56 / 185
凍る道化の恋物語
#7
しおりを挟む
オランディにある騎士団の演習場は、本庁舎から少し離れた場所にある。
広めの土地を壁で四方を囲っだけのような場所で、併設された二階建ての建造物があるくらいだ。
その建物の前には地面より少し高い位置に見学するための座席が設けてあり、今日はいつもと違い騎士団以外の人が多い。
今演習場にいるのは異国の兵士が三人と一人の留学生、騎士団の団員、他は庁舎で働く面々が多数。
これから来月に予定されている騎士団主催の闘技会の模擬戦が行われるというのだ。
しかも初戦が前例のない術士同士の対戦。
これを見たいがために、今日は昼休憩をずらした職員が多かった。
天気は快晴、絶好の模擬戦日和である。
騎士団長のイザッコが演習場の中央に立ち、開始の挨拶をする。
本来なら不要だが、今日の対戦相手の彼をゲストとして紹介する必要があるからだ。
「初戦は現在リモワに滞在中の術士が参加して下さる! 滅多に見れる機会がないので、貴重な機会に騎士団は感謝をするように!」
低く威圧的な声を張り上げる。
が、その場にはイザッコ以外に誰もいない。術士はどこにいるのかと、演習場にいた人々が少しざわめく。
そこへ、どこからともなく一羽のカラスが舞い降りた。
それに続き二羽、三羽……と数が増えていき、数十羽のカラスが群れをなし人の形になって現れた。
黒い人型は頭のあたりから一瞬で赤く染まり、人型の周囲を赤い羽根がふわりと覆う。
人型が立っていたそこには、赤い仮面を付けた黒スーツで黒い長髪の男が立っていた。
「初めまして皆様……光栄にもオランディの騎士団長様からご紹介にあずかりました、私が」
黒い男が指を鳴らす。
ーーパチンッ
音を中心に演習場いっぱいに色とりどりの花が現れた。
観客席から驚嘆の歓声が上がる。
「マーゴ・フィオリトゥーラと申します」
男がオーケストラの指揮のような仕草で手を握ると、花々が花弁を散らしながら消えた。
観客席が再び湧き上る。
「本日はこの様な舞台にお招き頂き誠に光栄です。騎士団長様には、私からささやかな感謝を込めて……」
指揮をするかのような仕草で両手を広げ、手品師がイザッコの方へ向き直る。
そのまま踊るように優雅な一礼をし、再び指を鳴らす。
手の中に赤いバラが現れ、そのままイザッコへ差し出す。
「こちらを」
仏頂面で花を一瞥するもの、受け取ろうとしない。
「おやおや、騎士団長様はご不満のご様子!では」
顔を上げた手品師が指揮者のような仕草でバラを振るい、またしても指を鳴らす。
ーーパチンッ
乾いた音が響いた瞬間、騎士団長の全身が赤い花で飾られた。
「美しく赤い彩りを」
演習場で本日何度目かの歓声が響く。
一人仏頂面のイザッコが一言文句を言おうとするも、それに気付いた手品師が仰々しい仕草で観客席を見やる。
「さて……本日は私と踊ってくださるお客様がいると聞きましたが、どなたでしょうか?」
麗らかに響く声に怯み、イザッコが観客席に向かって声を張り上げた。
「ケータ・マルモワ! 前へ!」
声を掛けられた異国の留学生が慌てた様子で演習場の中央へ走り寄った。
ケータの到着を確認したイザッコが再び声を張り上げる。
「一応言っておくが、騎士団の演習の一部である事を忘れることのないように!」
そして手品師に視線を向ける。
「早くこのバラなんとかしろ、邪魔だ」
「ワガママな団長様ですね、そのお姿の方が美しいですよ?」
「いいから取れ!」
「困りましたね、それでは舞台を感謝で彩る事ができません」
「は・や・く・と・れ!」
「仕方ありませんね」
手品師が指を鳴らす。
イザッコから花が消えてなくなった代わりに、元々イザッコが座っていた辺りが花で囲われた。
「お席を彩らせて頂きました。魅了の香りと共に、本日の舞台をお楽しみください」
イザッコはギロリと手品師を睨みつけると、演習場の隅へと移動した。
