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2章 桜色の春と菫色の空
9.今後の備え
しおりを挟む最寄り駅から家は近いけれども、葵太さんのご厚意に甘えて、家まで送ってもらう事になった。
乗り込んだ車から、甘い花の香りがする。
(配達の時間を縫ってきてくれたんだ……)
今度会ったら、いつもありがとうの気持ちを込めて、葵太さんの好きなレモンパイでも焼こう。
そう心に決めつつ、
「まだ諦めてませんよね……」
運転席に座った葵太さんに、エンジンをかける前に話しかけた。
「あの様子じゃそうだろうな。
これからは、手段を選ばないかもしれなくてイヤだなぁ」
「た、例えばですけど嫌がらせとかですよね……」
「近所迷惑レベルのやつだったらありえそうだよな。
石投げ込んだり、変な噂撒いたり……」
聞いていてゾッとする。
最悪のパターンを考えておくことに越したことはないけど、そんなに幼稚で酷い事をするのかと、
(でも、やっている姿が想像できちゃうのがまたイヤだなぁ……)
叔母ならやりかねない。そう思うと、またため息が出てしまった。
「監視カメラとか置くか?」
葵太さんの店でも、確か警備会社に依頼していたはずだ。
カメラとか、鍵の対策とかだとか、異常の検知をするセンサーだとか……
よくはわからないけれども、そういうのがあった方が一人暮らしなのもあるし、安心できるかもしれない。
「うーん……そのあたりは前向きに相談させてほしいです」
「もちろん。気軽に聞いてくれ。
あとは、その……庭のお友達にも相談してみたらどうだ?」
それも、少しだけ考えた。
ヒースクリフさんが使える魔法。別の世界での防犯方法を聞いたりと……
(いや、でも、魔法が使える前提のものが多そうなんだろうけど)
一応聞いてみるだけ聞いてみようかとは思う。
それでも、ヒースクリフさんが来てくれるおかげで、大分安心して生活できている感じはある。
お茶会も楽しみつつ、一人でいる時間も減らしてくれて、とてもありがたい。
(葵太さんもそうだけど、本当に感謝が……)
また、ため息が出た。本日何度目だろう。
「さて、そろそろ出るぞ」
「はい。よろしくお願いします」
エンジンをかけはじめたので、私は静かに窓から外を見た。
駅前に一本植えられている桜が、八分咲きになっていて、少しだけ花びらを舞わせていた。
(もう時期満開かな……)
そう思いながら、ふとバックミラーが目に入って、戦慄する。
そこに、叔母が今日着ていたワインレッドのスーツが見えたのは、気のせいだと思いたかった。
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