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衣類品店に現れた厄災
#2
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カーラ様のお連れの方はメルクリオ様。
カーラ様はメルとお呼びのようで、私もそれにならいメル様とお呼びする事になりました。
メル様は悩んだ末、カーラ様と同じシャンディガフをご注文されました。
お二人にお酒をお出ししたあと、カーラ様から追加で「暖まるご飯」のご注文を頂きました。
開店前に用意していた煮魚と、蒸かした野菜に塩味の強いバターを乗せたものをお出ししました。
「さぁ、メル。遠慮なく食べて! ワタシが荒んだ時はここのご飯とお酒とキーノスに癒されるの! あと飲み仲間?」
「こんな美味しそうな料理、本当に良いんですか?」
「もちろんよ、私も食べるわ!」
お二人がお食事始めてしばらくしてから、新しくお客様がご来店されました。
「どうもこんばんわ」
「いらっしゃいませシオ様。こちらのお席へどうぞ」
シオ様はジャケットとストールを手にお持ちでしたので、カウンターから出てそれらを受け取ります。
シオ様が席に移動している間に、常設している簡易クローゼットに掛けてからカウンター内に戻ります。
「レイシュを」
「かしこまりました」
「今年はそろそろ飲み納めかと思いまして」
「何時でも用意はしておりますので、遠慮などなさらずにご注文ください」
「ありがとう、それは嬉しいですね」
シオ様はそう言いながら片手で肩を抑え首を回します。少しお疲れのようですね。
このやり取りを見つめていた少年に気付き、シオ様が微笑みで返します。
メル様はサッと顔を赤くして、会釈しながら前を向きます。
その様子を見て、カーラ様がシオ様に声をかけます。
「ちょっとシオ、うちの子いじめないでくれる?」
「ふふ、すみません。見慣れないコだったのでつい」
「そうね、紹介するわ! この子はメル、ウチの看板店員よ!」
「カーラのお店の方でしたか、自己紹介が遅れました。私ここでシオと呼ばれており、アスタナーシオ家具店で働いております」
「は、はじめまして! 僕、メルクリオと言います! メルって呼んでください!」
なんだか今日のモウカハナはいつもよりフレッシュな空気ですね。
しかし、普段一人でふらっと来店なさるカーラ様が誰かを連れてくるのは初めての事です。
しかもこんな純真そうなお客様。
シオ様にレイシュをお出ししたころ、少し落ち着いたカーラ様が話し始めました。
「シオも来たし、ちょっと聞いてよー!」
「何かあったのですか?」
「ウチに来たのよ、ユメノ! びっくりしちゃった!」
「え? ユメノさんが君の店に?」
「そうなの! しかも『戦えて破れないかわいいお洋服』とか、意味がわからないこと言い出したのよ!」
かわいいお洋服だけなら、カーラ様のお店で見つけることが出来るでしょう。
しかし戦えて破れない服など、騎士団の装備品でも聞いたことがありません。
「今日の夕方くらいかしらね? 奥の作業室にいたらいきなり大きな声が聞こえてきて」
「すみません、僕がちゃんと応対できなくって」
「メルは何にも悪くないわ! ここでは全部正直に話して、誰も疑わないから!」
「わ、分かりました。じゃあ彼女が来たときたからでも良いでしょうか?」
───────
その日の午後の事。
ティータイムを少しすぎた時間は複数の客が来ることが多い。
メルクリオはその日も客の希望を聞きながら、商品の紹介と説明をしていた。
何点かの商品を選んでもらい、会計が済んだあと。
店の革製品の置いてある辺りに、珍しい格好をした女性がいた。
「いらっしゃいませお客様。何かお探しでしょうか?」
いつもの通りに、微笑みながら声を掛ける。
「ねぇ、ここには装備品はないわけ?」
「装備品、ですか? どういったものをご希望でしょうか?」
「装備っていったらもちろん、鎧とかアーマーとかそういうのよ!」
「鎧ですか? でしたらここではなく、通りの反対側にあるバルトロメオ商店にならあるかと思いますよ」
ここはあくまで衣類品店。
紳士淑女が着飾るものはあっても、鎧などは取り扱っていない。
「あんなゴツゴツしたのじゃなくて、あたしに似合うかわいいのが欲しいの!」
「えぇと、可憐なデザインのお洋服なら別の棚にございますが、お持ちしますか?」
「あるの!? 見せて見せて!」
お店の中央にあるテーブルに案内し待ってもらう。
鎧はともかく……可憐で動きやすいものならいくつかあるので、見繕って持っていく。