そして片手を高く上げ宣言した。
「両者、構え!」
声に反応して、留学生が十数本の氷柱を空に発生させた。
手品師は留学生の方へ向くものの、綺麗な姿勢で立ったままである。
「始めッ!」
イザッコが上げた手を勢いよく下ろした。
「おい、お前も魔法出せよ! 何で戦うんだ!?」
留学生が挑発的な表情を浮かべ、手品師に叫ぶ。
手品師の表情は仮面で隠れていてほとんど見えないが、小さくため息をついたように見えた。
「では、私はこのバラでお相手します」
手品師は手に持っていたバラを剣のように構えた。
「舐めやがって……すぐに後悔させてやるから覚悟しろ!」
怒った勢いで全ての氷柱を手品師に投げつけた。
……こうして、オランディ初の術士同士の模擬戦が開始された。
───────
始まったのを確認したイザッコが花で囲まれた自分の位置に戻ると、隣にいたネストレが声をかけてきた。
「……彼、ですよね?」
「近くで見ると分かるぞ、ずっと無表情だ」
「すごい御仁とは思ってましたが、別人ですね」
昨日の会議に参加していたので、ネストレは手品師の正体がモウカハナのバリスタである事を知っている。
試合開始から攻撃を仕掛けてはいないが、次々と飛んでくる氷柱を何事もなく避け続けている。
「それに、なんですかあの動き」
「……あれじゃビャンコは即死だったな」
「もしかして、彼は術士と関係なくお強いのでは?」
「俺はアイツに本気の喧嘩で一回も勝ったことないぞ」
「ハァっ!?」
ネストレの大きな声に周囲の注目が一瞬集まる。
……が、すぐに試合の方へ視線は戻った。
手品師が時々避けきれなかった氷柱を蹴りや拳で砕きながら、全ての氷柱を回避している。
「声がデカい」
「申し訳ないです、でも彼はバリスタでは?」
「俺とビャンコが構い続けるのも分かんだろ?」
「うむ……何やら色々気になりますが」
「本人に言うなよ、下手するとキレるから」
「なんと、それは気をつけます」
「俺相手だと特に態度悪いんだよなぁ、昔一人で店行ったら一言目に『帰れ』だぞ? よく接客なんか出来るよな」
丁寧な接客態度しか見た事がないネストレには、想像するのが難しかった。
「お、氷柱止んだな。そろそろ反撃か?」
試合開始から十数分経った頃、地面を抉り続けていた氷柱が止まった。
ケータが肩で息をして、手品師を睨んでいた。
───────
「お前……避けてばっかで、少しは……仕掛けてこい……」
息を切らしたケータ様が私を睨みつけます。
数十本もの氷柱を出現させて操っているのですから、相当な魔力量です。
彼と対峙しながら、いくつか気付いた事があります。
「この氷も、私の舞台に彩りを添えてくれます」
地面に突き刺さった氷柱の上に飛び乗ります。
さて、この挑発で私の中の仮説を試します。
「その、舐めた態度! いい加減にしやがれ!」
ケータ様が手のひらを上に向け、力強く握ります。
すると私の足元の十数本の氷柱が私目掛けて飛んできました。
私は氷柱の飛ぶ勢いに合わせて上へ飛び、ケータ様と距離を開けて着地しました。
今ので確信しました、彼の術は水ですね。
それに開始してから演習場に広がるこのニオイ、彼は術士の訓練を受けていないようです。
恐らく水とは知らず、氷を作り出すことができたのでしょう。
彼は自身の魔力を水へ変え、それを凝固させて操っているようです。
加えてもう一つ気になるのが、彼の容姿の特徴です。
確かに濃い化粧と個性的な服装をしているのもそうですが、彼の元の肌色は少し黄味をおび焼けているように見えます。
それに骨格の特徴がサチ様と一致します。
「俺の魔法が当たらないなんて……!」
この『魔法』という単語……ほぼ確定でしょう。
彼はユメノ様やサチ様の同郷から来た、異世界人のようですね。
そうなると、また新たに気になる事が出てきました。
彼はどうして異世界人なのに、こちらで何かを害してるのに消えないのでしょうか?
