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1章 少女と黒騎士の邂逅

9.大丈夫ではない

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 テーブルに座って、目を合わせて話して、改めて気付けた事がある。

 ヒースクリフさん、ものすごく、隈が濃い。
 それはもうべっこりと、目元に黒い影を作ってる。

 それに加えて肌は血の気がなくて、明らかに休息やきちんとした食事が取れていないという事がわかる。


「確かに、最近は忙殺されていたが、問題ない」

 キッパリ言い切ってくれるのはいいんだけど、不安だなぁ。
 真面目な人の、こういう時の大丈夫は、あんまりアテにならないような気がする。

 ならばと、

 
「じゃあ、ヒースクリフさんの話は、私が聞くっていうのはどうでしょう?」


 お返しのような提案をしてみた。


「それは……」

「仕事の愚痴でも……その、もっと他の悩みでもです。
 話しづらかったら、気分を紛らわせるような何でもない話でもいいですから」


 【別世界の関係のない誰か】だからこそ、私だって聞ける事がある。

 私だけが聞いてもらうのは良くない。
 お茶会の場なのだから、お互いの話をやりとりをしてこそだ。

 ヒースクリフさんの切長な瞳が目一杯見開かれた後、ふっと小さく吹き出して、


「そうしよう。ゆっくり、話せるところから話そうと思う」

「はい」


 何度目かのヒースクリフさんの笑顔が眩しい。

 この人は、こんなに優しく、綺麗に笑うのかと思った。
 心に日が差すように、悲しかった事を溶かして流してしまうかのように、こちらまで微笑んでしまう。


「大丈夫か!?」

 気が付けば、また涙が溢れてしまった。
 微笑みながら泣いているという変な状態で、今度は止まる気配がない。

 困った。非常に困ったけれども、何とか止めるしか……


「大丈夫、です……」

「その大丈夫はアテにならないな」


 さっきヒースクリフさんに思ったような事を、今度は自分が返されてしまった。

 ぼたぼたと、涙は止まらない。
 雨が降ったようにテーブルへ水跡をつけて、木目に染みて消えていく。

 大丈夫と繰り返し伝えようとすれば、言葉を塞ぐようにハンカチを差し出された。

 差し出すだけでヒースクリフさんは何も言わないが、受け取っても大きな手はハンカチを離さない。
 無言で、目もとに当てるようにと促してくる。

 力づくで押し付けようとはしないけど、こちらが返そうとしても手はびくともしない。


 少しだけ抵抗した後、恐る恐るハンカチを目元へ持っていったところで、やっと手が離れていった。

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