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2章:ズーズー・ア・ゴーゴー

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「……んじゃ、改めて幸人さんも書いてみますか?」

「ニャ」

「あ、よろしければ」


 自分が帰った後も使って良いというお許しが出ているなら、存分に楽しませてもらおう。
 ちゃらんぽらんなおじさんに振り回される幸人を労う意味でも。
 今理は再び頁の上の方に指を置き、ノートを開いた。


「……では」


 さらさらと、今理に倣い、


「じょ、上手」

「そうですか?」


 幸人は、猫だとちゃんとわかる猫を描いて見せた。
 デフォルメしつつも猫らしい特徴を捉え、不自然ではない。
 とても愛くるしい白猫だ。


「で、こうしてこうして……」


 ノートを閉じ、頁の真ん中あたりに指を置いて頁を捲れば、白猫の姿はなくなっていた。


「にゃむぅ……」


 そして、くちゃくちゃな猫の隣に、長いしっぽをゆらめかせながら上品に座っている白猫が現れた。


「かわいい……!すごい、ちっちゃ、猫ちゃ……」

(語彙が解けてる……)

「良かったねモジャ子、お友達だよぉ」

(いつのまに名前が……)

「この子に名前はないんですか?」

「……シロとか?」

「シロ~!」


 でれでれしながら今理は携帯を取り出し、写真を取り出す。テンションが降り切れているのか連写だ。
 この可愛い瞬間を逃したくない。撮りすぎてしまったが、捨てられない。喜ばしいが悩ましい。
 そんな一喜一憂大はしゃぎの今理を見て、幸人はとてもほっこりとした。

 しかし、


「あーっすっごいぺろぺろして……あっモジャ子がが溶けてる⁉」


 猫同士のコミュニケーションでよくあるグルーミングのはずだったが、シロからぺろぺろされたモジャ子がでろりと、雨で形を保てなくなった泥のように溶け始めたのだ。


「絵の上手さや込めた思いの強さが決まるんで、こうなるのも致し方なしかもだけど、だけど……っ!
 モジャ子ーーー‼」


 止めようとしたが、時すでに遅し。
 元々猫っぽい何かのモジャ子だったが、もはや白い水たまりのようになってしまった。


「あぁ……」


 シロに罪はない。不可抗力ではなく、仲良しのぺろぺろだった。仕方がない。
 そう思っていても、今理はしょんぼりしてしまった。
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