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偽りの月光を映す川面
#10
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モウカハナの忘年会の翌日の今日。
日が高くなったとはいえ、外の気温はすっかり冬の寒さのそれになっています。
あの後カーラ様とシオ様はお帰りになりましたが、その頃にはビャンコ様はお店のソファでお休みになっておりました。
昼前に目覚めたビャンコ様と昨晩話していた石の実験をする為に、我が家へと向かっています。
「いつもどう帰ってんだろ? って思ってたけど、よくもまぁこんな裏道と裏道を」
「明け方フードを被って歩いていた時に不審者に間違えられた事がありまして」
「今昼時だよね、この時間でほとんど人と会わないとかリモワであるんね」
「明け方の帰路なら誰かと遭遇することはまずありません」
行きは市場に寄ることが多いので、主に帰宅に使用する道です。
距離も遠くないため、もう少しすれば私の住むパラッツォの裏口の前です。
「キーちゃんち着いたらシャワー貸して、出来れば服も」
「やはり一度帰宅なさってから別の場所で待ち合わせにしますか?」
「えーもうちょっとで着くでしょ?」
「家探しをしない約束のはずですが」
「しないしない、でもシャワー浴びたいんよね」
あまり信用出来ませんが、リィに見張ってて貰えば大丈夫でしょうか。
今回ビャンコ様を我が家に招く流れになったのは、店を出る前にカフスに声を付けていただいた交換条件です。
フィルマとリィに関しては彼の世話になってばかりですので、交換条件としては簡単なものに思います。
とはいえ……
「替えの服に関してですが」
「後で洗って返すよ」
「シャツは構いませんが、下着とズボンはどうするのですか?」
「それも貸してー」
「……嫌です」
「えーいいじゃん、キーちゃんの師匠来た時どうしてたの?」
「……だからです」
師匠はどこに何があるかを私が帰宅した時には既に把握しており、勝手に服を取り出して着ていました。
身長差があるのでズボンは履かず、下着とサイズが合わず前を開けたシャツの姿でしたが。
……そう考えると、ビャンコ様は彼ほど酷くはないように思えてきました。
「服は洗いますので、帰る時には今の服でお願いします」
「やった! 白いのが良いなぁ」
「ある物で我慢してください」
───────
シャワーを浴び着替えた後で昼食を作りお出ししました。
その後部屋のリビングのソファに腰掛けてまずはカフスの実験です。
魔力は回復しておりますのでカフスを付けて魔力を通します。
「リィ、何か話してくれますか?」
足元で寝そべるるリィに声を掛けますが、チラリと私を見るだけで答えてくれません。
「姉さん久しぶり! ちょっと話そ?」
『やーよ、なんでトラオがここにいるのさ』
以前聞いたリィの声が聞こえます。
「トラオとはどなたの事ですか?」
私が答えた事に驚いたのか、リィがこちらを向いて膝の上に乗ってきます。
『もしかしてキー君、アタイの言ってる事が分かるのかい?』
「はい、ビャンコ様に頼んで出来るようにして頂きました」
『なーんだい、たまにはトラオもいい事するじゃないか!』
どうもトラオとはビャンコ様の事を指しているようです。
「相変わらず冷たいなぁ姉さんは」
『いっつもキー君をこき使うからアンタなんか好きじゃないさ』
「いいじゃん、これからはオレのお陰で話せるんだし!」
それが、少し困った事があります。
「理解よりはマシですが、それなりにキツいですね。常に使い続けるのは難しいかもしれません」
「そうなの?」
「向き不向きなのでしょう、必要に応じてなら使うことは出来そうです」
『あぁ、それでも嬉しいね! 一個くらいトラオに恩返ししてやっても良い気になるよ!』
リィは私の膝から降りて私の隣に座ります。
「じゃ、カフスの検証も済んだし。石の方調べようよ!」
「そうですね。リィ、申し訳ありませんが」
『分かったよ、話したくなったら声掛けるさ!』
そう言ってそのまま寝そべりました。
私は一度ソファから立ち上がり、キッチンの辺りに置いておいた光る石を持ってまいりました。
「うん、やっぱアイツらから回収したのより大分デカいなぁ」
「私が渡した欠片の数倍の大きさになっていますね」
ハーロルトが持っていたサイズが少し大きめの飴玉程でしたが、それを私が半分に割り、ビャンコ様が手のひらに収まる程度の結晶の塊になさいました。
この状態でも私側の方は青紫色に、ビャンコ様側の方は白銀色に光っております。
「とりあえず割ってみますか」
「だね、よろしく!」
私は指を鳴らして結晶の三分の一ほどの位置で割り、元の大きさくらいの物を用意します。
それから残った大きい方の欠片をテーブルに置きます。
この光る石を改めて観察して思いましたが、断面が直線になりません。
ささくれたような質感で、研磨しないと元の状態にはならないように見えます。
しかし簡単に割ることが出来ないのなら、どうやって研磨しているのでしょうか?
