上 下
52 / 59
4章:ブルーフラワーズ

11

しおりを挟む

「まず、幼少期はあらゆる物を先読みしては褒められて、天狗になって……
 両親は私を予知能力のある娘として売り出そうとしたんですよ。
 それは祖父祖母に阻止されたんですが、それから疎遠になっちゃって」


 両親が沢山褒めてくれた事をよく覚えている。
 嬉しくて、もっと褒められたくて、両親が幸せそうに笑うのが見たくて、尋ねられた事を片っ端から調べる事で尽くした。
 子供のつたない言葉でしか伝えられなかったが、それでも結果的に有益な先物取引や不動産取引ができたというが、両親の欲望は増長していった。
 気が付けば子供へのまっとうな愛情は消え失せ、金の成る木として枯れるまで使い果たされそうになっていく。
 それに対し、祖母と祖父が待ったをかけたのだ。
 幼少期には理解できず、大人になって理解しても他人事のようにしか思えなかったが、大事ではあった。


「で、祖父からも口酸っぱく言われてたので、気を付けようと思った小学校では大丈夫でして、むしろ尊敬されていたくらいです。
 抜き打ちテストを抜き打ちじゃなくしたくらいで……」

「それは確かに尊敬されそうです」

「それで……」


 トラウマの記憶を言葉に変換しようとして張り詰めた気持ちになるが、一口ジュースを飲んで和らげる。


「ちょっと調子に乗ってたんです。良い事、みんなの役に立つことなら能力を使っていいんだって。
 中学の頃、友達がいじめられてたので、すぐにいじめの主犯格をつきとめたんです。
 ……結果、いじめのターゲットが私に移っちゃって、それはそれはもう」


 理屈を吹っ飛ばして探り当てるという欠点も、理屈自体を探ってしまえばいくらでも説明できる。
 しかし、どうしてそんな事がわかったのか。
 どうしてそれが証拠だとわかったのか。その場にいなかったはずの今理が、証言と証拠を引っ張り出して、全て言い当ててしまった。

 理屈を守った行動のようで、全く守れていない。
 そんな底知れない気味悪さから、クラスメイトは今理を一番の異物と認識した。人の扱いをしなくなった。
 病気を持つネズミや、不快害虫のような扱いだったと回想できる。

 友好的だったクラスメイトたちが掌を返したように酷い態度へ変わったのは、今でも思い出す度血の気が引くほどショックだった。
 助けたはずの友達も、またいじめられるのは嫌だからと遠巻きに見つめてくるだけで、助けてくれない。その虚しさも忘れられない。


「幸いすぐに別の学校に転校したので、無事生きています。
 ただし、良い事をしたはずなのに何故こうなっちゃったのかって落ち込みまして、ずっと悩んでいたんです。
 実は魔法自体、良いものではないのでは? って」


 何を起こすでも、世の中の理を超える事自体が良くないのかもしれない。
 現代の、一般人の中で暮らすのなら猶の事。
 与えられた能力は強くても、暮らしには不必要であり、何かしらの不幸のもとになる。


「魔法はひとさじの砂糖って言われて来たんですけど、わかんないです。
 今もわかんないまま使っています。
 どうかまた間違えませんようにって思いながら、ずっと」


 大人になって喫茶店の店長を任されるようになった今も変わらない。
 昔からの常連は満足そうにしているが、正しいという手ごたえを感じられない。
 自分では計り知れぬところで、探す対象にもできないような小さな事がきっかけで、また何か事件が起きるかもしれない。
 今理は、ずっと恐れていた。


「……大丈夫」

「へあっ⁉」


 気付けば項垂れ、笑顔もひきつったものになっていた今理だったが、幸人に手を握られ、弾かれたように彼を見た。


「今理さんなら、もう間違えない」

「い、言い切りますね?」

「……今理さんは、はじめて会った時から正しく、ひとさじの砂糖をくれましたよ」


 なだめるように、手の熱から心からの気持ちが伝わるよう祈るように、幸人は今理の手を柔く握ってそう答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...