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4章:ブルーフラワーズ
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しおりを挟む「まず、幼少期はあらゆる物を先読みしては褒められて、天狗になって……
両親は私を予知能力のある娘として売り出そうとしたんですよ。
それは祖父祖母に阻止されたんですが、それから疎遠になっちゃって」
両親が沢山褒めてくれた事をよく覚えている。
嬉しくて、もっと褒められたくて、両親が幸せそうに笑うのが見たくて、尋ねられた事を片っ端から調べる事で尽くした。
子供のつたない言葉でしか伝えられなかったが、それでも結果的に有益な先物取引や不動産取引ができたというが、両親の欲望は増長していった。
気が付けば子供へのまっとうな愛情は消え失せ、金の成る木として枯れるまで使い果たされそうになっていく。
それに対し、祖母と祖父が待ったをかけたのだ。
幼少期には理解できず、大人になって理解しても他人事のようにしか思えなかったが、大事ではあった。
「で、祖父からも口酸っぱく言われてたので、気を付けようと思った小学校では大丈夫でして、むしろ尊敬されていたくらいです。
抜き打ちテストを抜き打ちじゃなくしたくらいで……」
「それは確かに尊敬されそうです」
「それで……」
トラウマの記憶を言葉に変換しようとして張り詰めた気持ちになるが、一口ジュースを飲んで和らげる。
「ちょっと調子に乗ってたんです。良い事、みんなの役に立つことなら能力を使っていいんだって。
中学の頃、友達がいじめられてたので、すぐにいじめの主犯格をつきとめたんです。
……結果、いじめのターゲットが私に移っちゃって、それはそれはもう」
理屈を吹っ飛ばして探り当てるという欠点も、理屈自体を探ってしまえばいくらでも説明できる。
しかし、どうしてそんな事がわかったのか。
どうしてそれが証拠だとわかったのか。その場にいなかったはずの今理が、証言と証拠を引っ張り出して、全て言い当ててしまった。
理屈を守った行動のようで、全く守れていない。
そんな底知れない気味悪さから、クラスメイトは今理を一番の異物と認識した。人の扱いをしなくなった。
病気を持つネズミや、不快害虫のような扱いだったと回想できる。
友好的だったクラスメイトたちが掌を返したように酷い態度へ変わったのは、今でも思い出す度血の気が引くほどショックだった。
助けたはずの友達も、またいじめられるのは嫌だからと遠巻きに見つめてくるだけで、助けてくれない。その虚しさも忘れられない。
「幸いすぐに別の学校に転校したので、無事生きています。
ただし、良い事をしたはずなのに何故こうなっちゃったのかって落ち込みまして、ずっと悩んでいたんです。
実は魔法自体、良いものではないのでは? って」
何を起こすでも、世の中の理を超える事自体が良くないのかもしれない。
現代の、一般人の中で暮らすのなら猶の事。
与えられた能力は強くても、暮らしには不必要であり、何かしらの不幸のもとになる。
「魔法はひとさじの砂糖って言われて来たんですけど、わかんないです。
今もわかんないまま使っています。
どうかまた間違えませんようにって思いながら、ずっと」
大人になって喫茶店の店長を任されるようになった今も変わらない。
昔からの常連は満足そうにしているが、正しいという手ごたえを感じられない。
自分では計り知れぬところで、探す対象にもできないような小さな事がきっかけで、また何か事件が起きるかもしれない。
今理は、ずっと恐れていた。
「……大丈夫」
「へあっ⁉」
気付けば項垂れ、笑顔もひきつったものになっていた今理だったが、幸人に手を握られ、弾かれたように彼を見た。
「今理さんなら、もう間違えない」
「い、言い切りますね?」
「……今理さんは、はじめて会った時から正しく、ひとさじの砂糖をくれましたよ」
なだめるように、手の熱から心からの気持ちが伝わるよう祈るように、幸人は今理の手を柔く握ってそう答えた。
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