「あっさり割るね……」
「むしろイザッコの力で割れない程とは思ってませんでした」
「どうやって術を使わないで割ってるかだね。これの成分? とか分かる?」
「やってみます」
少し消費しているのもあり、少しだけ窓を開けてタバコに火をつけます。
成分が分かりやすいように粉末にしたところで光が消え、店で使うサンオントウという砂糖のようになりました。
質感は乾いた砂と言うより、少しだけ湿度を帯びているように見えます。
とりあえず千里眼を使い成分を調べます。
「主にアミノ酸系の化合物と油分ですね、それから金属性のものが何種か……」
有機質の物が多いです、そのせいでささくれた断面になっていたのでしょうか。
それよりこの組み合わせは、心当たりがあります。
言っていいのか悩みます、どうしてこんな物が存在するのでしょうか。
「何、分かった?」
「……その、すごく言いにくいのですが」
「何よ、なんかマズイ物なの?」
「かの帝国の方々はこれが何か知っているのでしょうか?」
「知ってんじゃない?」
確かに知らない方が不自然です。
嫌悪感が込み上げてきます。
「この石の質量に対し、少し多い量の水分を加えると、その」
「何?」
「……生物と同じものかと思います」
正確に言うともっと特定できますが、口に出す事でそれになってしまうようではばかられます。
何かを察したのか、ビャンコ様の表情も曇ります。
「これ、何なんだろ……こないだリュンヌの奴らから回収した石と成分の差とかって分かる?」
「実際に物があればですね。推測で言うなら同じ成分かとは思います」
この石の来歴などが分かれば良いのですが、調べるのもかなり大変なものかと思います。
気分を切り替えるためにも、一度タバコの火を消して換気をします。
「成分だけを考えるなら割れない理由には繋がらないと思いますので、何か特殊な手段があるのかと思います」
「そうだね、キーちゃんの術をナイフに付けるとかは?」
「刃物の役目を持つ物は持っておりませんので、試すことは難しいです」
探せばあるのかもしれませんが、私が所持しているのでそういったものはありません。
「もしあったらどう?」
「変化なら石の温度が変わるだけかもしれません」
「え、でもキーちゃん割ったよね?」
「破壊するとなると組織の結合を分離させるような考え方になりますので、分離させる位置の座標を考えて」
「ん、ん? もっと簡単に!」
「どういう形状で破壊するかを計算する必要があります」
「なんか、本当に変化ってめんどくさい術だね」
「私以外に扱う方を見た事がないので何とも言えません」
「まぁでも変化の道具じゃなさそうだね、魔獣でもそんなの使う奴聞いた事ないし」
私がそうですが、オーガ全体で見れば違うので間違ってはいません。
「あとなんだろ、やっぱ岩?」
「扱える方か魔獣に心当たりはございますか?」
「術士は分からんけど、魔獣なら亀っぽいのか蜥蜴っぽいのでいた気がする」
「なら、それですかね」
「どうだろうね、回収した石どれも大きさが似てるから違うかも……あ」
ビャンコ様が拳で手のひらを叩き、何かを思いついたような反応をなさいます。
「元が粉末で、それを固めるのなら魔獣でも簡単に出来るかも」
「可能性がありますね」
「あー、それか? じゃあこれ、元々粉末……いや砂って事かな? あるいは土とか、そういう……」
どこで入手したか分かりませんが、不気味な土を魔獣の力で固めているならかなり悪趣味な泥団子といったところでしょうか。
「キーちゃんさ、フィルマ君に頼んで元マルモワ暗部の長髪君に調べてもらうとか出来ない?」
「頼む事は出来ますが、交換条件が何かによっては迷いますね」
「確かに。じゃあオレも協力するから一旦聞くだけ聞くだけ聞いてみようよ」
どの道フィルマにも会話が出来るようになった事を伝えようとは思ったので、声を掛けることは賛成です。
しかし、ハーロルトの性格を考えると面倒な条件を出されそうな気がします。
「分かりました。とりあえずフィルマをここに呼びますが、魔獣や術への対策は本当に大丈夫なのですよね?」
「大丈夫、今でもアイツらマークしてるから安心していいよ!」
この部屋自体少しわかりにくいところにありますし、ビャンコ様の言葉を信じることにします。
フィルマに呼びかけて師匠を通じてハーロルトとの間を取り持って貰うことにしましょう、別れてから数ヶ月しか経っていませんが思ったより早く交流を持つことになりそうです。
日が高くなったとはいえ、外の気温はすっかり冬の寒さのそれになっています。
あの後カーラ様とシオ様はお帰りになりましたが、その頃にはビャンコ様はお店のソファでお休みになっておりました。
