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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔
17.暗雲
しおりを挟む何でそんな人が……?
心当たりは一つだけあるけれども、
「前の小娘の関係か?」
「わからないです……
最近は特に問題なく過ごせていたんで……」
本当に、数ヶ月音沙汰がなかったから、もう終わった事だと思っていた。
「……店内にいる奴の他に、仲間がいる可能性も否定できない。
早歩きできるか?」
ともかく頷いて、詰めてもらったビニールを受け取ってすぐに店を出た。
そこから、ヒースクリフさんが背後に寄り添って歩き出す。
(あ……確かに、誰か追いかけてきてる……)
嫌な人の気配があるのは察知できたけど、具体的な人相までは確認できなかった。
こちらは相手に気づいていないという風に装うため振り返るなどはせず、当たり障りのない会話をしながら、くっつき気味の距離で話をしている。
幸いにも足音は一人だけで、待ち伏せの気配もなさそうだとヒースクリフさんが教えてくれるけど、微妙に集中しきれない……
(距離が、近い……慣れない……)
ヒースクリフさんは護衛のお仕事で慣れているだろうけど、私は全く慣れていない。
手を繋ぐどころか腕を組んで歩くよりも密着した距離感で、ヒースクリフさんの温度が背中にある。
今は完全に騎士モードで、すごく真面目に私を守ろうと気を張ってくれているから何とか頑張りたいけど、とかく気恥ずかしい。
「あ、雨が」
公園を去るあたりから雲行きが怪しかったけど、今になってポツポツと降り出して、段々と雨脚が強くなっていく。
折り畳み傘を取り出そうとしたけど、ヒースクリフさんにそっと止められて、
「今だ急げ」
突然手を取って、引っ張られるような形で走り出した。
傘がないから急いで家に帰るという不自然ではない形で、相手との距離を離していく。
「家についたらまず家には入らず、すぐ門の横の塀に隠れて」
少し冷えるが我慢してくれとも伝えられつつ、首肯した。
髪や服が水を吸い重くなって、段々と足がもつれそうになるけど、何とか転ばないような速度に合わせて走ってくれて、無事に家まで到着する事ができた。
言われた通り門の横、塀の部分に身を隠した瞬間、ヒースクリフさんは追いかけてくる人影に対してバッと振り返り、そして、
「いッ⁉︎」
相手の太い腕を捕まえて、筋を極めた後、そのまま地面に叩きつけてあっという間に制圧してしまった……
剣や魔法を使わなくても、ものすごく強い。すごい。
「ぼ、暴力反対! 誰か、誰かぁ! 助けて‼︎」
感動も束の間、薄らと聞き覚えのある声だとわかって、血の気が引いた。
……やっぱり、心当たりの通りだった。
最近何事もなかったから、もう収まったものかと思っていたけど、違ったらしい。
他二人が強烈すぎて忘れていたけど、この人もいたと思い出してしまった。
「叔父さん……」
叔母さんの旦那さんでエリザちゃんのお父さん……何となく要件は見えてきたから、気を強く持たなきゃ。
拳を握りしめつつ、向かい合うべく前に出た。
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