疑問は残りますが、とりあえず模擬戦を終わらせることにしましょう。
いい加減手品師の真似も疲れました、術はともかく仕草が面倒でなりません。
私はバラを胸に刺してから魔力を練り、姿勢を正して氷柱に意識を向け手を叩きます。
ーーパァンッ
大量にあった氷柱を全て花びら状に変えます。
私の変化は無機物に変化を促せます。
魔力の塊であるこの氷柱なら、かなり自由に変化させられます。
彼は私に大量の武器を与えてくれたようなものです。
「んな、なんだこれ……」
「訓練された術士とまともにやり合うのは私が初めてのようですね」
花びらを操り、私の周囲へ舞わせます。
何割かを魔力の回復に用い、残りは再び手に持ったバラに集めて金属の剣に変質させます。
「この舞台が戦ならやはり花より剣がふさわしい……さぁ! いざ参ります!」
演出じみた口上で彼に向かって剣を構え走ります。
気圧されたのか、ケータ様が尻餅をつき手のひらを前に出して後ずさりします。
「ま、待て! 俺の負けだ!」
私は走るのをやめ、構えを解きました。
それから怯えている彼に歩み寄り、手を取り立たせます。
「今宵は共に舞う事ができ、実に有意義な時間を過ごせました……この美しい時間に感謝を込めて」
私指を鳴らし、持っていた剣を白いバラの花束へ変えます。
花束を彼に渡し、観客席に向かって一礼し声を掛けました。
「これにてマーゴ・フィオリトゥーラの舞台は閉幕です! 再び皆様と会える日を夢見て……」
私は幻術を展開し、周囲に大量のカラスを呼び出します。
そのカラスの数羽は実態があり、私一人くらいなら乗せて飛び去ることが出来ます。
ある程度の高さに飛んだらカラスを屈折率の変わった鏡に変質させ、姿が消えたように見せかけます。
眼下の拍手と喝采を聞きながら、私はタバコに火をつけます。
ビャンコ様からの依頼はこれで充分でしょう。
私はこのまま帰宅して再び着替えた後、今夜の開店に向け準備を進めようと思います。
広めの土地を壁で四方を囲っだけのような場所で、併設された二階建ての建造物があるくらいだ。
その建物の前には地面より少し高い位置に見学するための座席が設けてあり、今日はいつもと違い騎士団以外の人が多い。
今演習場にいるのは異国の兵士が三人と一人の留学生、騎士団の団員、他は庁舎で働く面々が多数。
これから来月に予定されている騎士団主催の闘技会の模擬戦が行われるというのだ。
しかも初戦が前例のない術士同士の対戦。
これを見たいがために、今日は昼休憩をずらした職員が多かった。
天気は快晴、絶好の模擬戦日和である。
騎士団長のイザッコが演習場の中央に立ち、開始の挨拶をする。
本来なら不要だが、今日の対戦相手の彼をゲストとして紹介する必要があるからだ。
「初戦は現在リモワに滞在中の術士が参加して下さる! 滅多に見れる機会がないので、貴重な機会に騎士団は感謝をするように!」
低く威圧的な声を張り上げる。
が、その場にはイザッコ以外に誰もいない。術士はどこにいるのかと、演習場にいた人々が少しざわめく。
そこへ、どこからともなく一羽のカラスが舞い降りた。
それに続き二羽、三羽……と数が増えていき、数十羽のカラスが群れをなし人の形になって現れた。
黒い人型は頭のあたりから一瞬で赤く染まり、人型の周囲を赤い羽根がふわりと覆う。
人型が立っていたそこには、赤い仮面を付けた黒スーツで黒い長髪の男が立っていた。
「初めまして皆様……光栄にもオランディの騎士団長様からご紹介にあずかりました、私が」
黒い男が指を鳴らす。
ーーパチンッ
音を中心に演習場いっぱいに色とりどりの花が現れた。
観客席から驚嘆の歓声が上がる。
「マーゴ・フィオリトゥーラと申します」
男がオーケストラの指揮のような仕草で手を握ると、花々が花弁を散らしながら消えた。
観客席が再び湧き上る。
「本日はこの様な舞台にお招き頂き誠に光栄です。騎士団長様には、私からささやかな感謝を込めて……」
