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3章 長い雨の紫陽花と晴れ間の朝顔

10.嬉しく恥ずかしく

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(どうしよう……着替えるべき? 力入りすぎって困惑させちゃったりとかしないかな……?)

 悩むけれども、ここで着替えに入れば、きっと20分は待たせてしまう。
 それは良くない。約束の時間を指定したのは私だし、ヒースクリフさんは日本を楽しみにして来てくれている。

 ……深呼吸をして、腹を括った。
 隣を歩くのが恥ずかしいとか、そんな感じの反応だったら、謝りながら着替えの時間を頂こう。

 お庭への扉を開けば、ヒースクリフさんはすぐ前まで来ていた。

 黒いポロシャツのような上に細身の黒いパンツ。いつもの色合いだけど、歩きやすそうな靴やベルトに少し白の差し色が入っていておしゃれだ。
 シンプルな服装がヒースクリフさんのスタイルの良さを引き出しているようにも思える。

(ともかく、かっこいいや……)

 先週、騎士としてのヒースクリフさんを見た時と同じような言葉が思い浮かんだ。

 ヒースクリフさんはというと、こちらを見て呆然と立ち尽くしてしまっていて、


「どうかしましたか……?」


 やっぱり似合わなかったかな……いつもの格好の方がいいかな……不安になりながら尋ねてみると、


「その、とても綺麗で惚けてた。
 花の妖精かと思った」


 不安を消しとばすついでに、こっちが本気で照れてしまうような優しくも恐れ多い褒め言葉を頂いてしまって、


「……ひゃぇ」


 虫が落ちる時の羽音のような弱々しい悲鳴が出た。
 一気に熱をもって真っ赤になってしまった顔を手で隠すと、今度はヒースクリフさんがあわあわとし出す。


「あ、いや、すまない。
 いつも可愛いし眩しいんだが、今日の格好が特に似合っていて……!」

「ひぇぇ……あ、ありがとうございます……?」


 弁解しながらも褒め殺してくる……!
 照れが止まらない……良かったとは思うけど、顔から火が出そう。

 何とか頬の熱をパタパタと手を扇いで冷ましつつ、お出かけの準備をしてしまおうと思う。

(……このままいると、照れて動けなくなりそうだし)

 観光! 案内! そんな感じで気持ちを切り替えて、ヒースクリフさんをキッチンへ案内した。

 ツノがちゃんと隠れるか、私の家で確認したいとのことなので、玄関に靴を運びながら廊下の姿見まで連れて行く。

(どうやってツノを隠すんだろう? 魔法の道具とは言っていたけど……)

 一応ダメそうだった時のためのパーカーも、キッチンの椅子の上にブランケットを置いて隠してあるから、すぐに取ってこれるようにはしている。

 黒い石がついたシルバーリングを両方のツノに一個ずつ嵌めていくのを見やりながら、そわそわとしていると、


「よかった。ちゃんと消えたな」


 一瞬ツノのあたりがぐにゃりと歪んだように見えたと思ったら、次の瞬間にはツノがなくなっていた。
 ヒースクリフさん曰く、無くなったわけではなくて見えなくしているだけらしく、実際ツノがあるあたりを触れさせてもらえば、確かに硬い感触があった。
 

「おぉ……とっても新鮮です」

「変じゃないか?」

「ツノがないヒースクリフさんもかっこいいです!」


 正直に感想を言ったつもりが、今度はヒースクリフさんの頬が真っ赤に染まった。


「……なるほど。嬉しいが、照れる」


 さっきの私もそんな感じだったんですよ……
 意図せずお返ししたみたいになってしまったけど、ヒースクリフさんの照れる姿は可愛らしい。

(本人に言うとまた困惑させてしまいそうだから黙っておこう……)

 心にそっと言葉をしまって、ヒースクリフさんの照れが引いたのを見計らいつつ、切り出した。


「では、お散歩にいきましょう!」
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