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2章:ズーズー・ア・ゴーゴー

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 今回は、幸人も間に合わない。
 どすんと鈍い音を立てて、今理はそのまま床へ倒れこんでしまった。


「今理さんしっかり!」

「な、なんとか……」


 返事はあったものの、かなり痛そうだった。
 背中ならまだしも、頭を打ち付けてしまったかもしれない。
 一応後頭部に負担がかからないよう、横向きに体制を変えてもらおうとしたところで、


「重っ⁉」


 幸人の背中に突如とてつもない重量の何かがのしかかり両腕を床につけ堪えたが、位置が非常に悪かった。


「さ、幸人さん⁉」


 腕の間に丁度今理が挟まり、傍から見れば幸人が今理を押し倒しているような体制になってしまったのだ。


「にゃーん」

「し、シロ?」


 これもまたシロの悪戯だ。背中に小さな何かが乗っている感覚がする。
 この重さは、幸人の感情が反映されている故のものと嫌でも悟り、幸人は穴に埋まりたい気持ちでいっぱいだった。

(……この体制は、ともかくまずい)

 まず、今理を圧し潰してしまう危険がある。
 痛みがまだ引いておらず動けない。そうでなくとも自分の腕の間にいて逃げ場がない。
 体格差を考えると、細身の今理にとっては一たまりもない。

 そして、何とか圧し潰さなくて済んだとしても、先程よりも密着状態になってしまう。
 偶然だろうと不用意に、合意なく、異性と密着するのはよくない。何より今理が嫌がる事はしたくない。

(がんばれがんばれ、もっと踏ん張れるぞ俺……!)

 重さが増し、腕を立てている状態が辛くなってくるが、幸人は歯を食いしばる。
 自分にとっても不本意だ。
 気持ちを理解して、今がチャンスだとしても、互いが納得できる形がいい。独りよがりの欲に任せるのは絶対に違う。
 だからここは、絶対に堪えて見せる。
 プランクのようなものだ。学生時代の理不尽な体育会系のしごきを思い出せ。
 奥歯をかみ砕きそうな勢いで、くじけそうな腕に再び力を込めはじめたが、


「ベリル……いや、久谷陽太郎」


 スッと、どこかで聞いたことがある名前が聞こえた瞬間重さは消え去り、幸人は弾かれたように後ろへ尻もちをついた。
 そして、安堵の深いため息をついた。

 突然の終わりにまだ心が追い付いていない。
 動悸の音がうるさく、幸人も今理もその場から動けないまま、出入り口に立つ影を見やった。
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