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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも

26.陰で一人駒をすすめ

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 やっと出た外の風は、一度も嗅いだことのない花の匂いと魔力が薄い湿気まじりの風だった。
 エドワールさんは遠くを見ながら優しく微笑む。


「本来、ベルディグリのどこか、本当部屋の外に出るだけの機能があればよかったんだけど、なんでかこう…力が強すぎてね」
 気付いたらこの世界のどこかもわからない花畑だったんだよ……」


 眩い黄金を思わせる花々の中心で、何もできないまま佇んで、


「どこに行こうにもアテがないし、魔力切れで動けなくなっちゃってぼんやりしてたらね……」


 閉じ込められて死ぬよりマシだけど、呆気ない幕切れかなぁと思っていた。
 そこへ若い頃のおばあちゃんが慌ててやってきて、エドワールさんを慌てて助けようとしてくれたと、


「何者かも知れない僕を必死で助けて看病してくれて……天使かと思った。
 まぁ……それで色々、色々あったのさ。
 話すと長いからここはいずれね」


 気になることはいくつもある。
 時と場合さえ違えばわくわくするような話だろうけど、今は何故何もしてやれなかったかを重点においてを伝えたいからと、エドワールさんは首を振った。


「この力でここに来た時点で、違う世界に渡る術ができてしまったから……
 僕とヘクターはこの扉の存在を隠すことと、先代王をどうにかしようと動くことにした。
 なるべく穏便に、時間をかけてね」


 身内での骨肉の争い、城の派閥間での争いを避け、他国とも戦争を起こさず、新しい悲劇を起こさないため。
 と、一つ一つ口にしていって、


「……というのはまぁ大きな建前で、コトネがいる世界との繋がりを残しながら、なんとか問題を解決したかった」


 結局、僕の自己満足でしかないと、エドワールさんは笑った。
 無数の可能性がある中で、どこかに一つでも火種あれば、紆余曲折を経てまたこの世界へ目が行きかねない。
 その中でも、今良い形に変化していく差別の解消などはそのまま進めていきたい。

 欲と、八方美人とも言える大きな建前を叶えるために、遠大な計画をヘクターさんと一緒に考えた。


「まず、僕はもう数個ドアを作って、魔力を空にした状態でこの世界へ本格的に亡命した。
 そうすれば魔力を辿って僕を探すとかもできない。
 コトネにもちゃんとその辺り説明をして、こちらで慎ましい生活を一緒に過ごしてもらった。
 その後ヘクターがドアを管理して、先代王が死ぬまで待ちながら、ヘクターが次の王様になれるようちょくちょく運を仕向けた」


 魔力は回復し切らないけれども、世界と世界の間……曖昧な空間に隠れて、ベルディグリの王城に勤める人々の気運を少しずつ変えて、運命をねじ曲げて、
 

「で、先代王が安らかに亡くなられた後、本格的に向こうに戻って仕事をしなければならなくなったのさ。
 こっちの世界で加賀美蓮介は死んだことにして」


 嫌々王座を継いだヘクターさんの治世が安定するまで、陰から障害をずっと片付け続けてきた。
 時に暗殺や地方貴族の反乱を抑え込み、王やその一族を守るための騎士たちを育て上げ、組織して、ずっと……


「……ともかく、先代王の思想を静かに根絶やしにした。
 怖いし、恐ろしいし、ともかく一生懸命働いて、そんなことしてたらもう、何十年か経ってた」


 侵略の可能性の他に、この世界で出来たエドワールさんの家族が、下賜や政略結婚などの駒としてに危害が及ぶ可能性もある。
 ふと脳裏にはシェラーナ様の顔が浮かんだし、お母さんや、その兄弟、その息子、娘……

(わ、私も……?)

 また頭がくらっとしてきた。
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