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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも
41.溶けて溢れて
しおりを挟む「おばあちゃん……?」
ふと口から出た言葉の後、光は収まっていった。
ヒースクリフさんのマントから抜け出して、柔らかな光の中で輪郭を得ていく影をぼんやりと眺めていると、エドワールさんが前に出て光の中へ手を突っ込んだ。
そして、影の手を取り、優しく引っ張り上げると、棺に入った時のまま白い装束を着たおばあちゃんが現れて、
「……あぁ、ここは……?」
よく知ったとても優しい声が響いた。
とても眠たげで、まだ自分がどんな状況なのかもわからない。
けれども、目の前の泣きそうになっているエドワールさんをまっすぐ見つめようとして、
「僕だよ、コトネ……」
それに応えようとエドワールさんは必死で声を振り絞る。
用意していた言葉が浮かばなくて、名前も伝えられない様子だったけど、
「……蓮介さん、随分とまぁ、若返っちゃって」
おばあちゃんはわかってくれた。
目を覚まし、緩やかに記憶を取り戻して、安堵したように微笑んでいた。
銀の髪や少し骨張った頬を確かめる様に手をそわせ、エドワールさんもその手を愛おしそうに包む。
「こっちが本当の僕だよ」
「そうだったわね……」
遠い昔に出会った異邦……どころか別の世界の人。別の世界の王子様は、橙色の花畑の中で一際美しく、星のような光をもってそこにいた。
ここにあるマリーゴールドはほとんど幻だけれども、いつかの出会いの風景が見えてくるようだった。
約束を守ってくれてありがとう。死を超えて来てくれてありがとう。
ゆっくりと額を合わせるようにして、再会に浸っていたけれども、
「イオリちゃん……?」
おばあちゃんはふと私を見つけて、近寄ろうとするけどうまく前に進めないようだった。
私が歩み寄ろうとする前に、エドワールさんがエスコートするように手を引いてくれて、私の前まで連れてきてくれた。
先に出ちゃってごめんと謝りながら、エドワールさんはおばあちゃんの手を私の掌の上に載せて下がってくれて、
「沢山苦労をかけてごめんなさい……悲しくさせてごめんなさい……」
「おばあちゃん……」
私はおばあちゃんをふわりと抱きしめた。
実体はないけれども、煙のような感触はたしかにあって、その輪郭を崩さないように、とても奇妙な形になってしまったと思う。
おばあちゃんもゆっくりと背中に腕を回してくれた。
「また会えて、とっても嬉しい……」
「私もよ」
嬉しくて、悲しみが雪のように溶けて消えていって、涙が止まらなくなった。
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