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<大正:氷の迷宮事件>

デパート三階 【巣】

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マズい状況よ。
もし、マネキンがあの方たちに危害を加える事に成っても、この式神では助ける事は出来ない。
戦闘用の式神では無いもの。
それに、そもそもそんな強力な式神は、お爺様からは教わっていませんわ。
土御門つちみかど家の泰晴やすはる叔父様の式神なら、どうにか出来るのでしょうけれど……今は、残念ながら見守る事しか……。

あら?
ポン、ポン、ポン……。

マネキンの抱えた木箱からピンポン玉の様なモノが飛び出してきた。
でも、ピンポン玉の様に弾んだりせず、そのまま横に成っている方達に張り付く様に、まとわり付く。

そう言えば、今まとわり付いた玉の他にも、既に大小さまざまなサイズの白い球が、あの方達に張り付いているみたいですけれど……アレは何?

カシャッ、カシャッ、カシャッ……。
マネキンは用を終えたのか、小部屋を出て行く。
そして、近くの小部屋の中へ。

きっと、あの小部屋にも捕らわれた方達が居らっしゃるのだわ。
マネキンの行き先は、気に成るところだけれど、それよりも先ず、この方達の状況を把握する方が先決よ。
緊急を要する状態なのか、未だ暫く猶予がお有りなのか……それとも、既に手遅れに……。

マネキンの居なくなった小部屋に、チョコチョコと式神を進める。
倒れている方達を観察してみると、どうも張り付いているピンポン玉の数や大きさに個人差が見て取れるわ。

部屋の一番奥に居らっしゃる方は、あまりまとわりつかれていない様子。
それにまとわりついているピンポン玉の大きさも小さい。

手前のお二方は、大小さまざまなピンポン玉が、奥の方よりもたくさんまとわり付いている。

あら?
一番手前の方の額に乗っかっていた一番大きい球が、ポトリと転がる様に落ちる。
式神の目線からだと、結構大きな玉だわ。
大体、二十センチ近くあるかしら。
さすがにこの大きさだと、ピンポン玉とは呼べませんわね。

そして、隣の方の肩の上に有った玉も、ポトリと転がり落ちる。
此方こちらも、そこそこ大きな玉ですわね。
先ほどの物よりは、二回りほど小ぶりですけれど。

二つの玉は意思を持つかの様に転がって、隣り合わせに並ぶと、小さい方の玉がピョンと飛び跳ね、大きい方の玉の上に乗っかる。
大きい球の上に、小さい球……この形って、まさか……。

雪だるま!
マズイですわ!

咄嗟に式神を床に張り付く様に伏せさせる。
そして、そっと式神の頭部を、目の辺りまでめくる様に起こして様子を見る。

上に乗った玉の方に、無表情な目と口が浮き上がって来た。
間違い無く、雪だるまですわ。

暫くして、産まれたばかりの雪だるまは、動きを確かめる様に、軽く首を左右に振ると、サク、サクと飛び跳ねて小部屋の外へ。
どうやら、気付かれずに済んだ様。

再び、式神を立たせて、もう一度倒れられている御三方に目をやる。
今度は式神の目に魔力を集中して、魔力の流れを確認。

やはりだわ。
張り付いている玉が、この方達の魔力を吸収して育っている。
一番奥に居らっしゃる方に張り付いてる玉が小さく、数も少ないのは、元々お持ちに成られている魔力が少ないから。
恐らく警部補さんの部下の方ですわ。
手前のお二方は、お持ちに成られてる魔力量が多い。
諏訪さんの部下の方ですわね、きっと。

とすると、あの白い球は雪だるまの卵……いいえ幼虫?幼生?の様なモノかしら。
そして、この方達は、餌にされているのだわ。
この小部屋は、雪だるま達の育児室……。

だとすると、各フロアへの階段の上り下りを複雑にしたり、このフロアを迷路の様に作り替えたり、小部屋を作ったり……これってまさか、巣作りと言うこと!?

ここは日本橋、帝都のど真ん中ですわよ。
こんなところに、あの様な物騒な雪だるまが、文字通り巣食うだなんて……正気の沙汰では御座いませんわ!
立て籠もられている、津案つあんさんと言う方、まったく、何を考えてらっしゃるのかしら!
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