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第2章 テイマー

第38話

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「おう、馬……スレイプニルか」

 すごい速さで駆け込んできたのは、8本足の馬の魔族だ。
 背中にオッサンの上半身を生やしている。
 ずいぶんと慌てた様子で、アリーシャのとなりを走り抜けてきた。

 珍しいな?
 普段はまんま馬のままうろついて、俺にからかわれる役回りだってのに。

「由々しき事態にございます、魔王様!!」

「どうした? まさかまた勇者でもやって来たのか? はっは」

「そのまさかでございます!!」

 ほう!?
 それはそれは、と頬をゆるませかけた俺より早く、

「おい? スレイプニル」

 細いまゆをひそめたマロネが、走ってくるスレイプニルに言った。

「何してんの。止まりなさい」

「ま、ま、魔王様っ!!」

「ちょっと! おいっ!?」

「お逃げください魔王様ああああああ!!」

 そのまま突進してきたスレイプニルが、
 どかんッ!
 と俺の玉座に激突し、ともに吹っ飛んで壁に叩きつけられた。

「ぜ、ゼルス様!」

「魔王様!」

 マロネとアリーシャが駆け寄ってくる。
 ふむ、と俺は足下の2人を見下ろした。
 すぐさま宙に浮いて、逃れたのはいいが……?

「なんだ……? どういうイッパツ芸だ、今のは?」

「足をゆるめる気配もありませんでしたね」

「いや。ところどころ、筋肉の動きが不自然だった。なにかに抗おうとしてはいたようだ」

「ふむむん? それは~……?」

 がばっ、とスレイプニルが跳ね起きた。
 飛べないまでもまた走ってきて、大きないななきを響かせる。
 頑丈な部下だなおい。

「お逃げください魔王様!! こ、このスレイプニルの足が! 体が! 勝手に!! うおおおお魔王様あ!!」

「ベルスタン」

「ほぎえっ!?」

 ひょいと近づいたマロネの放ったスキルに、スレイプニルがばったりと横倒しになる。
 さすがだマロネ。
 てゆーか珍しく、素直に頼れる仕事をしてくれたな!

「ふむふむ……ふむーん。アリーシャたん、早く隠れちゃって~」

「……よろしいのですか? 及ばずながら、ご助力を……」

「いーからいーから。このマロネ様にまかせなさいって」

「ですが……この相手は、もしや……」

「言いたいことはわかるけど、こっちにもいろいろあんの。ゆーてアリーシャはお客さんなんだから、ほら、隠れた隠れた」

「……はい」

 複雑な表情を取り繕おうともせず、アリーシャが俺に一礼し、謁見の間の奥へと消えた。
 マロネの言う通りだ。
 アリーシャはまだ修行中の身。
 逆に、ここで何かあっては、育てているこちらとて困る。

「しかし……どう読む、マロネ?」

「読みは放棄いたしました。もう因縁のにおいがしてますから」

「ほう、はは。闇の精霊が鼻もきくとは、初耳だな!」

「そりゃあもう、コイツ・・・に関してだきゃあね……!」

 ゴウ、と風を巻く音が響く。
 謁見の間から望む青空を、白い影が矢のようによぎった。
 急上昇したそれは、そのまま俺の視界の中に落ちてくる。

 軽い足音とともに、翼持つ白馬が降り立った。
 合わせて俺も、空中から床に戻る。
 ペガサス。
 そしてその背にまたがるは――

「勇者か」

「いかにも!!」

 バッ、とペガサスから人が飛び降りた。
 マントに包まれたその身長は、乗り物の背にも届かない。
 マロネよりもわずかに高いかな程度の、幼いとすら言っていい体つきの少女だ。

 しかし、見た目は関係ない。
 彼女は勇者と名乗ったのだ。

「魔王ゼルス!!」

 その小さな手が、まっすぐに俺を示す。

「今日がアンタの命日よ!! 覚悟しなさい!!」


**********


お読みくださり、ありがとうございます。

次は12/1、19時ごろの更新です。
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