14 / 59
第14話
しおりを挟むさて。
状況的に考えて、俺たちを見下ろすこの銀色のドラゴンが、たまたま通りがかった野良ゴンでないことは直感できる。
けれども一度、あえて状況を噛み砕いてみるとしようか。
ひとつは、タイミングが早すぎる。
セシエの見せびらかした免許スキルの轟音が響いてから、いくばくもしないうちの出現。
岩場の向こう、邪教団の本部とやらにあらかじめ配置されていたと考えるのが妥当だろう。
さらにひとつは、このドラゴンの種類。
首が長くがっしりした胴体、翼を持たないリンドヴルムといわれるものだ。
野生の個体もいないではないだろうが、召喚により喚び出されるパターンのほうが圧倒的に多い。そうやって活用されるほど、強力なモンスターということでもある。
そして最後のひとつは、ドラゴンの頭の上。
人が乗っている。
「何者ですかあっ!」
ドラゴンのうなり声と同じ高度から、キンキンした声が降ってきた。
女……か?
あるいは少年か?
白くゆったりした衣装を身にまとい、えらく民族趣味な仮面で顔の上半分を覆っているため、遠目には判然としない。
白くて長い杖まで持って、司祭、いやむしろシャーマンのような出で立ちだが……
まあ、まず間違いなく邪教関係者だろうな。
「いきなりチュドンって、何したんですかあ!? ここがどこだかわかっての狼藉ですかあー!」
「ぬ、ぬう! いきなりのドラゴンでびっくらこいたでありますが、ここがどこかは先刻承知!」
状況はどうあれ、人がいたことで気を取り直せたらしく、セシエが胸を張って言い返した。
「真勇教の関係者とお見受けしたであります! 我こそはAクラス騎士、セシエ・バーンクリル! 王都より、あなたがたを調査しに参ったであります!」
「騎士ぃいい? そんなもんお呼びでないですしい! いったい何しに来たですしい!」
「調査だって今言ったばっかであります!」
「知らんし! 帰れし!」
「な、なんという言いぐさっ……! いやしくも国からの正式な使者を、こうまで無下に扱うとは! 悪者でありますな!」
「悪者じゃないっ! うちは、なぁーんにも悪いことしてませえん!」
ドラゴンの頭上で、シャーマンが胸を張り返した。
やはり女性であるようだ。ゆったりした衣服の上からでも、ずいぶんはっきりしたふくらみが見て取れる。
仮面の両側から、特徴的な尖った耳が見えている気がするし……なにより「うちは」という物言い。
このシャーマンが、真勇教とやらのリーダーをやってるハイエルフか。
「この世はそもそも間違いだらけ! だけどそれを否定するつもりは、『真の勇者は最強教』にもありません! しかしただひとつ、どうしても、勇者にニセモノがいるという間違いだけは看過するわけにいかないのですう!」
「だから勇者免許を持つ者を挑発し、片っ端から倒しているというのでありますか!?」
「知ってるんなら、騎士に用がないこともわかるでしょお!? 帰れ帰れえー!」
「免許は国が発行した物であります! それについて文句があるなら、国に対して訴えを起こすのが道理! 個人的な感情で私刑をまかり通す理由には、ならないであります!」
「……国なんて信用できるかッ!!」
シャーマンの語気が変わった。
牙をむき出し、うなり声をあげるドラゴンの頭上で、自らも噛みつかんばかりにこちらを威嚇している。
「国なんてっ……国なんて! わたしのお師匠様を遠ざけるばかりか、その生家を、勇者を! イルケシス家を見捨てた国なんて!」
「……! 今、なんと……?」
「おまえのような騎士にうらみはありませんが、邪魔するとあらば容赦しません! ニセモノどもと同じように、コテンパンのケチョンケチョンにしてやりますう!」
なれば、とセシエが背中の長剣を抜き払う。
「自分も、自分の道理を通させていただくであります。近くの役場まで引っ立てさせていただくでありますよ! 言い訳は詰め所でなさいませ!」
「引っ立てられないし! 行かないし! てゆーかそこの隣の男っ!」
え?
俺か?
セシエの邪魔をしないよう、おとなしくしてたんだが。
白杖の先端でまっすぐ俺を示し、しかしシャーマンは笑ったようだった。
「真の勇者は最強教に入りませんかっ? いつでも入信者募集中ですう!」
「なっ!? こ、こらあ! 人の連れをいきなり勧誘するなであります!」
「真の勇者は最強教は、身分もジョブも適性も問わず、従者の方々の入信も歓迎しておりますう」
「何を言うでありますか! こちらにおわすお方を誰と心得る、ジョブこそ村人ではありますが! 誰よりも勇気をお持ちの立派な方であります、決してあなたがたのような邪教になど!」
「勇気ある村人? ほうほうそれはそれは! ますます見込みアリですよ!」
「ええいっ、問答――」
長剣を構え、セシエが細い体をたわめた。
「無用ッ!」
「やっちゃえー!」
爆発的な加速力で突進したセシエに、ドラゴンが吠え猛る。
牙の並ぶ口が大きく開き、ゴバアと炎の波が吐き出された。
俺は大きく後ろに跳んで、炎の効果範囲から逃れる。
さすがにすさまじい火力。並のモンスターではない。
しかし、まあ。
「スキル 『騎士』 熱防技能・抗焔遮壁<サルードラファイア>!」
セシエの全身を、ほの青い球形のオーラが包みこんだ。
火炎に正面から突っこんで、そして突破する。
やはりか。
昨日の時点でわかっていたことだが、不意打ちなどされたりしなければ、セシエは非常に強力な騎士だ。
10
お気に入りに追加
1,002
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
最強の龍『バハムート』に転生した俺、幼女のペットになってしまう
たまゆら
ファンタジー
ある日俺は、邪龍と恐れられる最強のドラゴン『バハムート』に転生した。
人間の頃と違った感覚が楽しくて飛び回っていた所、なんの因果か、変わり者の幼女にテイムされてしまう。
これは幼女と俺のほのぼの異世界ライフ。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
神様!モフモフに囲まれることを希望しましたが自分がモフモフになるなんて聞いてません
縁 遊
ファンタジー
異世界転生する時に神様に希望はないかと聞かれたので『モフモフに囲まれて暮らしたい』と言いましたけど…。
まさかこんなことになるなんて…。
神様…解釈の違いだと思うのでやり直しを希望します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる