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第2章 テイマー
第58話
しおりを挟む「ゼルス様あ~~~」
のこのこと、闇の精霊が短い歩幅で現れた。
「酔い覚まし持ってきましたよ~。いらないかもしれませんけど」
「そう言うということは、少なくともお茶作るあたりからは見てたということだな」
「まあ、はい」
「追いかけなくていいのか?」
「なんでマロネがそんな。うすらしこたまめんどっちー」
ははは。
ま、おまえはそう言うだろうな。言う分には。
「まー、考えたってどーしよーもないことをうじゃうじゃ考え続けるのは、人間の特権といえばそうですからね~。いいんじゃないスか、別に」
「どうしようもないことなのか?」
「はい。新たにわかったことですが、あいつ、勤めていた国の城にドラゴンとムーマク、手塩にかけた数頭ずつを置いてきています」
「……ほう? それは前に受けた報告の……」
「ええ。宮廷テイマーとして預かっていた魔獣を、ま、置いてきたっていうより、取り上げられたって感じですかね。ペガサスは、あいつが個人で世話してたみたいです」
「そうか。ペガサスは元気にしてるか?」
「スレイプニルに預けてあるんで、大丈夫でしょう」
なるほど、それは適材適所だ。
「ドラゴンもムーマクも、慣れりゃおとなしいモンスターです。テイマーに高い給料払わなくてもいける、と踏んだみたいですね」
「それで追放か? いきなり? いわば国家公務員を?」
「……ヒッヒッ。若くてかわいくて人望あふれるマロネには、よくわかんないんですけどお。人間社会って、特にチカラがものを言う界隈って、そーゆーヤカラも多いみたいですねえ」
マロネがわらっている。
ああ。
まさしく嗤っている。
「自分よりずーっと若くって、おまけにナマイキでちみっちゃいメス。そういうのめざわりでしょうがないってタイプが、その城にもいたみたいです」
「……マロネ。すごい顔してるぞ? 大丈夫か?」
「え? すごいかわいい? やだあ、知ってますよ~」
「難聴か。いやまあ、実年齢を考えるとやむなし」
「とりあえずマロネは気分がいいので、小川で足でも洗っちゃいますね」
「なぜ急に!?」
「え、だって、下流であのアホが顔洗ってるから」
「やめたげて! 油断も隙もないなおまえだけは!」
そうそう、と本当に小川に向かいながら、マロネが森の向こうを指さした。
西の方角。
「ラギアルドから報告です。ひとことだけ」
「……おう」
「『通しました』と。ゼルス様のご命令通りに」
「わかった」
「身を隠しているつもりらしいので進行はゆっくりですが、それでも2日はかからないでしょう」
「ふむ。なら、こちらから出向くか」
「仰せのままに」
イールギットを関わらせずにすませたい。
そう難しいことではないだろう。
「あっ、バカ精霊……っちょっと何やってんのよ!? 人の上流で!」
「ひょほほほほ、美人になるでえ! マロネの足のあいだ通った水で顔洗ったらのう!」
「ハンパな西言葉やめろ腹立つっ!」
ははは。やはりイールギットはいいな。
怒った顔も太陽のようだ。
彼女がしっかり照らしたならば、闇など存在できようもないだろう。
その邪魔は。
させん。
**********
お読みくださり、ありがとうございます。
次は1/19、19時ごろの更新です。
少々トラブルがあり、更新が遅れてしまいました。
失礼いたしました。
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