指揮をするかのような仕草で両手を広げ、手品師がイザッコの方へ向き直る。
そのまま踊るように優雅な一礼をし、再び指を鳴らす。
手の中に赤いバラが現れ、そのままイザッコへ差し出す。
「こちらを」
仏頂面で花を一瞥するもの、受け取ろうとしない。
「おやおや、騎士団長様はご不満のご様子!では」
顔を上げた手品師が指揮者のような仕草でバラを振るい、またしても指を鳴らす。
ーーパチンッ
乾いた音が響いた瞬間、騎士団長の全身が赤い花で飾られた。
「美しく赤い彩りを」
演習場で本日何度目かの歓声が響く。
一人仏頂面のイザッコが一言文句を言おうとするも、それに気付いた手品師が仰々しい仕草で観客席を見やる。
「さて……本日は私と踊ってくださるお客様がいると聞きましたが、どなたでしょうか?」
麗らかに響く声に怯み、イザッコが観客席に向かって声を張り上げた。
「ケータ・マルモワ! 前へ!」
声を掛けられた異国の留学生が慌てた様子で演習場の中央へ走り寄った。
ケータの到着を確認したイザッコが再び声を張り上げる。
「一応言っておくが、騎士団の演習の一部である事を忘れることのないように!」
そして手品師に視線を向ける。
「早くこのバラなんとかしろ、邪魔だ」
「ワガママな団長様ですね、そのお姿の方が美しいですよ?」
「いいから取れ!」
「困りましたね、それでは舞台を感謝で彩る事ができません」
「は・や・く・と・れ!」
「仕方ありませんね」
手品師が指を鳴らす。
イザッコから花が消えてなくなった代わりに、元々イザッコが座っていた辺りが花で囲われた。
「お席を彩らせて頂きました。魅了の香りと共に、本日の舞台をお楽しみください」
イザッコはギロリと手品師を睨みつけると、演習場の隅へと移動した。
そして片手を高く上げ宣言した。
「両者、構え!」
声に反応して、留学生が十数本の氷柱を空に発生させた。
手品師は留学生の方へ向くものの、綺麗な姿勢で立ったままである。
「始めッ!」
イザッコが上げた手を勢いよく下ろした。
「おい、お前も魔法出せよ! 何で戦うんだ!?」
留学生が挑発的な表情を浮かべ、手品師に叫ぶ。
手品師の表情は仮面で隠れていてほとんど見えないが、小さくため息をついたように見えた。
「では、私はこのバラでお相手します」
手品師は手に持っていたバラを剣のように構えた。
「舐めやがって……すぐに後悔させてやるから覚悟しろ!」
怒った勢いで全ての氷柱を手品師に投げつけた。
……こうして、オランディ初の術士同士の模擬戦が開始された。
───────
始まったのを確認したイザッコが花で囲まれた自分の位置に戻ると、隣にいたネストレが声をかけてきた。
「……彼、ですよね?」
「近くで見ると分かるぞ、ずっと無表情だ」
「すごい御仁とは思ってましたが、別人ですね」
昨日の会議に参加していたので、ネストレは手品師の正体がモウカハナのバリスタである事を知っている。
試合開始から攻撃を仕掛けてはいないが、次々と飛んでくる氷柱を何事もなく避け続けている。
「それに、なんですかあの動き」
「……あれじゃビャンコは即死だったな」
「もしかして、彼は術士と関係なくお強いのでは?」
「俺はアイツに本気の喧嘩で一回も勝ったことないぞ」
「ハァっ!?」
ネストレの大きな声に周囲の注目が一瞬集まる。
……が、すぐに試合の方へ視線は戻った。
手品師が時々避けきれなかった氷柱を蹴りや拳で砕きながら、全ての氷柱を回避している。
「声がデカい」
「申し訳ないです、でも彼はバリスタでは?」
「俺とビャンコが構い続けるのも分かんだろ?」
「うむ……何やら色々気になりますが」
「本人に言うなよ、下手するとキレるから」
「なんと、それは気をつけます」
「俺相手だと特に態度悪いんだよなぁ、昔一人で店行ったら一言目に『帰れ』だぞ? よく接客なんか出来るよな」
