上 下
56 / 59
4章:ブルーフラワーズ

15

しおりを挟む
「は、早くないですか⁉」

「これなら生花であり、染めていないという条件が満たせるかも」


 幸人は魔道具の山々に半分埋もれていた今理を引っ張り出し、持ってきた本『ズーズー・ア・ゴーゴーの贋作』を見せた。


「……あり、かも」


 目が覚めたような顔で、今理は本を受け取った。
 この魔道具で書かれた物は、仮初ながら命を吹き込まれる。
 瑞々しい生花の青いバラを作りたいと願いながら描き込んだのなら、きっとその通りのものになる。
 ベリルが作った贋作の魔道具ではあるものの、効果は実証済みだ。
 本物の花ではないが、確かに生きた花が出来上がる。ルールの穴をつけるかもしれない。


「……え、でも何で力の正位置? で、これを見つけられたんですか?」

「カードの意味というよりは、絵柄のライオンが後から引いたカードの意味にはまった感じです」

「あ、あー……なるほど、なるほど……⁉」


 絵柄かぁ、盲点だったぁと、今理はしみじみ呟いた。私は視野狭窄になりやすいなぁとも内省していた。
 他の結果が大体カードの意味から読み取れたのもあり、気付けたのは本当に偶然だったと幸人は一応フォローする。


「今理さんの印象に残っている内の一つが猫だったという感じですかね?」

「確かに……そうかもです。
 柔軟な発想力、流石、素晴らしいです」

「猿投山先生のご教育の賜物かもしれません」

「あの人が教えてくれるのは、近所の美味しいお菓子屋さんと仕事のさぼり方だけかと」

「辛辣ですね」


 気を許しているからこその辛辣さに、幸人は微笑んだ。


「あ、でも、絵の具とか色鉛筆とかあったかな……?」


 軽い気付きから、今理の顔がどんどん青ざめてくる。
 商店街の店終いは早い。今どれだけ全力で走っても文房具屋や画材屋は閉まってしまう。
 電話で今から向かうから待っていてなど、融通が利く相手でもない。
 コンビニで買えるとしても赤ペンやボールペンが良いところだろう。


「大丈夫です」


 そんな今理の不安を取っ払うように自信に満ちた声色で、幸人は自分の鞄の中を漁り始めた。
 仕事で使うのでどの鞄にも仕込んであるものだと、取り出したものは、


「これさえあれば十分。写実的に描けます」


 シャーペンと5色の好きなインクを装填できるマルチカラーボールペンだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...