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1章:万華鏡秘密箱

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 ガラスのような透明感のある色とりどりのパーツが集まってできた美しい小箱だ。
 パーツ一つ一つが波のような形をして並び、海を形作るような模様を描いている。

「これは、仕掛けの数は一かよろず。万華鏡秘密箱といいます」


 今理に促されるまま、パーツの下に張られた琥珀色の木が見える部分に、パーツを動かしてみる。
 すると、スペースの分だけするりとスライドさせる事ができた。


「秘密箱……寄木細工の」

「それに近いものです!
 ただし正攻法でいくと一万くらい仕掛けを解かなきゃいけなくて」

「い、いちまん……⁉」


 しげしげと小箱を眺めていた幸人だったが、驚きの声を上げた。
 最初よろずと言っていたのは一万の仕掛けということかと今更ながら理解して驚く。
 難解な秘密箱でも三桁を超すものは見ないというのに五桁、一万とは。そんな物可能なのか。


「でも、たった一手、ある仕掛けを動かすだけで開くんです。
 その一手を探してみてください」


 万の仕掛けが一手に。
 本当に可能なのかという疑念が波のように押し寄せてきて、幸人は目が回って来た。 


「か、可能なんですか?」

「えぇ、可能です。猿投山さんもクリアできてますよ」


 前例を出せば、半信半疑ながらも幸人は小箱の仕掛けをいじくり始める。
 横に引いたらどこかで縦に押せる箇所が出てくる。
 押して、引いて、戻して、寄せて、何度か繰り返してみて要領を得たものの、


「……閉店、何時ですか?」

「21時です」

「もうすぐじゃないですか」

「明日の仕込み中はいて良いですよ。
 解けたらイイコトがあるので、ファイトです!」


 2時間くらい猶予ありますよ。
 今理は気楽にそう言うが、幸人は正直開けられる自信がなかった。

 原理を理解した後コツコツと検証を重ねていく事は得意だが、ひらめきを求められる事は苦手だった。
 特にこの小箱のような、どういった原理なのか皆目見当がつかないような、

(……ひらめきだとか、発想力があったら、何か変わっただろうか)

 人の感情についてだとか。
 
 サクリ、サクリとパーツを動かしていく度、一つずつあの時の光景が蘇ってくる。

 決して人の喜びや悲しみがわからないだとか、共感できないだとか、人に興味がないわけでもない。
 ただ、感情の流れが複雑すぎて対応しきれない時がある。

 右往左往している内に対応しきれず、ミスを犯した。
 そして、素晴らしい作品を生み出す事ができる作家を、一人潰してしまった。


『あんたのせいよ!
 あんたが、私の事バカにするから!!』


 血が混じるような慟哭を上げ、大事な作業部屋をめちゃくちゃにしていく作家。
 突きつけられる罵声とナイフ。
 近所から通報され、救急車で作家が運ばれていく中、何もできず突っ立っている自分。
 
 どうしてこうなってしまったのか。
 相手への申し訳なさと、自分への失望感で、幸人は体の内から潰れてしまいそうだった。
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