昼前に目覚めたビャンコ様と昨晩話していた石の実験をする為に、我が家へと向かっています。
「いつもどう帰ってんだろ? って思ってたけど、よくもまぁこんな裏道と裏道を」
「明け方フードを被って歩いていた時に不審者に間違えられた事がありまして」
「今昼時だよね、この時間でほとんど人と会わないとかリモワであるんね」
「明け方の帰路なら誰かと遭遇することはまずありません」
行きは市場に寄ることが多いので、主に帰宅に使用する道です。
距離も遠くないため、もう少しすれば私の住むパラッツォの裏口の前です。
「キーちゃんち着いたらシャワー貸して、出来れば服も」
「やはり一度帰宅なさってから別の場所で待ち合わせにしますか?」
「えーもうちょっとで着くでしょ?」
「家探しをしない約束のはずですが」
「しないしない、でもシャワー浴びたいんよね」
あまり信用出来ませんが、リィに見張ってて貰えば大丈夫でしょうか。
今回ビャンコ様を我が家に招く流れになったのは、店を出る前にカフスに声を付けていただいた交換条件です。
フィルマとリィに関しては彼の世話になってばかりですので、交換条件としては簡単なものに思います。
とはいえ……
「替えの服に関してですが」
「後で洗って返すよ」
「シャツは構いませんが、下着とズボンはどうするのですか?」
「それも貸してー」
「……嫌です」
「えーいいじゃん、キーちゃんの師匠来た時どうしてたの?」
「……だからです」
師匠はどこに何があるかを私が帰宅した時には既に把握しており、勝手に服を取り出して着ていました。
身長差があるのでズボンは履かず、下着とサイズが合わず前を開けたシャツの姿でしたが。
……そう考えると、ビャンコ様は彼ほど酷くはないように思えてきました。
「服は洗いますので、帰る時には今の服でお願いします」
「やった! 白いのが良いなぁ」
「ある物で我慢してください」
───────
シャワーを浴び着替えた後で昼食を作りお出ししました。
その後部屋のリビングのソファに腰掛けてまずはカフスの実験です。
魔力は回復しておりますのでカフスを付けて魔力を通します。
「リィ、何か話してくれますか?」
足元で寝そべるるリィに声を掛けますが、チラリと私を見るだけで答えてくれません。
「姉さん久しぶり! ちょっと話そ?」
『やーよ、なんでトラオがここにいるのさ』
以前聞いたリィの声が聞こえます。
「トラオとはどなたの事ですか?」
私が答えた事に驚いたのか、リィがこちらを向いて膝の上に乗ってきます。
『もしかしてキー君、アタイの言ってる事が分かるのかい?』
「はい、ビャンコ様に頼んで出来るようにして頂きました」
『なーんだい、たまにはトラオもいい事するじゃないか!』
どうもトラオとはビャンコ様の事を指しているようです。
「相変わらず冷たいなぁ姉さんは」
『いっつもキー君をこき使うからアンタなんか好きじゃないさ』
「いいじゃん、これからはオレのお陰で話せるんだし!」
それが、少し困った事があります。
「理解よりはマシですが、それなりにキツいですね。常に使い続けるのは難しいかもしれません」
「そうなの?」
「向き不向きなのでしょう、必要に応じてなら使うことは出来そうです」
『あぁ、それでも嬉しいね! 一個くらいトラオに恩返ししてやっても良い気になるよ!』
リィは私の膝から降りて私の隣に座ります。
「じゃ、カフスの検証も済んだし。石の方調べようよ!」
「そうですね。リィ、申し訳ありませんが」
『分かったよ、話したくなったら声掛けるさ!』
そう言ってそのまま寝そべりました。
私は一度ソファから立ち上がり、キッチンの辺りに置いておいた光る石を持ってまいりました。
「うん、やっぱアイツらから回収したのより大分デカいなぁ」
「私が渡した欠片の数倍の大きさになっていますね」
ハーロルトが持っていたサイズが少し大きめの飴玉程でしたが、それを私が半分に割り、ビャンコ様が手のひらに収まる程度の結晶の塊になさいました。
この状態でも私側の方は青紫色に、ビャンコ様側の方は白銀色に光っております。
「とりあえず割ってみますか」
「だね、よろしく!」
私は指を鳴らして結晶の三分の一ほどの位置で割り、元の大きさくらいの物を用意します。
それから残った大きい方の欠片をテーブルに置きます。
この光る石を改めて観察して思いましたが、断面が直線になりません。
ささくれたような質感で、研磨しないと元の状態にはならないように見えます。
しかし簡単に割ることが出来ないのなら、どうやって研磨しているのでしょうか?
