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小さな友は嵐と共に

#6

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 私にフィルマとリィという使い魔が出来てから数日、気温は下がり続け冬の足音が聞こえてきております。
 師匠が帰国してからかなり経ちますし、ようやく殿下へ返礼をすることができそうです。
 一応事前に例の手品師の格好である必要性を伺いましたが、必要ないそうですので普段の格好で庁舎へと赴きました。

 しばらく中庭で待っていましたが、先程から見回りの騎士も職員の方もいません。
 疑問に思っていたところ、目の前の出入口からおとぎ話の王子様のような方が無邪気な笑顔で駆け寄って来ます。

「キーノスさん! 久しぶり!」

 その人物が快活な声で私に話しかけます。
 王太子殿下です。
 私はあるべき姿で接するべく、ベンチから立ち上がり一礼します。

「ご無沙汰しております殿下」
「退院祝いどうだった?」
「これからお見せする手品だけでは返礼できないかと思います」
「やった! 喜んで貰えたみたいで嬉しいよ!」

 殿下は少し得意げな表情でとても喜んでいらっしゃるようです。
 笑顔がとても眩しいです。

「今日は僕休みなんだ、だからキーノスさんが納得するまで手品見せてくれると嬉しい」
「それでは一月ひとつきかけても終わりません」
「じゃあ時間短くして、人数増やしてもいい?」
「人を増やす、ですか」
「どうせなら沢山の人と見たいから、だめ?」

 本日は殿下のみと聞いていたのでそのまま来ましたが、人数が増えるとなると少し話が違います。

「他の方へはどのようにお伝えしているのですか?」
「友人が留学で手品ショーを見れなかった僕に、関税率低下のお祝いに来てくれたって言ったんだ」
「左様でしたか」
「うん、昨日会議で説明したんだ。そしたら『見たい』って言う人が多くて、それでみんなで見たくなったんだ!」

 下心など一切なく本当に本心から仰っているのでしょう、輝く笑顔からそれが伝わってきます。

 手品を披露するなら当然私に注目が集まります。
 殿下に従うべきなのは分かりますが、やはりこのままの姿で目立つ位置に立ちたくないと考えています。

「人が増えるのであれば、一つだけお許し頂きたい事がございます」
「良いよ、どんな事?」
「髪と肌の色を変えても良いでしょうか?」
「早速見せてくれるんだね、もちろん構わないよ!」

 手品ではありませんが、訂正の必要もないでしょう。
 殿下の言うご友人が私と察している方も居るでしょうけど、それが十人を越しているとは思えません。
 少しでも特徴的な部分は変えた方が良いと考えます。

 マルモワの留学生達が言っていた私の特徴はこの髪色と目です。
 その二つなら私は術を用いればある程度誤魔化すことはできます。
 着ている服の染料の一部使用し髪を黒く染めまっすぐに、見えている肌に土の一部を使用し小麦色にします。
 着ていたシャツが白いものに変わりました。

「私はカマルプール出身とお伝えして頂けますか?」

 見目を変えた私を見て、殿下が更に顔を輝かせて拍手をなさいます。

「すごい! 黒いのもいいね!」
「お手数をお掛けして申し訳ありません」
「僕こそ前もって言えなくて申し訳ない、名前はどう紹介したら良い?」
「名前は……」

 私は少し考えて、過去に一度だけ名乗った物を答えます。

「ソニカマハル、とご紹介頂ければ」
「変わった名前だね」
「私もそう思います」

 ついでに私が普段から持ち歩いているペンをメガネに変形させ、失礼ながら庁舎の窓ガラスの一部を薄くし、それをレンズにします。
 そのレンズに弱い幻術をかけ、正面からなら瞳の色だけなら黒く見えるようにします。

 骨格などは変わっていないので、根本的な解決はしない私なりの変装です。
 サチ様に「意味が無い」と言われたので普段はしませんが、こういう場では多少意味があります。

​───────

「ポケットの中にあった物が選んだ手札でお間違えありませんか?」
「合ってる……こんな間近で見ても分かんなかったよ!」
「それは何よりです」

 応接間につれて来られてから早二時間。
 私は主にコインモネータトランプカルテの手品で時間を稼いでいます。
 殿下だけなら対面式の小規模な手品のほうが楽しめると考えた結果ですが、この部屋には今十数名の方がいらっしゃいます。
 殿下含め何名かの方はお掛けになってますが、十名近くの方は立っていらっしゃいます。

「キー……ソニカマハルさんは素晴らしいですね、私も手の内が分かりません」
「前から……手品とは人を楽しませるには持ってこいだな!」

 ビャンコ様とネストレ様、それから仏頂面のイザッコがいるのは想像してました。
 それ以外のほとんどは私の知らない方です。

「では、そろそろお時間も良い頃かと思いますのでこの辺りで」

 そろそろ手持ちのネタも無くなってきています。
 これ以上となると術を使ったものになります。

「じゃあ最後に! 前にもらったお花を僕にプレゼントして欲しいな!」

 輝く笑顔で殿下が仰います。
 その程度なら問題ないでしょう、私はポケットの中のハンカチを取り出し、指を鳴らし花の形を変えます。
 私は立ち上がり、殿下に跪いてから花を差し出します。

「こちらを」

 頭を垂れて殿下が受け取るのを待ちます。

「やっぱり、ソニカマハルさんはこういうのが上手だね」

 殿下は一言声をかけたあと花を手に取ります。
 そのタイミングで私は立ち上がります。

「それでは、これで終幕となります。本日はご鑑賞ありがとうござました」

 皆様が拍手をしてくださいます。
 それに合わせて一礼し、その場を後にしようかと思います。
 それに気づいた殿下が私を留めるように手で制し、他の方へ告げます。

「ビャンコとエルミー二は残って、他は皆業務に戻ろう!」

 イザッコ含め多くの方が部屋から出ていきました。
 今残っているのは私を除けば殿下、ビャンコ様と眼鏡をかけた肩まで髪の伸びた男性です。

「エルミーニさんは僕が参加させたんだ、是非君を紹介したくて!」
「それは光栄です」
「だから肌と髪、戻してくれる?」

 変装した意味を理解されていると思っていたため、予想外の提案に驚きを隠せません。
 殿下のご紹介ですから疑うわけではありませんが……

 私が躊躇っているのに気付いたのか、ビャンコ様が殿下をフォローなさいます。

「エルミーニさんなら大丈夫ですよ。殿下の帰国後で忙しい中来てくれているますし、是非殿下の申し出を受けてあげてください」

 綺麗な微笑みと共に出た発言は丁寧ですが、それを聞いたエルミーニ様のビャンコ様への視線が少し冷ややかです。

「承知致しました」

 先程の人数のままならお断りするところですが、お一人だけなら問題ないでしょう。
 私は肌に纏わせていた土に髪の染料を混ぜた塊を手の上に作り出します。
 こういう時変化カンビャメントは便利だとは思います。
 ただ、伸ばした髪の癖を戻すには一度シャワーを浴びなくてはなりません。

「……本当に術士の方だったとは」
「先程は偽名を名乗っておりました、私はキーノスと申します」
「これはご丁寧に。私はポンペオ・エルミーニと申します、行政機関で外務局の局長をしております」

 私が偽名を名乗っていた事を咎める事無く自己紹介をしてくださいました。
 眼鏡の下の双眸は鋭い物がありますが、対応はとても冷静で物腰は柔らかい印象です。
 笑顔を作って見せたりはなさいませんが、それが逆に信用できると思わせてくれる方です。

「自己紹介も済んだし。キーノスさん、早速で悪いんだけど模擬戦の事教えてくれるかな?」
「模擬戦の事でしたら、ビャンコ様か騎士団長にお伺いすれば良いかと思いますが」
「二人から聞いたんだけどね、僕はキーノスさん知ってるからどうしても違和感があって」

 殿下の発言にビャンコ様が間に割って入ります。

「殿下、報告は済んでいますし彼をここに留めるのも悪いかと思います」

 綺麗に装っているとはいえ、ビャンコ様らしくない気遣いですね。

「模擬戦の当日の朝に依頼されたらしいけど、バリスタのキーノスさんの朝なら仕事終わった直後だよね? そんな時間に呼び出されて模擬戦みたいな目立つ事やってくれるかな~? って」
「実際にやっていただけた事がその証明だと申しております」
「今日の手品だって直前に人増やす話したらさらっと変装してくれたんだよ? 模擬戦に出たのが仮にマーゴ・フィオリトゥーラの姿とはいえ、違和感あるよね」
「目撃者も多数おります」
「そのせいでエルミーニさんが苦労してること思うとさ、ちゃんとした事実確認は必要だと思うんだよね。誤解は良くないよ!」

 なるほど、そういう事でしたか。
 ビャンコ様がどういう説明をなさったのかは分かりませんが、これは詳細に説明をして差し上げた方が良いかもしれません。
 先程のエルミーニ様の視線の意味を少し理解し、殿下の質問に答えることに致しました。
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