「お待たせしました、いくつかお持ちしましたのでご覧になって下さい」
メルクリオは持ってきたものの説明をユメコにするも、なんだか上の空……
「お気に召しませんか?」
「ん~そういうんじゃなくって、防御力とかを知りたいのね」
「防御力、ですか?」
「ホラ普通の服なら1とか、革の鎧なら5とか、そういうのあるでしょ?」
「えぇと、その数字はよく分からないのですけど」
「なんでよ、ここ異世界でしょ? ステータス確認できるとか当たり前でしょ?」
「ステー…すみません、僕には分からないです」
はーっと長い呆れたようなため息をユメノがつく。
「アンタちょっと顔が可愛いからって客ナメてんの? オコチャマな外見だからって客ナメてかかったら許さないわよ?」
「い、いえ決してそんなつもりはなくて」
「ステータスぐらい分かるでしょ? 『ステータス』って言うと見れるのよ!」
「すみません、僕にはなんの事か……」
「ウソでしょ、異世界人の私ならともかく、アンタみたいなこっちの人なら見れるんじゃないの!?」
「すみません、どんなものが見れるんですか?」
「数字並んだウィンドウよ! 知ってるでしょ!?」
───────
「ステータスというのは、高級品の時計を付けてるとか……そういう意味ではないのですよね?」
「はい……本当になんの事かわからなかったのですが、なんでも『ステータス』って言うとそこに表れるそうですが……言ってる今もよく分からないんです……」
カーラ様も詳しい話を聞いたのは初めてだったのか、何か考えているようです。
「ステータス」
右手を手前にかざしてカーラが言いました。
「……何も起きないわね」
「何をしてるんですか?」
「いやね、メルの話聞いててこうやれば私も出来るのかなーって」
「「ステータス」」
メル様とシオ様が同様に右手を前にかざして言いました。
「何も起きませんね」
「僕も……なんか少し恥ずかしいです……」
もっともユメノ様の発言では、ユメノ様も見れないようですが。
「ユメノさんの言い分を整理すると、防御力のある洋服が欲しいようですね。その指標になる数値が分かりませんけど」
「あっ! そういう事なんですね、でもそういう事だと思います!」
シオ様のフォローに表情を明るくしてメル様が答えます。
なんでしょう、どうしてもメル様から少年という印象が抜けませんね。
メル様のお話はこれで終わりではなく、まだこのお買い物は終わらないようです。
カーラ様はメルとお呼びのようで、私もそれにならいメル様とお呼びする事になりました。
メル様は悩んだ末、カーラ様と同じシャンディガフをご注文されました。
お二人にお酒をお出ししたあと、カーラ様から追加で「暖まるご飯」のご注文を頂きました。
開店前に用意していた煮魚と、蒸かした野菜に塩味の強いバターを乗せたものをお出ししました。
「さぁ、メル。遠慮なく食べて! ワタシが荒んだ時はここのご飯とお酒とキーノスに癒されるの! あと飲み仲間?」
「こんな美味しそうな料理、本当に良いんですか?」
「もちろんよ、私も食べるわ!」
お二人がお食事始めてしばらくしてから、新しくお客様がご来店されました。
「どうもこんばんわ」
「いらっしゃいませシオ様。こちらのお席へどうぞ」
シオ様はジャケットとストールを手にお持ちでしたので、カウンターから出てそれらを受け取ります。
シオ様が席に移動している間に、常設している簡易クローゼットに掛けてからカウンター内に戻ります。
「レイシュを」
「かしこまりました」
「今年はそろそろ飲み納めかと思いまして」
「何時でも用意はしておりますので、遠慮などなさらずにご注文ください」
「ありがとう、それは嬉しいですね」
シオ様はそう言いながら片手で肩を抑え首を回します。少しお疲れのようですね。
このやり取りを見つめていた少年に気付き、シオ様が微笑みで返します。
メル様はサッと顔を赤くして、会釈しながら前を向きます。
その様子を見て、カーラ様がシオ様に声をかけます。
「ちょっとシオ、うちの子いじめないでくれる?」
「ふふ、すみません。見慣れないコだったのでつい」
「そうね、紹介するわ! この子はメル、ウチの看板店員よ!」
「カーラのお店の方でしたか、自己紹介が遅れました。私ここでシオと呼ばれており、アスタナーシオ家具店で働いております」
「は、はじめまして! 僕、メルクリオと言います! メルって呼んでください!」
なんだか今日のモウカハナはいつもよりフレッシュな空気ですね。
しかし、普段一人でふらっと来店なさるカーラ様が誰かを連れてくるのは初めての事です。
しかもこんな純真そうなお客様。
シオ様にレイシュをお出ししたころ、少し落ち着いたカーラ様が話し始めました。
「シオも来たし、ちょっと聞いてよー!」
「何かあったのですか?」
「ウチに来たのよ、ユメノ! びっくりしちゃった!」
「え? ユメノさんが君の店に?」
「そうなの! しかも『戦えて破れないかわいいお洋服』とか、意味がわからないこと言い出したのよ!」
かわいいお洋服だけなら、カーラ様のお店で見つけることが出来るでしょう。
しかし戦えて破れない服など、騎士団の装備品でも聞いたことがありません。
「今日の夕方くらいかしらね? 奥の作業室にいたらいきなり大きな声が聞こえてきて」
「すみません、僕がちゃんと応対できなくって」
「メルは何にも悪くないわ! ここでは全部正直に話して、誰も疑わないから!」
「わ、分かりました。じゃあ彼女が来たときたからでも良いでしょうか?」
───────
その日の午後の事。
ティータイムを少しすぎた時間は複数の客が来ることが多い。
メルクリオはその日も客の希望を聞きながら、商品の紹介と説明をしていた。
何点かの商品を選んでもらい、会計が済んだあと。
店の革製品の置いてある辺りに、珍しい格好をした女性がいた。
「いらっしゃいませお客様。何かお探しでしょうか?」
いつもの通りに、微笑みながら声を掛ける。
「ねぇ、ここには装備品はないわけ?」
「装備品、ですか? どういったものをご希望でしょうか?」
「装備っていったらもちろん、鎧とかアーマーとかそういうのよ!」
「鎧ですか? でしたらここではなく、通りの反対側にあるバルトロメオ商店にならあるかと思いますよ」
ここはあくまで衣類品店。
紳士淑女が着飾るものはあっても、鎧などは取り扱っていない。
「あんなゴツゴツしたのじゃなくて、あたしに似合うかわいいのが欲しいの!」
「えぇと、可憐なデザインのお洋服なら別の棚にございますが、お持ちしますか?」
「あるの!? 見せて見せて!」
お店の中央にあるテーブルに案内し待ってもらう。
鎧はともかく……可憐で動きやすいものならいくつかあるので、見繕って持っていく。
「お待たせしました、いくつかお持ちしましたのでご覧になって下さい」
メルクリオは持ってきたものの説明をユメコにするも、なんだか上の空……
「お気に召しませんか?」
「ん~そういうんじゃなくって、防御力とかを知りたいのね」
「防御力、ですか?」
「ホラ普通の服なら1とか、革の鎧なら5とか、そういうのあるでしょ?」
「えぇと、その数字はよく分からないのですけど」
「なんでよ、ここ異世界でしょ? ステータス確認できるとか当たり前でしょ?」
「ステー…すみません、僕には分からないです」
はーっと長い呆れたようなため息をユメノがつく。
「アンタちょっと顔が可愛いからって客ナメてんの? オコチャマな外見だからって客ナメてかかったら許さないわよ?」
「い、いえ決してそんなつもりはなくて」
「ステータスぐらい分かるでしょ? 『ステータス』って言うと見れるのよ!」
「すみません、僕にはなんの事か……」
「ウソでしょ、異世界人の私ならともかく、アンタみたいなこっちの人なら見れるんじゃないの!?」
「すみません、どんなものが見れるんですか?」
「数字並んだウィンドウよ! 知ってるでしょ!?」
───────
「ステータスというのは、高級品の時計を付けてるとか……そういう意味ではないのですよね?」
「はい……本当になんの事かわからなかったのですが、なんでも『ステータス』って言うとそこに表れるそうですが……言ってる今もよく分からないんです……」
カーラ様も詳しい話を聞いたのは初めてだったのか、何か考えているようです。
「ステータス」
右手を手前にかざしてカーラが言いました。
「……何も起きないわね」
「何をしてるんですか?」
「いやね、メルの話聞いててこうやれば私も出来るのかなーって」
「「ステータス」」
メル様とシオ様が同様に右手を前にかざして言いました。
「何も起きませんね」
「僕も……なんか少し恥ずかしいです……」
もっともユメノ様の発言では、ユメノ様も見れないようですが。
「ユメノさんの言い分を整理すると、防御力のある洋服が欲しいようですね。その指標になる数値が分かりませんけど」
「あっ! そういう事なんですね、でもそういう事だと思います!」
シオ様のフォローに表情を明るくしてメル様が答えます。
なんでしょう、どうしてもメル様から少年という印象が抜けませんね。
メル様のお話はこれで終わりではなく、まだこのお買い物は終わらないようです。
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