「あっさり割るね……」
「むしろイザッコの力で割れない程とは思ってませんでした」
「どうやって術を使わないで割ってるかだね。これの成分? とか分かる?」
「やってみます」
少し消費しているのもあり、少しだけ窓を開けてタバコに火をつけます。
成分が分かりやすいように粉末にしたところで光が消え、店で使うサンオントウという砂糖のようになりました。
質感は乾いた砂と言うより、少しだけ湿度を帯びているように見えます。
とりあえず千里眼を使い成分を調べます。
「主にアミノ酸系の化合物と油分ですね、それから金属性のものが何種か……」
有機質の物が多いです、そのせいでささくれた断面になっていたのでしょうか。
それよりこの組み合わせは、心当たりがあります。
言っていいのか悩みます、どうしてこんな物が存在するのでしょうか。
「何、分かった?」
「……その、すごく言いにくいのですが」
「何よ、なんかマズイ物なの?」
「かの帝国の方々はこれが何か知っているのでしょうか?」
「知ってんじゃない?」
確かに知らない方が不自然です。
嫌悪感が込み上げてきます。
「この石の質量に対し、少し多い量の水分を加えると、その」
「何?」
「……生物と同じものかと思います」
正確に言うともっと特定できますが、口に出す事でそれになってしまうようではばかられます。
何かを察したのか、ビャンコ様の表情も曇ります。
「これ、何なんだろ……こないだリュンヌの奴らから回収した石と成分の差とかって分かる?」
「実際に物があればですね。推測で言うなら同じ成分かとは思います」
この石の来歴などが分かれば良いのですが、調べるのもかなり大変なものかと思います。
気分を切り替えるためにも、一度タバコの火を消して換気をします。
「成分だけを考えるなら割れない理由には繋がらないと思いますので、何か特殊な手段があるのかと思います」
「そうだね、キーちゃんの術をナイフに付けるとかは?」
「刃物の役目を持つ物は持っておりませんので、試すことは難しいです」
探せばあるのかもしれませんが、私が所持しているのでそういったものはありません。
「もしあったらどう?」
「変化なら石の温度が変わるだけかもしれません」
「え、でもキーちゃん割ったよね?」
「破壊するとなると組織の結合を分離させるような考え方になりますので、分離させる位置の座標を考えて」
「ん、ん? もっと簡単に!」
「どういう形状で破壊するかを計算する必要があります」
「なんか、本当に変化ってめんどくさい術だね」
「私以外に扱う方を見た事がないので何とも言えません」
「まぁでも変化の道具じゃなさそうだね、魔獣でもそんなの使う奴聞いた事ないし」
私がそうですが、オーガ全体で見れば違うので間違ってはいません。
「あとなんだろ、やっぱ岩?」
「扱える方か魔獣に心当たりはございますか?」
「術士は分からんけど、魔獣なら亀っぽいのか蜥蜴っぽいのでいた気がする」
「なら、それですかね」
「どうだろうね、回収した石どれも大きさが似てるから違うかも……あ」
ビャンコ様が拳で手のひらを叩き、何かを思いついたような反応をなさいます。
「元が粉末で、それを固めるのなら魔獣でも簡単に出来るかも」
「可能性がありますね」
「あー、それか? じゃあこれ、元々粉末……いや砂って事かな? あるいは土とか、そういう……」
どこで入手したか分かりませんが、不気味な土を魔獣の力で固めているならかなり悪趣味な泥団子といったところでしょうか。
「キーちゃんさ、フィルマ君に頼んで元マルモワ暗部の長髪君に調べてもらうとか出来ない?」
「頼む事は出来ますが、交換条件が何かによっては迷いますね」
「確かに。じゃあオレも協力するから一旦聞くだけ聞くだけ聞いてみようよ」
どの道フィルマにも会話が出来るようになった事を伝えようとは思ったので、声を掛けることは賛成です。
しかし、ハーロルトの性格を考えると面倒な条件を出されそうな気がします。
「分かりました。とりあえずフィルマをここに呼びますが、魔獣や術への対策は本当に大丈夫なのですよね?」
「大丈夫、今でもアイツらマークしてるから安心していいよ!」
この部屋自体少しわかりにくいところにありますし、ビャンコ様の言葉を信じることにします。
フィルマに呼びかけて師匠を通じてハーロルトとの間を取り持って貰うことにしましょう、別れてから数ヶ月しか経っていませんが思ったより早く交流を持つことになりそうです。
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