丁寧な接客態度しか見た事がないネストレには、想像するのが難しかった。
「お、氷柱止んだな。そろそろ反撃か?」
試合開始から十数分経った頃、地面を抉り続けていた氷柱が止まった。
ケータが肩で息をして、手品師を睨んでいた。
───────
「お前……避けてばっかで、少しは……仕掛けてこい……」
息を切らしたケータ様が私を睨みつけます。
数十本もの氷柱を出現させて操っているのですから、相当な魔力量です。
彼と対峙しながら、いくつか気付いた事があります。
「この氷も、私の舞台に彩りを添えてくれます」
地面に突き刺さった氷柱の上に飛び乗ります。
さて、この挑発で私の中の仮説を試します。
「その、舐めた態度! いい加減にしやがれ!」
ケータ様が手のひらを上に向け、力強く握ります。
すると私の足元の十数本の氷柱が私目掛けて飛んできました。
私は氷柱の飛ぶ勢いに合わせて上へ飛び、ケータ様と距離を開けて着地しました。
今ので確信しました、彼の術は水ですね。
それに開始してから演習場に広がるこのニオイ、彼は術士の訓練を受けていないようです。
恐らく水とは知らず、氷を作り出すことができたのでしょう。
彼は自身の魔力を水へ変え、それを凝固させて操っているようです。
加えてもう一つ気になるのが、彼の容姿の特徴です。
確かに濃い化粧と個性的な服装をしているのもそうですが、彼の元の肌色は少し黄味をおび焼けているように見えます。
それに骨格の特徴がサチ様と一致します。
「俺の魔法が当たらないなんて……!」
この『魔法』という単語……ほぼ確定でしょう。
彼はユメノ様やサチ様の同郷から来た、異世界人のようですね。
そうなると、また新たに気になる事が出てきました。
彼はどうして異世界人なのに、こちらで何かを害してるのに消えないのでしょうか?
疑問は残りますが、とりあえず模擬戦を終わらせることにしましょう。
いい加減手品師の真似も疲れました、術はともかく仕草が面倒でなりません。
私はバラを胸に刺してから魔力を練り、姿勢を正して氷柱に意識を向け手を叩きます。
ーーパァンッ
大量にあった氷柱を全て花びら状に変えます。
私の変化は無機物に変化を促せます。
魔力の塊であるこの氷柱なら、かなり自由に変化させられます。
彼は私に大量の武器を与えてくれたようなものです。
「んな、なんだこれ……」
「訓練された術士とまともにやり合うのは私が初めてのようですね」
花びらを操り、私の周囲へ舞わせます。
何割かを魔力の回復に用い、残りは再び手に持ったバラに集めて金属の剣に変質させます。
「この舞台が戦ならやはり花より剣がふさわしい……さぁ! いざ参ります!」
演出じみた口上で彼に向かって剣を構え走ります。
気圧されたのか、ケータ様が尻餅をつき手のひらを前に出して後ずさりします。
「ま、待て! 俺の負けだ!」
私は走るのをやめ、構えを解きました。
それから怯えている彼に歩み寄り、手を取り立たせます。
「今宵は共に舞う事ができ、実に有意義な時間を過ごせました……この美しい時間に感謝を込めて」
私指を鳴らし、持っていた剣を白いバラの花束へ変えます。
花束を彼に渡し、観客席に向かって一礼し声を掛けました。
「これにてマーゴ・フィオリトゥーラの舞台は閉幕です! 再び皆様と会える日を夢見て……」
私は幻術を展開し、周囲に大量のカラスを呼び出します。
そのカラスの数羽は実態があり、私一人くらいなら乗せて飛び去ることが出来ます。
ある程度の高さに飛んだらカラスを屈折率の変わった鏡に変質させ、姿が消えたように見せかけます。
眼下の拍手と喝采を聞きながら、私はタバコに火をつけます。
ビャンコ様からの依頼はこれで充分でしょう。
私はこのまま帰宅して再び着替えた後、今夜の開店に向け準備を進めようと思います。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる