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1章:万華鏡秘密箱

1章エピローグ

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 営業時間をとっくに過ぎているからこれ以上の長居は良くないと、幸人はカフェキュエンティンを後にした。

(さて、帰り道……)

 ぼんやりしていたが、猿投山の家からこのカフェに歩いてきて、大体5分くらいだとは覚えている。
 だとしたら幸人の家までは道にもよるが10分くらいで着けるのではないかと、地図を見るために携帯を取り出してみれば、

(着信履歴が、やばいことに)


 画面にぴょこんとポップアップされる通知が、30件程の着信が届いている事を淡々と伝えてきていた。
 更に、表示されている名前は【編集長】。

(え、大体一時間くらいでこんな……2分に一回ペース……急ぎの用……?
 仕事用の携帯じゃなくて……?)

 一応仕事の連絡用に使っている携帯を確認したが、そちらには特に着信がない。
 何か理由があるのだろうかと思いつつかけ直そうとしたところで、別の番号からの着信が入り、自分の携帯が震える。


「もしもし」

『あぁ、アタシだよ。
 ちょっとは元気でたかい』


 今日連絡先を交換したばかりの猿投山だった。


「おかげさまで、ありがとうございます」

『いいってことよ。ところでアンタ、どんくらいでクリアできた?」

「えっ……一時間強ですかね」

『カーッ!』


 幸人が正直に述べれば、わかりやすく悔し気な叫びが上がった。


『いや、さすが、アタシが見込んだ男だよ。
 担当作家として誇らしい」


 そして、素直で心のこもった賛辞を贈られた。
 これからよろしく頼むよと、改めて祝福されているようだとも幸人には感じられた。


「ありがとうございます……」

『ふふん。
 あ、そうだ。編集長からの電話も出てやんな。
 今は出れないってアタシから言っといたが、きっと悪い話じゃないはずさ』

「……はい!」

「んじゃ、これからお手柔らかにね」

「はい! よろしくお願いします」


 飄々としているが、声色はどこまでも優しい。
 伝えたい事だけ伝え終わると、猿投山はすぐに電話を切ってしまった。

 悪い話でないならすぐに編集長へかけてしまおうかと、携帯を操作する前に、


「……星、綺麗だな」


 ふと夜空を見上げれば、晩春の美しい星々が瞬いていた。
 大分見ていなかったような気がする。いつからだろうか。

 幸人は少しだけ立ち止まり、晴れやかな気持ちで星空を見上げていた。
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