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<大正:英国大使館の悪魔事件 前編>
にゃんこは正義
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「続いて、こちらは公使閣下のラザフォード・バイロンさんです」
憮然とした表情で軽くうなずく。
「そして、先ほどもご紹介したビンガム参事官殿です」
「改めてよろしく」
人当たり良さそうに返してくれるが、目が笑ってい無い。
どうも、このお二人はくせが有る様に思えるわ。
「因みに公使と云うのは、大使に次ぐ役職でつまりはNo2ですな、参事官はその次の序列と成ります」
上村さんが小声で補足してくれた。
「すまんが大使、我々がここに呼ばれた理由が分かりませんな」
公使が文句を付ける。
「大使には、我々二人は昨日、私の自室で飲んで酔って眠っていたと話したと思うが。しかも、私の自室は西側に有る、北側の裏庭で起こった事件の目撃者に成ろうはずもない。我々がここに居ても無意味だと思うが?」
「それに、二等書記官が居ない様だが、彼が第一発見者では無かったかね?」
「分かっておるラザフォード。だが、君は公使という立場でもある。彼らと顔を合わせておいた方が良いと思ったのだ。それに、ジョナサン君には書庫で調べ物を頼んでいる、後で彼らを書庫に案内する積りだ」
公使のクレームに大使が落ち着いた口調で返した。
「なら、我々の用も済んだな、公務に戻らせて貰う」
公使が立ち上がると、参事官も「では、私もこれで」と立ち上がり退室した。
「すまんな、彼らも多忙な身でな、許してやって欲しい」
「いえいえ、お気に為さらず」
結局、大使閣下のご家族のみね。
「それでは、昨夜の事をお話し願えませんか」
上村さんが本題を切り出す。
「うむ、昨夜私と妻それと二等書記官のジョナサン君はこの部屋で、明日つまりは今日のことだが、に行う予定だった新年のパーティーの打ち合わせをしておったのだよ。パーティーと言っても、懇意にしておる他国の大使やその家族、それとこの国の有力者の方達を数人呼んでのこじんまりとしたものだが」
「当然、娘は夜も更けていたので、2階の自室で休ませる様に使用人に頼んでおった。それと、過労気味だった公使、参事官、一等書記官の三人には、明日に備えて早々に休む様にと指示しておった」
「そして、除夜の鐘というのかな、その鐘の音が鳴りだしたころ、悲鳴が聞こえた。といっても、この部屋から事件現場は少々離れておるせいか、私は聞こえなかったのだが、妻とジョナサン君は聞こえたらしい」
大使は視線を奥さんに向ける。
「ええ、微かに聞こえましたわ、ですが人の悲鳴だとは思いませんでしたわ。野良犬か何かが紛れ込んだものと……」
「それで、ジョナサン君が念の為に確認してくると言う事で、彼に頼んだのだ。その後は、彼が使用人に遺体や足跡にシーツをかける等指示を出し、また、用が無いものは裏庭に近づくことが無い様に、とも指示したと聞く。彼から報告を受けたのは、その後の事だ……」
「驚きましたわ……ローレンスが殺されるなんて……」
御遺体にシーツ掛けたり指示したのは、ストーカーさんだったのね。
「それにしても、ストーカーさんは優秀な方ですのね。おかげさまで、事件現場の状態が綺麗に保存されていましたので、とても助かりましたわ」
「うむ、我が国としても、日本との良好な関係は重要だと認識しておるのでな、彼に限らず皆優秀な人材が赴任しておる。特に、殺害されたローレンス君は能力も人柄も優れた人物だったのだが……残念なことだ」
重く神妙な口調でため息を付く、言葉に嘘は無さそうね。
「それで……お嬢さんが悪魔の様な物を見たと伺ったのですが……?」
上村さんが、聴き難そうに尋ねる。
娘さんは、怖いものを見て精神的に参ってるのか、大使の奥さんの膝に顔を埋めている。
ちょっと気を使うわよね……。
「すまない、ミスター上村」
「朝から怯えておってな、詳しく話してくれんのだ」
困ったわね、無理強いするのは気が引けるし、どうしましょう……。
「にゃー」
召喚して以来、私の腕の中でマッタリしていた猫だ。
ん?
猫の鳴き声に反応したのか、娘さんがチラ見しているわ。
これは良い切っ掛けに成るかも!
娘さんに近付き声を掛ける。
「ステラちゃん、もし良かったら撫でてみる?」
「いいの?」
頷きながら猫を差し出すと、恐る恐る手を伸ばし頭を撫でる。
だんだん慣れてきたのか、ステラちゃんの表情は笑顔に変わっていく。
もう一押しね!
「じゃあ、抱いてみる?」
「うん!」
いい返事よ。
ソファーに座ったステラちゃんの膝の上に猫を乗せると、猫はステラちゃんの頬にスリスリし始めた。
なんて空気の読める子!
さっきまで、陰鬱としていた表情が、がらりと変わって明るい表情に成っている。
まさに、にゃんこは正義ね!
「この子のお名前は何て言うの?」
それは、凄く当たり前の質問。
だけど、私たち魔導士にとっては凄く重要な質問。
通常、召喚した名前の無い精霊や悪魔は、役目を終えると消える。
私の猫達もそう。
だけど、召喚した相手に名前を与えるということは、自我と個性を与えて術者にとって特別な存在にすると云う事。
力の無い術者であれば、芽生えた自我が崩壊して暴走し、術者や周りの人間に危害を与えることもある。
だから、未だ名前を与えた事は無かったんだけど……。
いいわ、いい機会かも知れないわね。
少し特別な魔法陣を描いたし、魔力も多く込めたこの子なら、特別に名前を与えても良いかもね。
「この子の名前はウルタールって言うのよ」
ウルタールの目に何かが宿ったのを感じた。
憮然とした表情で軽くうなずく。
「そして、先ほどもご紹介したビンガム参事官殿です」
「改めてよろしく」
人当たり良さそうに返してくれるが、目が笑ってい無い。
どうも、このお二人はくせが有る様に思えるわ。
「因みに公使と云うのは、大使に次ぐ役職でつまりはNo2ですな、参事官はその次の序列と成ります」
上村さんが小声で補足してくれた。
「すまんが大使、我々がここに呼ばれた理由が分かりませんな」
公使が文句を付ける。
「大使には、我々二人は昨日、私の自室で飲んで酔って眠っていたと話したと思うが。しかも、私の自室は西側に有る、北側の裏庭で起こった事件の目撃者に成ろうはずもない。我々がここに居ても無意味だと思うが?」
「それに、二等書記官が居ない様だが、彼が第一発見者では無かったかね?」
「分かっておるラザフォード。だが、君は公使という立場でもある。彼らと顔を合わせておいた方が良いと思ったのだ。それに、ジョナサン君には書庫で調べ物を頼んでいる、後で彼らを書庫に案内する積りだ」
公使のクレームに大使が落ち着いた口調で返した。
「なら、我々の用も済んだな、公務に戻らせて貰う」
公使が立ち上がると、参事官も「では、私もこれで」と立ち上がり退室した。
「すまんな、彼らも多忙な身でな、許してやって欲しい」
「いえいえ、お気に為さらず」
結局、大使閣下のご家族のみね。
「それでは、昨夜の事をお話し願えませんか」
上村さんが本題を切り出す。
「うむ、昨夜私と妻それと二等書記官のジョナサン君はこの部屋で、明日つまりは今日のことだが、に行う予定だった新年のパーティーの打ち合わせをしておったのだよ。パーティーと言っても、懇意にしておる他国の大使やその家族、それとこの国の有力者の方達を数人呼んでのこじんまりとしたものだが」
「当然、娘は夜も更けていたので、2階の自室で休ませる様に使用人に頼んでおった。それと、過労気味だった公使、参事官、一等書記官の三人には、明日に備えて早々に休む様にと指示しておった」
「そして、除夜の鐘というのかな、その鐘の音が鳴りだしたころ、悲鳴が聞こえた。といっても、この部屋から事件現場は少々離れておるせいか、私は聞こえなかったのだが、妻とジョナサン君は聞こえたらしい」
大使は視線を奥さんに向ける。
「ええ、微かに聞こえましたわ、ですが人の悲鳴だとは思いませんでしたわ。野良犬か何かが紛れ込んだものと……」
「それで、ジョナサン君が念の為に確認してくると言う事で、彼に頼んだのだ。その後は、彼が使用人に遺体や足跡にシーツをかける等指示を出し、また、用が無いものは裏庭に近づくことが無い様に、とも指示したと聞く。彼から報告を受けたのは、その後の事だ……」
「驚きましたわ……ローレンスが殺されるなんて……」
御遺体にシーツ掛けたり指示したのは、ストーカーさんだったのね。
「それにしても、ストーカーさんは優秀な方ですのね。おかげさまで、事件現場の状態が綺麗に保存されていましたので、とても助かりましたわ」
「うむ、我が国としても、日本との良好な関係は重要だと認識しておるのでな、彼に限らず皆優秀な人材が赴任しておる。特に、殺害されたローレンス君は能力も人柄も優れた人物だったのだが……残念なことだ」
重く神妙な口調でため息を付く、言葉に嘘は無さそうね。
「それで……お嬢さんが悪魔の様な物を見たと伺ったのですが……?」
上村さんが、聴き難そうに尋ねる。
娘さんは、怖いものを見て精神的に参ってるのか、大使の奥さんの膝に顔を埋めている。
ちょっと気を使うわよね……。
「すまない、ミスター上村」
「朝から怯えておってな、詳しく話してくれんのだ」
困ったわね、無理強いするのは気が引けるし、どうしましょう……。
「にゃー」
召喚して以来、私の腕の中でマッタリしていた猫だ。
ん?
猫の鳴き声に反応したのか、娘さんがチラ見しているわ。
これは良い切っ掛けに成るかも!
娘さんに近付き声を掛ける。
「ステラちゃん、もし良かったら撫でてみる?」
「いいの?」
頷きながら猫を差し出すと、恐る恐る手を伸ばし頭を撫でる。
だんだん慣れてきたのか、ステラちゃんの表情は笑顔に変わっていく。
もう一押しね!
「じゃあ、抱いてみる?」
「うん!」
いい返事よ。
ソファーに座ったステラちゃんの膝の上に猫を乗せると、猫はステラちゃんの頬にスリスリし始めた。
なんて空気の読める子!
さっきまで、陰鬱としていた表情が、がらりと変わって明るい表情に成っている。
まさに、にゃんこは正義ね!
「この子のお名前は何て言うの?」
それは、凄く当たり前の質問。
だけど、私たち魔導士にとっては凄く重要な質問。
通常、召喚した名前の無い精霊や悪魔は、役目を終えると消える。
私の猫達もそう。
だけど、召喚した相手に名前を与えるということは、自我と個性を与えて術者にとって特別な存在にすると云う事。
力の無い術者であれば、芽生えた自我が崩壊して暴走し、術者や周りの人間に危害を与えることもある。
だから、未だ名前を与えた事は無かったんだけど……。
いいわ、いい機会かも知れないわね。
少し特別な魔法陣を描いたし、魔力も多く込めたこの子なら、特別に名前を与えても良いかもね。
「この子の名前はウルタールって言うのよ」
ウルタールの目に何かが宿ったのを感じた。
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