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余談集

桜咲く、モウカハナ・マジック・アカデミー!

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 春風と一緒に桜の花びらがひらひら散ってる……ついにこの日が来たんだ!
 アタシは校門の前に立って、決意を新たにした。

 ついに、マジカナの本編が始まるのね!

 アタシはある日目が覚めたらユメノ・ブランカという名前の貴族に転生していた。

 (※テンプレゆえ中略)

 確かシナリオ通りなら、入学式のあとで偶然立ち寄った食堂で王子様とぶつかるはず……!
 二年生で生徒会長のトゥオーノ様。この国の王子で金髪碧眼の超美形。確かゲーム中だと唯一の光属性の魔法に目覚めてるのよね。
 食堂前の曲がり角で偶然ぶつかって、そこからアタシに声を掛けてくれる。
 そのままお互い恋に落ちるの!

 曲がり角の先から声がする……来たみたい。
 アタシはカバンに忍ばせておいた食パンを咥えて、ちょうどぶつかりそうなタイミングで角から躍り出る!

「ケータさん、危ない!」

 ぶつかるはずが勢いよく横を通りすぎてしまった。
 ちょっと、どういうこと!?
 アタシは振り返って理由を確かめた。

「あ、ありがとうギュンター。気づかなくてごめん」
「俺も急にすみません」

 どうやらこの地味なメガネが王子様を助けちゃったみたいだけど……
 いや、そもそもトゥオーノ様じゃない。誰このビジュアル系のチビっこ。

 それから私に目をくれることも無く立ち去った。
 いや、一言くらいなんか言いなよ!

 何も言えずに立っていたら声が掛けられた。

「えっと、こんなところで何をしてるんですか? パンは食堂で食べた方が良いですよ?」

 声の主に勢いよく振り返る。
 するとそこに、柔らかい笑顔でアタシを見つめる先輩が!

「あっアナスターシオ先輩!」
「え、私のこと知ってるんですか? それより食パン落ちましたよ」

 うわ、うわぁー!
 王子様じゃないけど攻略対象の四人目のアナスターシオ様!
 三年生の先輩で、いつも優しく笑って助けてくれる策士キャラ!
 確か、魔法は風属性だったっけ?

 そのまま先輩は立ち去ろうとするので急いで腕を掴む。

「えっ? あの、何か?」
「一緒にランチ食べませんか!?」
「いえ、結構です」

 そのまま腕を剥がして足早にどこかへ行ってしまった。
 ……ま、まぁ良いわ。今はまだその時じゃない。

 王子様の最初の出会いは失敗したけど次よ次!
 カズロ先輩が待ってるわ!


 どうなってるの……ここ、マジカナの中だよね?
 なんでフラグが動かないの?

 入学式で王子様挨拶してたし、アナスターシオ先輩とも会った。
 カズロ先輩も見つけて、自己紹介もしたのに興味なさげ。
 確かカズロ先輩は入試の結果に載っていたアタシの名前を覚えてて

「あの素晴らしい算術の成績は君だったんだね」

 って言って笑ってくれるのよ。
 まぁ本当のアタシは数学なんて苦手だから入試の結果はギリギリだったけど、フラグも折れるなんて!
 バグってんじゃない、この世界?

 あとは……
 一緒に今日入学のメルクリオ君?
 カワイイ系のワンコキャラだけど、アタシの好みじゃないのよね。
 それか魔獣と仲良いビャンコ先輩とか?
 あの人分かりにくいのよね、裏の顔出るまでの好感度上げもめんどくさいし。

 で、も! とりあえずサブキャラも結構カッコイイし、見に行くだけ見に行こう!


「キャー! ネストレ様ー!」
「今日も素敵、こっち見てー!」
「あっ、手振ってくれた! キャー!!」

 女子の声が耳に痛い……
 でも間違いない、グラフィックが良いのに攻略対象じゃなかったサブキャラ代表、騎士のネストレ様だ!
 続編が出たら絶対攻略対象になること間違いナシ、マジカナの世界で王子様の次にモテる設定だったはず。

 せめて顔だけでも……

「ネストレ様に今日こそ花束を差し上げるの!」
「あんた何抜け駆けしてんの? どいてよ!」

 っとに邪魔……もう少し前に行かなきゃ。

「手紙読んでくれたかな……」
「読んでくれてるよ、だってネストレ様だもん!」

 全然前に行けない……

「はぁ~ファンクラブ入っても全然会えない! 切な~い!」
「遠くからでも見たいのに~!」

 アタシ、乙女ゲームの世界のヒロインに転生したはずなのに……どうしてゲーム内のモブ以下の女達と群がってるのかな。

 なんだか馬鹿らしくなってきた。
 食堂はまだ空いてるし、ご飯食べつつ次のサブキャラに会いに行こう。
 確か食堂の兄貴よね。


「いらっしゃい、新入生かな? 食券預かります!」
「……誰?」
「オレ? ここのカウンター担当だよ。食券ください!」

 胸に付いた名札に「ジャン」って書いてある。

「ミケ様はいないの?」
「君、新入生じゃないの? ミケさんは今いないよ、いてもこっちにはあんまり出てこないよ」

 そうだった、厨房で料理してる間は出てこないんだった。
 食堂が終わった後で、アナスターシオ先輩とこっそり校内デートに来るとたまに場所貸してくれるんだった。
 だめね、また明日来よう。

「えっ、食券は?」

 背後から何か聞こえるけどどうでもいいや。
 あとは……保健室のレウロ先生かなぁ。
 でも今までの感じだと会えないかもなぁ。
 まぁ行くだけ行ってみよう。


 食堂から結構近くに保健室はあった。
 とりあえずノックをしてみる。
 すると、中から声が返ってきた!

