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2章:ズーズー・ア・ゴーゴー

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「で、今日は何かいい暇つぶしあるかい?」

「それはいいんですけど、猿投山さん、原稿は……?」


 今理は神妙な顔で聞き返した。
 昨日もここに訪れた猿投山は、すごく困った顔をしていたと思う。
 締め切り。だけど一向に終わる気配がない。延々嘆いて、非常にうるさかった記憶も強い。

(それなりに売れっ子だし、今度作品のドラマ化の話もあったんじゃ……?
 というか自慢してたよね?)

 昨日鼻高々に渡して来た雑誌の中には【次回ドラマ化記念ストーリー掲載!】の文字が躍っていたような気がする。
 今さっきまで読んでいた雑誌がそれだ。
 ちらりと読み返せば確かに【次回ドラマ化記念ストーリー掲載!】と、デカデカ書いてある。
 

「締め切りまでにゃ終わるよ」


 猿投山はどこ吹く風。だが、絶妙に目が合わない。


「幸人さん。締め切りは……」

「明日です」


 ついでに言うと、明後日にももう一個締め切りがあります。

 非常に苦々しい顔で幸人が言うもので、今理はジト目で猿投山を見つめてしまった。
 さすがにバツが悪くなってきたらしい猿投山は、背中を丸めて隠れるようにケーキを食べ始めている。

 更に続けて幸人に目配せすると、彼は腕でバツのジェスチャーをした。


「はい、ケーキ食べたら原稿やりましょうね」

「やだー! 大人の楽しみを奪うんじゃないよぉ!」

「幸人さん強制送還。
 ここだと喋って手がつかないと思うので」

「はい。
 読者が待ってますので、がんばりましょう!
 先生の早筆が唸ればすぐ終わりますから」

「やだーっ! ノるためには遊びが必要なんだ!
 暇つぶししたーい! やだーっ!!」


 黙っていればかっこいい和服の壮年男性が、物凄い勢いで駄々をこねている。

 祖父が店長時代から見慣れた光景ではあるが、みっともない。
 担当さんを困らせるもんじゃないと、今理は思った。
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