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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも
43.故郷はいくつでも
しおりを挟む長い別れの挨拶の後、エドワールさん……おじいちゃんとおばあちゃんは扉をくぐっていく。
その後に、やれやれと首を振りながらも晴れやかなヘクターさんが続こうとして、突然足を止めた。
「……そうだ、一応言っておかないといけないことがあって」
「は、はい……」
少しだけ空気がひりついた感じがして、背筋が伸びる。
ただそれは、ほんの一瞬で消え去って、
「ベルディグリは第二の故郷とでも思ってくれていい。
気軽に遊びにおいで」
故郷はいくつあってもいいものだよ。
気さくな笑顔を浮かべて、そう言ってくれた。
この人は王様だと本当に忘れてしまうくらい朗らかで、孫を見るような優しい目だった。
おじいちゃんが守ってくれたこの生活を、おばあちゃんとの思い出が詰まったこの家を、そして、大切な出会いをもたらしてくれたこの庭を、いつもの通り大切にしていって欲しい。
そんな暖かい祈りも一緒に込めて、あぁ私の事を家族と思ってくれているんだと感じる。
「ヒースクリフが連れ出してくれる隙間で、いつか私のおすすめのご飯も連れて行かせてね」
「はい!」
ちょっとだけヒースクリフさんの肩が跳ねていたけれど、いつかちゃんと予定を取り付けてご一緒したい。
ちょくちょく分身のようなもので街には出歩くし、変装も慣れたものだし、美味しいものを食べるのも趣味なんだとか。
奔放なのは良いのですが……とヒースクリフさんは苦い顔をして忠告していて、思わずふふっと声が出てしまう。
「また来るよ」
「モヒートとか紅茶を用意して待っています」
それはとても嬉しい。
また柔らかく笑って、今度こそヘクターさんはドアへ……
「ヒースクリフ、今日はお仕事上がって好きにしなさい。
シェラーナには言っておくから」
「は、はいっ」
その後に続こうとしたヒースクリフさんを止めて、少しだけ意味ありげな笑みをしてそのまま去ってしまった。
なんとも言えずに固まっている彼を呼べば、照れ臭そうな表情をして、のそのそとこちらへ歩み寄ってくる。
「良い方向に進めたみたいで良かった」
そうして私の手を両手で取って、優しく握り込む。
「祖父と大叔父だとわかってはいるんだが……」
「あはは……」
お二人とも見た目が若い分、頭でわかっていてもギョッとしてしまうらしい。
割り切るにはもう少しだけ時間が必要だと、自己嫌悪の末にしょんぼり気味だ。
……内緒だけれども、そんな姿がまた愛らしいし、少しだけ寂しくなった心にまた暖かいものをくれる。
私も、そっと手を握り返して、
「折角ですし、お夕飯一緒に食べませんか?」
もう少し一緒にいたいからと、そう誘った。
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