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4章 マリーゴールドガーデンでいつまでも
5.おでかけの服装
しおりを挟む頂いたワンピースはやっぱりサイズ感ピッタリで、姿見の前でくるりと回れば柔らかく裾が舞う。
異国情緒漂うというか、少しファンタジーな柄は入っているものの、上着などと組み合わせれば日本でも普通に着れる素敵な服で、シェラーナ様には心の底から感謝した……
(うぅ……二度目だけど緊張するなぁ)
髪のセットもメイクも持ち物の最終確認も終わって、あとは時間通りヒースクリフさんがお庭に来るのを待つだけ。
靴を持ってソワソワとお庭にいようかと思ったけど、落ち着かない。
服は絶対に大丈夫だけど、メイクとか、他の色々が変だったらどうしよう……そんな不安はやっぱりある。
ヒースクリフさんの隣を歩いても変じゃない格好になれたのならいいなと、ぐるぐるする思考に一区切りつけて、一度深呼吸した。
「イオリ」
思わず咽せそうになったけど耐えて、ドアから現れたヒースクリフさんを迎えようと立てば、
(あ、いつもの服装とちょっと違う……)
いつもとちょっと違って、かっこよさに磨きがかかったヒースクリフさんが目に飛び込んできて、ほぁー……というような間抜けな感嘆が出てしまった。
黒が基調なのは変わらないけど、ゆったりとして綺麗な柄が入った薄手の羽織に、清潔感のある白いシャツ。足元はシンプルだけど軽くて歩きやすいバブーシュのような靴。
そして髪型が、いつもと違う分け目で軽く纏めていて、爽やかな色気が……
(お忍びの王子様って言われても信じちゃう程かっこいい……)
隣を歩いていて心臓が持つか心配になってきた。
「は、はい! おはようございます!
きょっ⁉︎」
今日はよろしくお願いします。
そう言おうとした途中で、ヒースクリフさんが苦しみ出して言葉を止めてしまった。
「……良いっ」
「え、えっと⁉︎」
「いやすまないついまろび出た……抱きしめたいが、歯止めが効かなくなりそうだ」
「ひぇ……⁉︎」
「……すまない。
えっと、その服はベルディグリのものか?」
「は、はい。
シェラーナ様が」
耐え切ったヒースクリフさんへ必死に伝えようとすれば、しみじみとした「なるほど……」と呟かれた。
「良い見立てをされる……黄色の服よりも大分大人びていて美しいな」
「ああああの、褒め言葉がすごい……あの……」
情熱的だし、かっこよさ五割ましくらいのヒースクリフさんが近くて、顔がとても熱い。
出かける前にキャパオーバーで目を回してしまいそう……
「それにこの服、防御魔法が編み込まれてるな。
ナイフ程度じゃ切れないし魔法も弾くなこれは……とても心強い。
それに、カバンに付けてるお守りはエドワール様か?」
「はい! 入国証代わりにと」
「……何か異変を感じ取れば、騎士がすっ飛んでこれるようにしてるな」
「て、手厚いですね……」
ナイフや魔法を弾くような普通の服を模した高級な服……
大分高性能で強力な魔法の防犯ベルのような入国証……
……もしも暴漢や何やらに絡まれたとして、すっ飛んで来て、ベルディグリ流にスパッとしてしまうのかな。
きっと取り押さえるだけだとは思うけど、ヒースクリフさんの対応を見ていたせいかどうにも思考がそっち寄りに傾いてしまう。
「それだけみんなイオリの事が気になるんだろう」
異国、別世界のお客さん。そういう理由だけではなくて、あの庭で出会える大事な人として。
嬉しくてじーんとしてしまう……血生臭い想像がどこかへ消え去って、はにかんでしまう。
「さて、お手をどうぞ」
騎士としてではないから跪く事もなくそのままの目線で、すっと差し伸べてくれた手を恐る恐る取った。
幸せと、今から向かう別の世界へのドキドキで、今からどうにかなってしまいそうだった。
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