「はい、どうぞ」

 やった、期待してなかったけど!
 アタシは勢いよくドアを開けて中に入った!
 そこには強いカールのかかった金髪で、顔の彫りが深い男が白衣を着て座っていた。
 それだけじゃない。
 赤毛で長い髪をした、体格の良い背中も見える……まさか!

「いらっしゃい、新入生かな? どうしたの?」

 レウロ先生だ! 座ったままだけどにっこり笑って応えてくれた。
 ちょっと濃い顔立ちだけど、すごく紳士的で良い!

「お、客か。じゃオレ帰るわ」

 赤毛の人が立ち上がってこっちを向く。
 やっぱり、そのお顔はミケ様!

「ミケ様! お休みじゃなかったんですか?」
「え? 今日は仕込みだけして上がり……ってお前誰だ?」
「アタシ、今日から入学したユメノ・ブランカです!」
「新入生? とりあえず入学おめでとうな」

 笑顔でそう言って、そのままアタシの横を通りすぎて保健室から出ていった。
 優しい……今日色んな人から優しくされてないからかな、心に染み渡る優しさ。

「攻略対象じゃないなんて……」

 背中を見守りながら思わず独り言が漏れる。

「えっとあの、ブランカさん? 保健室に何か用かな?」

 忘れてた、レウロ先生に会いに来たんだ!

「ご挨拶に来ました!」
「そ、そう? 怪我とか体調が悪いとかじゃないの?」
「はい、至って元気です!」
「それは良かったね、じゃあ今度は怪我したり体調が悪い時に来てね」
「はーい!」

 とりあえず結果は上々! この勢いに乗って、一番会いたい人に会いに行こう。
 それは……


 隠しキャラ、温室の魔王キーノス先輩。

 全ルート攻略しないと会うことも難しい、しばらく名前しか登場しない正しく隠しキャラ!
 二年生でハイスペックなのに目立たないようにしてる銀髪のクール系、見た目だけなら一番好み!

 普段は教室からほとんど動かないけど、放課後は園芸部の温室に篭もりっきりでお花の世話してるのよねー。
 好感度が上がると夜に秘密のお茶会デートに誘われて、花に囲まれた温室で二人っきりで先輩お手製のハーブティーを入れてくれる。
 せめて早くご尊顔だけでも! あわよくば好感度も上げたい!

 今日は入学式の後は授業もないし、温室にいるんじゃないかな?
 そう思って温室まで来たけど……入口に黒髪美人系の女がいる。
 何あれ、あんなキャラいた?

 とりあえず温室に入ろう、それでキーノス先輩にご挨拶を……
 と、思ったらこの黒髪の女が無言で前に立ちはだかる。

「ちょっとアンタ何?」
「温室に何か?」
「アンタには関係ないでしょ」

 アタシは女を無視して温室に入ろうとした。
 なのに横を通ろうとするとそれに気付いて回り込んでくる。

「ちょっと、どいてよ!」
「帰りなさい」
「はァ? なんでアンタにそんな事言われなきゃなんないのよ!」
「帰りなさい、と言ったわ」

 ちょっと、何この女!

 ……あ、分かった! コレが噂の悪役令嬢!
 最初に王子様と会えなかったりカズロ先輩の冷たい反応とか、原作から変わってきてるんだし、悪役令嬢がいてもおかしくない!

「アタシはユメノ・ブランカ、伯爵令嬢よ? こんな事して許されると思ってるの!?」

 このゲームのヒロインよ?
 それにこの世界の伯爵ってそれなりに偉かったはず。逆らうと大変な事くらい分かるわよね?

「ゾフィ・ベルツ、公爵令嬢よ」

 ベルツ? 公爵?

「だから何よ、退きなさいよ!」
「公爵家にその態度、良いのね?」
「何が? アタシはアンタなんかに用はないのよ!」


 それから、アタシは結局キーノス先輩に会うことが出来ず家に帰ったんだけど。
 お父様にすごく叱られた。
 公爵令嬢に酷い態度をとったとか連絡が入ったとかで、アタシは入学してすぐのテストで上位に入らないと休学処分にされるらしい。

 まぁ大丈夫よね! アタシはこのゲームのヒロインだし!
 明日こそは王子様と出会いイベント成功させなきゃ!

​───────

「っていう夢見たんよ」

 日付が変わって少ししてからご来店されたビャンコ様から、昨晩見た夢の話を聞かされました。
 眠る時に夢を見るのは、記憶の整理を行っている時に見る一時的な記憶の断片だと聞いた事があります。
 どういう記憶を整理したらそんな夢を見るのかと、とても不思議に思いました。

「楽しそうで何よりです」

 想像力が豊かだというのが正直な感想ですが、所詮は夢ですので何か言及するのも違うように思います。

「オレとメル君の扱い酷くない? アイツ人の夢ん中でもふざけんなって思うけど、アイツと恋愛とかもヤダしなぁ……なんか複雑」

 ビャンコ様はメカブを口にし、フンと小さくため息をつかれました。
 この話題を深堀しても何にもなりません。
 ビャンコ様はお疲れなのかもしれませんね。
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