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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも
17.贈り物
しおりを挟むテーブルの中央、大きく陣取っているのはベリー系の紅色をした焼き菓子だ。
クリームたっぷりのケーキを切り分けてもらい、1ピースもらって頬張れば、甘く濃厚だけど口当たりはさっぱりとしている。
これはいくらでも食べれてしまう……お腹にお肉がついてしまうと頭の隅で思いながらも、フォークが止まらない。
他にもスパイスが効いたあちらの世界のローストチキンのようなものや、さくさくとした食感で塩味の中に柑橘系の風味がするチップスなど、色々と詰まんでいってしまった。
「美味しいです……どれもこれもが美味しいですぅ……」
「それはよかった。もっとお食べなさい」
ご飯を用意してくれたらしいヘクターさんはとても満足そうに微笑んでくれていたし、側のヒースクリフさんも何だかほっこりしている様子だった。
……膨ら蜜とかも、食べ切れるかな。
もっと食べたいから戦略的にいかなきゃいけないかもしれない。
美味しいとわかりきったものを目の前にして、食い意地全開で頭をめぐらせていると
満面の笑みを浮かべたシェラーナ様が私を呼んだ。
「よい食べっぷりで大変結構!
だがな、そろそろ贈り物を渡させてくれまいか?」
あまりにご飯に熱中しすぎて忘れてしまわない内にと、ぽんっと音を立てて黒くて上品な包装のされた箱が、私の手に載せられる。
恐る恐るリボンを解いて、中身を開けば美しい装飾が施されたリップスティックが現れた。
少し温かな桜の色を思わせるそれは、シェラーナ様が私の唇の色に合うものを見繕ってくれたものだという。
料理をするから香りは控えめにしつつ、接客の仕事でも派手すぎず血色をよく見せてくれる。
「あとは使ってみてからのお楽しみだ!」
「お、お楽しみ」
悪戯っぽく笑って、それ以上は教えてくれなかったけど、きっと良い効果だろうとは思う。
……ヒースクリフさんがちょっとだけ困った表情をしていたのは気になったけど。
「俺からも、大したものではないが」
そうして顔を元に戻してシェラーナ様に続くようにヒースクリフさんも小さなプレゼントを私の掌に置く。
開けてみれば、黒曜石のように暗くも美しい光を宿らせたイヤリングが入っていた。
お礼を言おうとすると、ヒースクリフさんがそっと耳元まで顔を寄せて、
「その、もう一つあるんだが、あとで、二人だけの時間を貰えるか?」
「え、はい。勿論です……!?」
小さな声でお伝えしてくれたのを、びっくりしながら了承した。
はぁやれやれというようなヘクターさんの声が聞こえて、一気に照れが湧き上がった。
「では、私からは、とってもご利益あるおまじないを」
すっと、ローブの袖がくるりと軌跡を描けば、一瞬で空気が変わる。
『其方の旅路は遥か遠くまで光照らされ、風は背へ、日は心へ、いつまでもあり続けるだろう……』
喉元に涼やかで心地よいものが通っていくような心地になりつつ、何かを唱えるヘクターさんの周囲には淡い光が集まっていた。
「本気のやつだな」
「本気のやつですね」
シェラーナ様とヒースクリフさんがしみじみと言っている間に、淡い光の群れが私にゆっくりと降り注ぎ、吸い込まれていくように消えていく。
「本気とは……」
「この先、物事が好転しやすくなる。
悪い事があってもすぐに立ち直れるくらいのものに変わったりだとか……
本当に運命が上向きになるんだ」
「騎士で例えるなら輝かしい成果が約束されたようなものだな」
「ひぇ」
お二人曰く、とんでもなく多方面で幸運をもたらしてくれる特別なおまじないで、本来は国の年一度の祭事とか、戴冠式だとか、そういう時にしかやられないようなものらしい。
そんなすごいものを、ぼーっとしているうちに賜ってしまった……
「ふぅ……あとはエドワールかな。
あいつももう少しでくると思うから、その時に」
贈り物は一旦中断ということで、はっと私は冷蔵庫に仕舞い込んだものを思い出す。
ここが、出し時だ!
「では、こちらからも心ばかりのお礼を……!」
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