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<大正:氷の迷宮事件>

デパート二階 【格闘】

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マネキンは、さっき投げ飛ばしたのを含めて五体……いいえ、六体ね。
一体、地を這うのが居る。
それも……悪趣味にも、手足をもう一人分わき腹に付けて、蜘蛛の様に這って来る……キモイですわ!

それにしても六体は、少々厳しいかも。
セクメトの慧眼けいがんが有れば、氷柱つららで串刺しにすれば良いだけなのだけれど……。

四の五の言っている場合では無いわ。
二体のマネキンが、奇妙に腕を振り回しながら襲い掛かって来た!

左側のマネキンの腕を掻い潜る様にかわし、足を払う。
ガシャーンと、バランスを崩したマネキンが倒れる。

すかさず、右側から襲って来るマネキンの腕を払いあげ、わき腹に右の掌底を打ち込みざま電撃。
バチッ!
火花が散る。

でも、マネキンは打ち込まれた掌底で、よろめいただけ。
電撃のダメージはほとんど効いてい無い。

払いあげた、マネキンの左腕の手首をそのまま掴んで、後ろ手に捻じり上げる。
そして、その左肩の氷の球体関節を右手で掴んで電撃。
バチッ!パーン!

火花が飛び散ると同時に、球体関節が砕け散り、マネキンの左腕が落ちる。
「上手く行ったわ!」

弱点は、氷の球体関節ね。
でも……マネキンは六体。
全てのマネキンの球体関節を全部破壊するのは、現実的とは言えないわね……戦術を変えた方が良さそう。

未だたおしたわけでは無いけれど、二体のマネキンをあしらったお陰で、囲みに隙が出来たわ。
そこから、何とか囲みの外に。

倒れた二体のマネキンは既に立ち上がっている。
腕をもいだマネキンも、無くした腕など意に介してい無い様。

迫りくる六体のマネキンと対峙しつつ、バックステップで距離を取る。
両手を合わせて氷のつぶてを連射!

ザク、ザク、ザク、ザク、ザク!
無数の氷柱つららが一体のマネキンに突き刺さる。
「え!?」
なんで氷柱つらら
小振りでは有るけれど氷柱つららを飛ばす程、魔力を練っては居ないハズ……とか、今は深く考えている場合では有りませんわ!
むしろ、好都合。

ザク、ザク、ザク、パーーン!
更に浴びせかけた氷柱つららで、一体のマネキンの胴体が砕け散る。
まず一体撃破。

でも、まだ五体、マネキン達がやられた仲間の破片を踏みつけながら迫ってくる。
更に、距離を取りたいところだけれど、陳列棚が邪魔で上手く身動きできない。

成らば!
迫りくる五体のマネキンに向かって走り出す。
合わせた両手を離し、左手に刀印を結んでその指先の空気を圧縮、やいばを形作る。

右腕の無いマネキンが、残った左腕を槍の様に突き刺してくる。
左手の刀印を一閃!
マネキンの左腕も切り落とす。

別のマネキンが、背後から襲い掛かってくる。
その振り下ろされる腕を掻い潜り、左脚の付け根の球体関節に右手を当て、電撃!
バチッ!パーン!ガシャーン!

そのマネキンの球体関節が砕け、バランスを崩して倒れる。

刹那、背後に殺気!
後ろを見ると、両腕を失ったマネキンが回し蹴りを放ってくる。

飛び込む様に前転して、その蹴りをかわす。
「まったく、器用なマネキンですこと!」

でもなんとか、マネキン達の背後に抜ける事が出来たわ。
これで、距離が取れる。

大きくバックステップを踏んで距離を取りながら、氷柱つららをマネキン達の足を狙って浴びせ掛ける。
ガシャーンと、氷柱つららで足を砕かれたマネキンが次々と倒れる。
どうやら、上手く行ったみたい。

マネキン達は足を一本失っても、残った手足で這おうとするけれど、動きは大分鈍い。
もう、大した脅威には成らないわ。

あとは冷静に、マネキン達の残った手足に氷柱つららを浴びせかけて各個撃破していく。
ん?
何か変だわ。
目の前に転がるマネキンの頭は五つ……。
背筋に悪寒が走る!

いやな気配を感じて陳列棚の上を見上げる。
一瞬、ヤツと目が合う。
八本の手足を器用に使って、陳列棚の上で身構えた最後の一体。

刹那、頭上から飛び掛かってくる。
氷柱つららは間に合わない。

咄嗟に、左手に魔力を集め、空気を圧縮。
飛び掛かってきたマネキンの胸にその左手を押し当てて、圧縮した空気を解放。
「キャッ!」
ガシャーン!

風圧に飛ばされ、棚に背中を打ち付ける。
「い、痛いですわ……」
でも、未だ終わって無いわ。

私が飛ばされた方向の反対側、ヤツが居る。
壁に打ち付けられた衝撃で、何か所か手足の球体関節が砕けたみたい。
八本の手足の内、三本取れている。

ヤツが起き上がろうとしている……そうはさせませんわ!
棚に背をもたれ座ったまま、両手を合わせて、魔力を練り氷柱つららを放つ。

ザク、ザク、ザク、ザク、ザク。
練った事で、五十センチ程に成長した氷柱つららが五本、最後のマネキンを串刺しにする。
「はぁ~、やっとたおせましたわ……。でも正直、戦力不足はいなめませんわね。何か考えませんと」
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