ると良いよ」
「承知致しました」
とりあえずガラノフ様を運んでから、ジョーティのために簡単な朝食を作っておいてから寝るとしましょう。
目が覚めたら一度シオ様達の宿へ言伝をし、今週中にはここを発つ事をお伝えしたいと思いました。
───────
「あーあ、ガラノフのことバレてから一週間もたなかったか」
「来週からまた夕食が魚ばっかになるのかぁ……」
「持ち込んだ材料を置いていく許可は得てますので、好きに使ってください」
私邸での夕食の時間、私がここを去る話をお二人にしました。
別れを惜しんでくれているような発言は、やはり嬉しく思います。
「私の仕事が落ち着いたらまたそっちに遊びに行こうかねぇ、先の事にはなりそうだけど」
「それより俺の修行見てくれよ、キーノス居なくなったら見てくれるやついないだろ!」
「ランに頼んでほしいねぇ、術は使えなくても魔力は見えるでしょ?」
「昼間は寝る時間だ、夜なら見てやってもいい」
ジョーティの修行に関しては今後の成長が楽しみです、次に会うときには
「俺、父上に黒オーガに術教わったって自慢してやろうと思ったのになー」
私は思わず匙を落とします。
ジョーティが自然に言う言葉に驚きを隠せません。
「あ、そうだったねぇ。キー坊、猫目君はサトリの目を持ってるから千里眼より高度な解析能力があるんだよねぇ」
「……初日に教えてください」
「あと猫目君、キー坊が黒オーガって話はここ以外で言わないように」
「えーなんで? すげー自慢になるのに!」
なる訳ないと思います。
この世界ではオーガの黒色種はかなり珍しいので、遭遇しただけでも自慢になるのかもしれませんが。
ジョーティの目の事もですが、最後にとんでもない事を聞かされました。
ここでの日々も決して悪いものではありませんでしたが、やはりオランディに帰りたいと思います。
彼らとまた会うこともあるでしょう、今度はオランディに遊びに来てもらえたらと嬉しく思います。
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