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4章:ブルーフラワーズ

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 今日のカフェキュエンティンは休業。
 三日前から出入口に張り紙で告知しておいたから問題ないはずと、今理は祖父の隠居先へ顔を出しに行った。
 月一の生存確認と近況報告名目の雑談会だ。

 ここに、夏になると祖父が持て余した時間で作った野菜がついてくる。
 祖父が「野菜目的かな」と揶揄すると、今理はゴマクッキーをそそくさ差し出して「まぁまぁ」などと言う。そんな茶番を何度も繰り返していると、あっという間に夕方になった。

 暗黙の了解で、雑談会は朝から夕方までと決めている。
 夕方は休んだ分のカフェの仕込みに追われる。引き留めることは簡単だが、元々カフェキュエンティンの店長だった祖父は、そのあたりの大変さをよく理解していた。


「おばあちゃんによろしくー」

「あぁ、今グリーンランドにいるってさ」

「え、どこだって?」


 しかし、思わずスマホを取り出し調べてしまうような情報が投げかけられ、今理の滞在時間がちょっとだけ伸びた。
 これもまた、二人の雑談会の一興だった。

 流れで時間を確認すれば16:00。夏だからまだ夕焼け空にはならない。
 少しだけ蒸し暑さがマシになって、楽な帰り道になったとは思う。


「じゃ、また近々」

「あぁ」


 外に出ればいつもより少しだけ広い空と、住宅街の景色が目の前に飛び込んでくる。


(……元気そうでよかった)


 祖父、それから祖母も。
 二人ともお互いへの信頼が厚いから、単独行動を取り続けていても寂しくならないらしい。
 祖父は家庭菜園、祖母は魔道具蒐集に夢中になって、やり取りはスマホのメッセージと電話。
 たまに祖母が帰って来た時は片時も離れないくらいの仲睦まじさだが、一定期間後祖母はまた旅に出る。

(そういえばおばあちゃんにいつから会ってないんだろ……まぁ元気そうだからいいんだけど)

 特に祖母は唯我独尊を地で行くような人物だ。
 非常に力の強い魔女で、一般人の文化が肌に合わないだとか何だとか言って、フラフラとずっと旅をしている。
 旅の目的が魔道具蒐集に切り替わったのは最近だが、賞金稼ぎまがいの事をしたり、幽霊退治をしたりなど、ファンタジー漫画の登場人物みたいな事をしているらしい。

(大冒険なのはいいこと……うん)

 祖父の隠居先だけではなく、カフェにも顔を出す時は決まって今理をからかうだけからかって去っていく。
 今理的には、つい最近やってきた宇津川よりも苦手な部類の嵐だ。

(まぁ、普通に会いたいよ。祖母と孫的に、普通に……うん?)

 そう思っている傍から祖母の気配を感じ取ってしまった。
 正確には、祖母の魔力。

(おばあちゃんが近くにいるわけじゃないね……)

 感じ取れる魔力は微々たるもの。考えられるのは、祖母の魔力が込められただ。
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