41 / 182
<ガンスリンガー>
幻聴、逃走指示
しおりを挟む
思いの外、時間を取ってしまった。
急がんと、そろそろ奴らが動き出す時間だ。
二階に辿り着くと、すぐさま刀印を結んでクロケルの魔法陣を素早く描き、指先に浮かんだ魔法陣を四つの扉に押し当てて回る。
全ての扉に魔法陣を押し当てた後、その結んだ刀印を口に当て囁く。
「皆おきろ!緊急事態だ。この宿の奴らは盗賊団だ。今すぐ逃げるぞ。準備が出来たら、そっと扉を開け廊下に出てくれ。急げ!」
扉の向こうに居る皆には、大声でワシの声が聞こえた筈だ。
クロケル、天使の姿を持つその悪魔は、人々に幻聴を利かせる権能を持つ。
直接脳内に響くこの幻聴を聞いて、起きん奴はそうそう居らんだろう。
そして、暫くも経たない内に、最初に開いた扉はジム達の部屋の物だ。
「あれ、旦那?」
扉を薄く開け、その隙間を覗く様にジムがワシを探しておる。
目の前に居るんだが……。
成るほど、隠身のせいで、ワシの姿が見えんのか。
術を解いて、声を掛ける。
「ジム、此処だ」
「え?旦那いつの間に……。いや、そんな事より、声がデカいぜ旦那。奴らに気付かれる心配は無いのかい?」
ああ、幻聴の事か。
「問題無い。ちょっとした仕掛けを使っている。部屋の中の者にしか聞こえん」
「成るほど……ちょっとした仕掛けねぇ」
「ともかく、話した通りだ。既に外に馬車を待たせておる。急げ」
「ああ、分った」
暫くすると、それぞれの部屋の扉がそっと開き、恐る恐ると駅馬車の乗客達が出て来る。
全員を集めて、さっき下で見聞きした事、逃げる手筈を伝える。
「そうですかい、猫の旦那……アーウィンが奴らに……」
バリーの表情が陰る。
タッドに続いて、また知己を亡くしたのだ。
気の毒な事だ。
「宿屋の前に馬車を留めている。ジムとワシの馬もだ」
「それで、今のうちにニーリーを離れると云う事じゃな」
確認する様に問い返すモーリスに頷く。
「ただし、既にこの宿屋の周りは奴らに取り囲まれておる。何事もなくとは、残念ながら行かんだろう。トマス、レオナード、銃は使えるか?」
「ええ、商品として扱っていますからな、まあ人並みには」
「俺は上手くは扱えませんが、撃つだけなら」
「十分だ。馬車の座席に二挺弾を込めたスペンサーを置いてある。万が一の時はそれを使え」
二人が頷く。
「ジム、先頭を頼めるか?ワシは殿を務める」
「ああ、良いぜ」
ジムを先頭に、バリー、モーリスとケイティ、トマス、コクラン夫妻、そして三人娘が、忍び足で階段へと向かう。
急がんと、そろそろ奴らが動き出す時間だ。
二階に辿り着くと、すぐさま刀印を結んでクロケルの魔法陣を素早く描き、指先に浮かんだ魔法陣を四つの扉に押し当てて回る。
全ての扉に魔法陣を押し当てた後、その結んだ刀印を口に当て囁く。
「皆おきろ!緊急事態だ。この宿の奴らは盗賊団だ。今すぐ逃げるぞ。準備が出来たら、そっと扉を開け廊下に出てくれ。急げ!」
扉の向こうに居る皆には、大声でワシの声が聞こえた筈だ。
クロケル、天使の姿を持つその悪魔は、人々に幻聴を利かせる権能を持つ。
直接脳内に響くこの幻聴を聞いて、起きん奴はそうそう居らんだろう。
そして、暫くも経たない内に、最初に開いた扉はジム達の部屋の物だ。
「あれ、旦那?」
扉を薄く開け、その隙間を覗く様にジムがワシを探しておる。
目の前に居るんだが……。
成るほど、隠身のせいで、ワシの姿が見えんのか。
術を解いて、声を掛ける。
「ジム、此処だ」
「え?旦那いつの間に……。いや、そんな事より、声がデカいぜ旦那。奴らに気付かれる心配は無いのかい?」
ああ、幻聴の事か。
「問題無い。ちょっとした仕掛けを使っている。部屋の中の者にしか聞こえん」
「成るほど……ちょっとした仕掛けねぇ」
「ともかく、話した通りだ。既に外に馬車を待たせておる。急げ」
「ああ、分った」
暫くすると、それぞれの部屋の扉がそっと開き、恐る恐ると駅馬車の乗客達が出て来る。
全員を集めて、さっき下で見聞きした事、逃げる手筈を伝える。
「そうですかい、猫の旦那……アーウィンが奴らに……」
バリーの表情が陰る。
タッドに続いて、また知己を亡くしたのだ。
気の毒な事だ。
「宿屋の前に馬車を留めている。ジムとワシの馬もだ」
「それで、今のうちにニーリーを離れると云う事じゃな」
確認する様に問い返すモーリスに頷く。
「ただし、既にこの宿屋の周りは奴らに取り囲まれておる。何事もなくとは、残念ながら行かんだろう。トマス、レオナード、銃は使えるか?」
「ええ、商品として扱っていますからな、まあ人並みには」
「俺は上手くは扱えませんが、撃つだけなら」
「十分だ。馬車の座席に二挺弾を込めたスペンサーを置いてある。万が一の時はそれを使え」
二人が頷く。
「ジム、先頭を頼めるか?ワシは殿を務める」
「ああ、良いぜ」
ジムを先頭に、バリー、モーリスとケイティ、トマス、コクラン夫妻、そして三人娘が、忍び足で階段へと向かう。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる