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<大正:氷の迷宮事件>

デパート二階 【不自然なマネキン】

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「ふぅ~、どうにか逃げ切れた見たいですわね」
一体、一体は大した敵では無いかもだけれど、ああも大群で襲って来られるとさすがに脅威ね。

あまり考えたく無いのだけれど、先行して突入された諏訪さんと警部補さんの部下の方々は、あの雪だるまに氷漬けに……。
いいえ、そうとも限らないわ。
もしそうなら、このフロアの何処かに、その氷漬けにされた方が居る筈だもの。
このフロアは結構見て回ったけれど、その様なものは見なかったわ

と、すると皆さんは他の階か、それとも、あの閉ざされた広場の中か……。
ともかく、上の階に向かいましょ。


そして、階段の有る、表玄関付近。
表玄関は凍り付き、固く閉ざされていて、今は此処からの出入りは無理。
その正面を少し進んだところに、二階へ向かう階段とエスカレーターが有る。

その階段を、慎重に用心しながら登っていく。
因みに、当然ながらエスカレーターは止まっているわ。


二階に辿り着くと、やはり、このフロアも辺り一面白く霜が降り、凍り付いてる。
この階は子供服や子供用品のフロアね。
あと、文房具とかも有るみたい。

あら?
三階に向かう階段は途中、広場と同じ様な氷の壁で通れなく成ってる。
この階段でさらに上に向かうのは無理そう。

仕方が無いわ。
上に向かうなら、他の階段を探す必要が有るわね。

でも、その前にまずは、吹き抜けよ。
あの、氷の壁で閉ざされた空間がどうなっているか見てみたいわ。
ともかく、先へ進みましょ。

階段を出た所は、玩具コーナー。
現代むこうとは大分おもむきが異なって、レトロなおもちゃが並ぶ。
結構、高級そうな玩具が多い。

更に進むと、子供服が並んでる。
子供服も、上質な物ばかり。
このデパートがターゲットにしている客層が容易に想像が付くわね。

「あら、このお洋服、道彦に着せたら可愛いかもですわ♪」
とか、白く凍り付いた世界で、呑気にウインドショッピングを楽しみながら歩いている内に、このフロアの中央付近。

「様子がおかしいわ……」

本来であれば、ここから手すり越しに広場を見下ろせる筈。
でも、目の前に有るのは、一階と同じく氷の壁。
手すりごと、氷に埋まっているわ。

氷は白く、氷越しに向こうを見る事も出来そうに無い。
「困ったわ……そうだわ!吹き抜けに有る階段は……ハァ~、やっぱりダメですわ」
同じ様に氷の壁で塞がれて、階段に出れない。

仕方が有りませんわね。
三階へ上がれる階段を探しましょ。

已む無く、氷の壁を回り込む様に向こう側へ。
確か、その辺りにも階段が有った筈よ。


ん?
何か気配を感じる。
まさか、また雪だるま?

身構えて辺りを見渡す。
それらしい影は見当たらない。

でも、油断してはダメ。
雪だるまは小さい。
何処か物陰に隠れているかも。

カシャッ。

何かしら、今の音?
静寂な白い世界で、時折聞こえる物音。
何者が立てているのか分からないわ。
でも、敵意を感じる。
それも、さっきの雪だるま程では無いけれど、複数いる。

辺りの風景に意識を集中させる。

何か違和感を感じる。
ここは、子供服が売られているコーナー。
当然、子供のマネキンが並んでいる。

でも、大人のマネキンが何体か混ざっているわ。
単に、そういう風に陳列しているだけかしら?

一応、気に成るモノは確認しておきましょ。
大人のマネキンの一つに近付いていく……妙ね。
このマネキン、裸だわ。

あら?
球体関節のマネキンね。
大正この時代に、こんなマネキンなんて有ったかしら……。
でも、随分雑な作りね。

まるで、のこぎりで可動部を切断して、そこに無理やり球体関節を付けたみたい。
だから、付けた球体関節の分、手足が長くなってフォルムもおかしい……ハッ!

刹那、マネキンの右腕が、突き刺す様に私の顔を目掛けて伸びて来る!
咄嗟にその腕をとり、一本背負い。

ガシャーン!
と、音を立て、マネキンが床に転がる。

このマネキン、ゴーレムですわ。
あの球体関節は透けていた、まるで氷の様に。
何者かが、マネキンの手足を切断、氷の球体関節を付けて疑似的な魂を入れて作り出したのだわ。

カシャッ、カシャッ、と音を立て、もう隠れる必要の無くなったマネキンたちが、取り囲む様に近付いて来る。
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