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4章:ブルーフラワーズ

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「……まじでぇ」

 せっかくの休日なのになんてこった。
 ともかく足早にカフェキュエンティンへ戻ることにする。
 今日中とは、おそらく日付変更ギリギリの23時59分59秒まで。今はもう夕方だ。

(せめて朝からスタートで一日中にしてよぉ……)

 残り8時間弱。カフェの仕込みもある。雑談会の事もカフェの仕事の事も知っているはずだというのに、あえてこの時を狙ってきた雰囲気もある。

(明日も臨時休業とか嫌だぁ……売上ぇ……)

 予定に入れていない休みは客を混乱させる上に、自分の調子まで狂う。
 そしてなるべくなら売り上げを獲たいのだ。決してカフェキュエンティンが赤字なわけではないが、お菓子と珈琲のブレンドについて研究もしたいのだ。

(くっそぉ……まぁ、さっさと終わらせる以外ないか)

 自分ではどうにもならない強さの魔女相手なら、さっさと満足させて解放してもらった方がいい。力を使わなくてもわかる。今理は嫌々ながら気持ちを切り替えた。
 幸い、一個目の花に関してはアテがある。
 カフェキュエンティンにたどり着き、カウンター裏の小さな冷蔵庫を開き、紫色の何かが入ったジャム瓶を取り出した。


「……これでいけるかな」


 ヴァイオレット、すみれのエディブルフラワー。
 砂糖漬けにして、夏限定のサイダーやチーズケーキの飾りに使おうと思い、昨日少しだけ購入してみたものだ。
 瓶から花一つ分取り出し、手鏡をかざしてみれば、

(お……)

 スミレは霞のようになり形をなくし、空気に溶け、手鏡の窪みへと流し込まれていった。
 最後には青紫の美しい宝石に変わり、煌めく。

(よし! とりあえず生花であればOKって感じかな?)

 雑に三つの花を集めろと言っていただけで、細やかな条件は言われていない。
 一応力を使って探りをいれてみたが、それであっているようだ。
 造花と、原型をなくしてしまったものがダメ。あともう少し何かありそうだと深く探ってみようとしたが、


『おっと、それ以上先はお楽しみでとっておくんだね』

「何がお楽しみだよ……」

『ひとさじ以上の砂糖は楽しみを腐らせちまう。
 んじゃ、そういうことで」


 大魔女の妨害が入ってしまった。
 祖母の方が場数も知識も実力も上だ。今理にはどうする事もできず、無理やり探ってみようとしても、靄がかかったように何も導きだせなくなってしまった。


「……まずは、一個目」


 面倒くさいが祖母のゲームに付き合わなければ。

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