上 下
28 / 144
2章 桜色の春と菫色の空

7.拒否

しおりを挟む

「これからの事を考えて、と言いますけど……
 それを考えるなら、尚のこと叔母さんに任せられません」


 決意を込めて、まずそう伝える。
 話したい事はある程度まとめてきたから、適切な形で答えを出していく。


「そんな事……ねぇイオリちゃん、話を聞いて?
 まず資料を見てちょうだいよ、こんなに素敵な」

「話を遮らないで下さい」


 怒りをそのままぶつける事をせず、しっかりと言葉を選んで投げかける。
 本当だったら癇癪を起こしてしまいそうなのをぐっと抑えて、喉が熱を持つ。


「ともかく、叔母さんには信用がありません」


 そう、正直に伝えれば、叔母がおろおろとし出す。
 ……こちらが強気な事を言ったから、少し虚を突かれたみたいだ。


「……あ、怒っている事があるなら謝るわ。
 しっかりと土地を役立てる策とか、イオリちゃんの今後とか考えてるの。
 だからそれを説明させて?」

「いいえ、それ以前の問題です。
 私は嫌だって言いましたし、おばあちゃんの家を壊したくないとお伝えしました。
 これ以上執着されるのは、とても迷惑です」


 溜まりに溜まった怒りを、小さくて鋭い棘に変えて、言葉に乗せる。
 あんまり強い言葉は言えないけれど、否定の意思は明確に……

(しっかりとした否定は、本当に言い慣れないけれども、ここで腰が引けたらだめだ……)


「迷惑だなんて、ひどいこと言うわ……
 ちゃんと考えてる? 私こそイオリちゃんが信用できないわ。
 ついでにそこの後見人さんも。
 ねぇ、ほら、いいから資料を」


 辛いことを言われても、苛立ちで心が磨耗しても、それを聞いてくれる人がいるから……

(恐れずに、言葉を出す……)

 弱気になりそうなのを、拳を握りしめて堪える。


「どちらが、酷いと?
 嫌だと言っているのに、人の心や考えを無視して自分の話だけ進められて……
 叔母さんは私のため、今後のためって言いますけど、本当に私のことを考えての提案じゃないってわかっていますから。
 叔母さんが、マンションでお金儲けしたいだけでしょう?」

 
 あぁ、叔母が反論の言葉を呑み込んだ。図星だ。

(そんな、何でわかったみたいな顔をされてもなぁ……)

 この人はやっぱり、自分と自分の家族の事しか考えてない。
 ていよく土地と家の権利を奪って、適当に理由をつけて私を追い出すつもりだ。

 改めて、わかった。もう充分だ。


「だから、叔母さんの話は受け入れられません」

 これ以上の相談は無駄です。
 私は強い意思を持って、そう言い切った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...