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第56話 自己嫌悪と後悔
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夏休みも終わり、2学期が始まる。
長い休みでだらけきった重い体を動かして、学校に行く準備をする。
クローゼットの扉についた鏡を見ながら、制服に着替えをしている自分の顔を見ていると気持ちが沈んでいく。
普段の努力の甲斐もあって出来物の少ない白い顔に、クセが少なく腰までまっすぐ伸びた白い髪の少女が私の意思のままに動いてる自分が一体何者なのかが分からなくなってしまったのだ。
先日、修斗君と行った花火大会での出来事を思い出す。
花火が終わり、私たちは再び無言で帰路についた。
なぜ無言だったかというと、最後に見た花火の光景が忘れられなかったのだ。
舞い散る火花が火事の光景を思い出させてしまい、あの日を境に隔てられた二つの自分の存在を意識させられたのだ。
田島 春樹という男だった自分と、香川 夏樹という女の子になってしまった今の自分の存在だ。
元々35歳の男だった俺が15歳の男の子とデートに行き、胸をときめかせていたという事実に対しどう向き合えばいいかわからない。
今は女の子の体を持つのだから、別におかしな事ではないはずだ。
だけど、それを俺が受け入れるかどうかは別問題なのだ。
だが、自分の意思に反して彼を受入れようとする自分がいて、花火でのトラウマがなければ受け入れる寸前までに至ってしまった自分がいた事に悍ましさを感じてしまう。
これが夏姫の体が持つ潜在意識だったとしたら、私はいずれ誰かを受け入れてしまうのかもしれない。意思と本能の間で苦悩する日々が訪れる事に恐怖をした。
火花は私にトラウマを残したと共に、分け隔てられた自分というものをはっきりと線引きをしたのだ。
だから、修斗君と別れたあとに訪れた自己嫌悪と後悔に私は押し潰されそうになってしまった。家に帰った私を待ち構えていたお母さんが、デートの様子を興味深そうに聞きに来たが、それを無言で掻い潜り自室へと戻った。浴衣のまま力尽きた私はベッドに横たわり、巡る思考に押し潰されそうになった。
私とは……、俺とは……、男とは……、女の子とは……。
学校で修斗君にどういった顔で会えばいいのか、それすらわからなくなってしまったのだ。
グルグル巡る思考を強制的にかき消すように私は目を瞑り、その日はどうにか寝る事に事に成功したが、始業式当日の今まで答えは出なかった。
着替えを終えた私はリビングに降り、両親と共に朝食を取る。
あの後、花火の日の事を彼らは無理に聴こうとはしなかった。まるで私の事は聞かなくてもわかると言わんがばかりに、次の日からは何もなかったかのように過ごす。
両親に心配はかけたくないが、自分の心のことまでは話したくない。だから、今の両親のスタンスは正直助かっている。
話せる時が来ればいずれ話せればいいとは思いながら、私たちは日常に戻っていった。
「行ってきます」
玄関のドアを開けて中学校に向かう。
足早に出勤するサラリーマン、友達と遊びながら通り過ぎていく小学生、私と同じ方向に向かう中学生など世間は私の苦悩など構いなく、穏やかな日常を過ごしている。
そんな中、私は見慣れた後ろ姿を見つけた。
風ちゃんだ。
「風ちゃん、おはよう!!」
私が肩に手を当てて風ちゃんに声をかけると、風ちゃんが私の方を一度振り返ると「おはよう……」と力なく言い、私を置いて足早に校内へと入っていく。
その様子に私は呆然と立ち尽くす。
いつもならまるで犬かと言わんばかりに飛びついてくるはずなのに、今日の彼女は様子がおかしい。
……私、何かしたかな?
困惑しながらも、私も風ちゃんの後を追う様に、学校へと入っていく。
教室に入った私は隣の席に座っている風ちゃんの様子を伺う。
鞄を置いた彼女は机に突っ伏していて、その様子を奈緒ちゃんが心配そうに見ている。
「夏樹、おはよう」
美月が私の背後から声をかけて来た。
「あっ、美月。おはよう」
「あの子、どうしたの?朝からなんかテンション低いみたいだけど……」
「わかんない。今日はなんか機嫌が悪いみたい」
風ちゃんの様子を簡単に説明すると美月はふ~んと言っているが、心配そうな顔をしている。
「ふ~ん。美月、心配してるんだ」
「べ、別にそんなんじゃないわよ!!友達を心配するのは当たり前じゃない!!」
私が美月をにやけながら見ていると、美月は赤い顔をする。
その様子を見て私は嬉しくなる。
転校した当初はいじめていた相手を心配している彼女の成長を見た気がして嬉しくなる。
「おはよ、美月、夏樹!!」
教室に入ってきた菜々ナナと香澄が私達に声をかけてきたので私は挨拶を交わして自分の席へと向かう。未だに机に突っ伏している風ちゃんのを横目に、奈緒ちゃんと目が合う。
「おはよ、なっちゃん」
「奈緒ちゃん、おはよ。風ちゃん。どうしたの?」
私が奈緒ちゃんに声をかけると、ビックリしたのか肩を揺らす。
「わかんない、さっきから声はかけてるんだけど……。もしもし~、風さんや?元気かい?」
奈緒ちゃんが風ちゃんの肩に手を当てて声をかけると、風ちゃんはむくりと顔をあげる。
私達をみあげる表情には寝不足なのか、目の下にくまが出来ている。
「ど、どうしたの?そのくまは?」
「……大丈夫、なんでもないよ」
奈緒ちゃんが驚くが、風ちゃんは私の顔を見るなり再び机に顔を伏せる。
「風ちゃん、どうしたの?私、何かした?」
「なんでもないって言ってるでしょ!!ほっといて」
伏せたまま、風ちゃんらしからぬ強い口調で声を上げる彼女に私は驚き、口を紡ぐ。
私は何かした覚えがないのだけど、風ちゃんは怒っている。
「あっ、か……。夏樹!!」
私がショックを受けていると、私の背後から男の子の声が聞こえて来る。
私が振り返り、声の主人を探すと、教室の外には修斗君がいた。その声にクラス中がざわめきだす。
「……修斗君……おはよう」
予期せぬ呼びかけに私は驚き、俯く。
自分でも赤くなっていることがわかるほど、鼓動が早い。
その様子を見たクラスメイト達のざわめきが一層増す。中には「畜生!!」と言った声や、「姫が落ちた!!」が聞こえる。
……落ちてない、落ちた覚えはない。いや、落ちてはいないはず……。
落ちてはいないと否定しようにも、高鳴る鼓動にどうも自信がなくなってくる。
「夏樹、昨日は……大丈夫だったか?」
私のそばに来た修斗君がほっぺたを掻きながら話してくる。
「……うん。ごめんね、心配掛けて。もう大丈夫」
私は作り笑顔で心配そうな彼に返事をすると、突然ガラっ!!と椅子が動く音がする。
風ちゃんが立ち上がったようで、暗い顔で下を見下ろしている。
「……ちょっと、保健室に行ってくる」
そう言うと、彼女は足早に教室から出ていく。
「あっ……」
私は彼女の後ろ姿を目で追うしか出来なかった。
長い休みでだらけきった重い体を動かして、学校に行く準備をする。
クローゼットの扉についた鏡を見ながら、制服に着替えをしている自分の顔を見ていると気持ちが沈んでいく。
普段の努力の甲斐もあって出来物の少ない白い顔に、クセが少なく腰までまっすぐ伸びた白い髪の少女が私の意思のままに動いてる自分が一体何者なのかが分からなくなってしまったのだ。
先日、修斗君と行った花火大会での出来事を思い出す。
花火が終わり、私たちは再び無言で帰路についた。
なぜ無言だったかというと、最後に見た花火の光景が忘れられなかったのだ。
舞い散る火花が火事の光景を思い出させてしまい、あの日を境に隔てられた二つの自分の存在を意識させられたのだ。
田島 春樹という男だった自分と、香川 夏樹という女の子になってしまった今の自分の存在だ。
元々35歳の男だった俺が15歳の男の子とデートに行き、胸をときめかせていたという事実に対しどう向き合えばいいかわからない。
今は女の子の体を持つのだから、別におかしな事ではないはずだ。
だけど、それを俺が受け入れるかどうかは別問題なのだ。
だが、自分の意思に反して彼を受入れようとする自分がいて、花火でのトラウマがなければ受け入れる寸前までに至ってしまった自分がいた事に悍ましさを感じてしまう。
これが夏姫の体が持つ潜在意識だったとしたら、私はいずれ誰かを受け入れてしまうのかもしれない。意思と本能の間で苦悩する日々が訪れる事に恐怖をした。
火花は私にトラウマを残したと共に、分け隔てられた自分というものをはっきりと線引きをしたのだ。
だから、修斗君と別れたあとに訪れた自己嫌悪と後悔に私は押し潰されそうになってしまった。家に帰った私を待ち構えていたお母さんが、デートの様子を興味深そうに聞きに来たが、それを無言で掻い潜り自室へと戻った。浴衣のまま力尽きた私はベッドに横たわり、巡る思考に押し潰されそうになった。
私とは……、俺とは……、男とは……、女の子とは……。
学校で修斗君にどういった顔で会えばいいのか、それすらわからなくなってしまったのだ。
グルグル巡る思考を強制的にかき消すように私は目を瞑り、その日はどうにか寝る事に事に成功したが、始業式当日の今まで答えは出なかった。
着替えを終えた私はリビングに降り、両親と共に朝食を取る。
あの後、花火の日の事を彼らは無理に聴こうとはしなかった。まるで私の事は聞かなくてもわかると言わんがばかりに、次の日からは何もなかったかのように過ごす。
両親に心配はかけたくないが、自分の心のことまでは話したくない。だから、今の両親のスタンスは正直助かっている。
話せる時が来ればいずれ話せればいいとは思いながら、私たちは日常に戻っていった。
「行ってきます」
玄関のドアを開けて中学校に向かう。
足早に出勤するサラリーマン、友達と遊びながら通り過ぎていく小学生、私と同じ方向に向かう中学生など世間は私の苦悩など構いなく、穏やかな日常を過ごしている。
そんな中、私は見慣れた後ろ姿を見つけた。
風ちゃんだ。
「風ちゃん、おはよう!!」
私が肩に手を当てて風ちゃんに声をかけると、風ちゃんが私の方を一度振り返ると「おはよう……」と力なく言い、私を置いて足早に校内へと入っていく。
その様子に私は呆然と立ち尽くす。
いつもならまるで犬かと言わんばかりに飛びついてくるはずなのに、今日の彼女は様子がおかしい。
……私、何かしたかな?
困惑しながらも、私も風ちゃんの後を追う様に、学校へと入っていく。
教室に入った私は隣の席に座っている風ちゃんの様子を伺う。
鞄を置いた彼女は机に突っ伏していて、その様子を奈緒ちゃんが心配そうに見ている。
「夏樹、おはよう」
美月が私の背後から声をかけて来た。
「あっ、美月。おはよう」
「あの子、どうしたの?朝からなんかテンション低いみたいだけど……」
「わかんない。今日はなんか機嫌が悪いみたい」
風ちゃんの様子を簡単に説明すると美月はふ~んと言っているが、心配そうな顔をしている。
「ふ~ん。美月、心配してるんだ」
「べ、別にそんなんじゃないわよ!!友達を心配するのは当たり前じゃない!!」
私が美月をにやけながら見ていると、美月は赤い顔をする。
その様子を見て私は嬉しくなる。
転校した当初はいじめていた相手を心配している彼女の成長を見た気がして嬉しくなる。
「おはよ、美月、夏樹!!」
教室に入ってきた菜々ナナと香澄が私達に声をかけてきたので私は挨拶を交わして自分の席へと向かう。未だに机に突っ伏している風ちゃんのを横目に、奈緒ちゃんと目が合う。
「おはよ、なっちゃん」
「奈緒ちゃん、おはよ。風ちゃん。どうしたの?」
私が奈緒ちゃんに声をかけると、ビックリしたのか肩を揺らす。
「わかんない、さっきから声はかけてるんだけど……。もしもし~、風さんや?元気かい?」
奈緒ちゃんが風ちゃんの肩に手を当てて声をかけると、風ちゃんはむくりと顔をあげる。
私達をみあげる表情には寝不足なのか、目の下にくまが出来ている。
「ど、どうしたの?そのくまは?」
「……大丈夫、なんでもないよ」
奈緒ちゃんが驚くが、風ちゃんは私の顔を見るなり再び机に顔を伏せる。
「風ちゃん、どうしたの?私、何かした?」
「なんでもないって言ってるでしょ!!ほっといて」
伏せたまま、風ちゃんらしからぬ強い口調で声を上げる彼女に私は驚き、口を紡ぐ。
私は何かした覚えがないのだけど、風ちゃんは怒っている。
「あっ、か……。夏樹!!」
私がショックを受けていると、私の背後から男の子の声が聞こえて来る。
私が振り返り、声の主人を探すと、教室の外には修斗君がいた。その声にクラス中がざわめきだす。
「……修斗君……おはよう」
予期せぬ呼びかけに私は驚き、俯く。
自分でも赤くなっていることがわかるほど、鼓動が早い。
その様子を見たクラスメイト達のざわめきが一層増す。中には「畜生!!」と言った声や、「姫が落ちた!!」が聞こえる。
……落ちてない、落ちた覚えはない。いや、落ちてはいないはず……。
落ちてはいないと否定しようにも、高鳴る鼓動にどうも自信がなくなってくる。
「夏樹、昨日は……大丈夫だったか?」
私のそばに来た修斗君がほっぺたを掻きながら話してくる。
「……うん。ごめんね、心配掛けて。もう大丈夫」
私は作り笑顔で心配そうな彼に返事をすると、突然ガラっ!!と椅子が動く音がする。
風ちゃんが立ち上がったようで、暗い顔で下を見下ろしている。
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