上 下
142 / 144
4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも

43.故郷はいくつでも

しおりを挟む

 長い別れの挨拶の後、エドワールさん……おじいちゃんとおばあちゃんは扉をくぐっていく。
 その後に、やれやれと首を振りながらも晴れやかなヘクターさんが続こうとして、突然足を止めた。

「……そうだ、一応言っておかないといけないことがあって」

「は、はい……」

 少しだけ空気がひりついた感じがして、背筋が伸びる。
 ただそれは、ほんの一瞬で消え去って、

「ベルディグリは第二の故郷とでも思ってくれていい。
 気軽に遊びにおいで」

 故郷はいくつあってもいいものだよ。
 気さくな笑顔を浮かべて、そう言ってくれた。

 この人は王様だと本当に忘れてしまうくらい朗らかで、孫を見るような優しい目だった。
 おじいちゃんが守ってくれたこの生活を、おばあちゃんとの思い出が詰まったこの家を、そして、大切な出会いをもたらしてくれたこの庭を、いつもの通り大切にしていって欲しい。
 そんな暖かい祈りも一緒に込めて、あぁ私の事を家族と思ってくれているんだと感じる。


「ヒースクリフが連れ出してくれる隙間で、いつか私のおすすめのご飯も連れて行かせてね」

「はい!」


 ちょっとだけヒースクリフさんの肩が跳ねていたけれど、いつかちゃんと予定を取り付けてご一緒したい。
 ちょくちょく分身のようなもので街には出歩くし、変装も慣れたものだし、美味しいものを食べるのも趣味なんだとか。

 奔放なのは良いのですが……とヒースクリフさんは苦い顔をして忠告していて、思わずふふっと声が出てしまう。


「また来るよ」

「モヒートとか紅茶を用意して待っています」


 それはとても嬉しい。
 また柔らかく笑って、今度こそヘクターさんはドアへ……


「ヒースクリフ、今日はお仕事上がって好きにしなさい。
 シェラーナには言っておくから」

「は、はいっ」


 その後に続こうとしたヒースクリフさんを止めて、少しだけ意味ありげな笑みをしてそのまま去ってしまった。
 なんとも言えずに固まっている彼を呼べば、照れ臭そうな表情をして、のそのそとこちらへ歩み寄ってくる。


「良い方向に進めたみたいで良かった」


 そうして私の手を両手で取って、優しく握り込む。


「祖父と大叔父だとわかってはいるんだが……」

「あはは……」


 お二人とも見た目が若い分、頭でわかっていてもギョッとしてしまうらしい。
 割り切るにはもう少しだけ時間が必要だと、自己嫌悪の末にしょんぼり気味だ。

 ……内緒だけれども、そんな姿がまた愛らしいし、少しだけ寂しくなった心にまた暖かいものをくれる。

 私も、そっと手を握り返して、


「折角ですし、お夕飯一緒に食べませんか?」


 もう少し一緒にいたいからと、そう誘った。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

護堂先生の芋掘り怪奇譚

栗槙ひので
キャラ文芸
勤務先の中学校の行事で、西園寺先生とさつまいもを掘らせてくれる畑の下見に出かけた夏也は、迷い込んだ山で思いがけないモノに遭遇する。 ※「護堂先生と神様のごはん」本編を未読でもお楽しみいただけます。 ※ほんのりホラー成分を含みますが、基本的には、本編同様ほんわかコメディ風味です。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

夏の嵐

萩尾雅縁
キャラ文芸
 垣間見た大人の世界は、かくも美しく、残酷だった。  全寮制寄宿学校から夏季休暇でマナーハウスに戻った「僕」は、祖母の開いた夜会で美しい年上の女性に出会う。英国の美しい田園風景の中、「僕」とその兄、異国の彼女との間に繰り広げられる少年のひと夏の恋の物話。 「胡桃の中の蜃気楼」番外編。

氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!

屋月 トム伽
恋愛
ディティーリア国の末王女のフィリ―ネは、社交なども出させてもらえず、王宮の離れで軟禁同様にひっそりと育っていた。そして、18歳になると大国フェンヴィルム国の陛下に嫁ぐことになった。 どこにいても変わらない。それどころかやっと外に出られるのだと思い、フェンヴィルム国の陛下フェリクスのもとへと行くと、彼はフィリ―ネを「よく来てくれた」と迎え入れてくれた。 そんなフィリ―ネに、フェリクスは毎日一緒にお茶をして欲しいと頼んでくる。 そんなある日フェリクスの幻獣フェンリルに出会う。話相手のいないフィリ―ネはフェンリルと話がしたくて「心を通わせたい」とフェンリルに願う。 望んだとおりフェンリルと言葉が通じるようになったが、フェンリルの幻獣士フェリクスにまで異変が起きてしまい……お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。 心の声が聞こえるのは、フェンリル様だけで十分なのですが! ※あらすじは時々書き直します!

フリー声劇台本〜モーリスハウスシリーズ〜

摩訶子
キャラ文芸
声劇アプリ「ボイコネ」で公開していた台本の中から、寄宿学校のとある学生寮『モーリスハウス』を舞台にした作品群をこちらにまとめます。 どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m

藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

星名 泉花
キャラ文芸
「超シスコンな無能巫女」の菊里と、「完璧主義でみんなの憧れ巫女」の瀬織は双子姉妹。 「最強巫女」と称えられる瀬織が中心となり「あやかし退治」をする。 弓巫女の筆頭家門として、双子姉妹が手を取り合う……はずだった。 瀬織は「無能巫女」の菊里を嫌っており、二人は「一方的に仲が悪い」関係だった。 似ても似つかない二人を繋ぐのは生まれつきの「オッドアイ」だけ。 嫌われて肩身の狭い環境……だが、菊里は瀬織を溺愛していた! 「強いおねーちゃんになって、必ず瀬織を守る」 それが菊里の生きる理由であり、妹を溺愛する盲目な姉だった。 強くなりたい一心で戦い続けたが、ある日あやかしとの戦いに敗北し、菊里と瀬織はバラバラになってしまう。 弱さにめげそうになっていた菊里を助けてくれたのは、「天狗のあやかし・静芽」だった。 静芽と協力関係となり、菊里は「刀」を握ってあやかしと戦う。 それが「弓巫女一族」である自分と瀬織を裏切ることであっても。 瀬織を守れるなら手段は選ばないとあやかしに立ち向かう内に、不器用にも支えてくれる静芽に「恋」をして……。 恋と愛に板挟みとなり、翻弄されていく。 これは「超・妹溺愛」な無能の姉が、盲目さで「愛を掴みとろう」と奮闘するお話。 愛を支える「天狗の彼」にとってはなかなか複雑な恋の物語。 【藤の下に隠す想いは、まるで蜜のように甘くて鋭い】

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

処理中です...