皇太子の溺愛

にゃこにゃこ

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 シェリーとふたりで部屋に戻り、また2人でベッドに入った。
 キグリフ国王が死んだ件は、俺は関わらなくてもいいと、その代わりシェリーのそばにいてやって欲しいと父上に頼まれたからだ。
 無論、俺もそうするつもりだったが。
 城内はまだまだ騒がしく、到底眠る気になどなれない。シェリーもそれは、おなじようだった。
 可愛い俺だけのシェリー、今日は少し顔色が悪い。カルの話を聞いたからか? それとも、この騒がしさが原因か?
「これだけ騒がしいと、シェリーがここに来た時を思い出すな」
「皇帝陛下、腰を抜かしてたけど」
 この国はいくつもの国を統治している。大陸の中でも指折りの強さを誇り、カルもいる。そんな国の皇太子が、他国から奴隷を買ってきたとなれば、大騒ぎだった。
 父上は叱るよりも前に腰を抜かし、カルはもう知らぬ存ぜぬ、母は烈火のごとく怒り狂ったな。まぁあんなやつどうでもいいんだが。
「ねぇシアン、今だから聞くけど、どうして私を拾ったの?」
 眠れないシェリーが、思い切った話をしてきた。
「正直、俺にも分からない」
 シェリーを拾ったのに、明確な理由なんて存在していない。
 ただ、目を奪われた。お世辞にも綺麗とは言えない見た目をしていたのに、シェリーは俺の目を奪った。
 その瞳に、まだ綺麗な光が残っていたからかもしれないな。
 しかしまさか、少し髪を切って体を洗ってやったら、こんな美人になるとは思わなかったが。
 だからキグリフ国の王子も驚いていたな。多分、シェリーの待遇と、何よりもシェリーの美貌に驚いていたんだろう。
 あれに気付かなかったら、あいつは手放さなかったろうに。
「俺は、お前が来てくれてよかったと思っている」
 最初は妹を可愛がるような気持ちだったが、まさかこんなにも愛おしい存在になるとは。
 手離したくない。シェリー以外の女なんて、到底受け入れられない。
「私は、ここに来てよかったのか正直分からないの」
「何か嫌なことでもあるのか?」
 ⋯⋯ただ、俺は知っている。
 シェリーは、自分がここにいることを良く思っていない。
「ううん、待遇は本当にありがたい。だけど本当は、旅をしたかったの」
 旅を? シェリーは、世界が見たいのか?
 そんなもの、いくらでも連れて行ってやるのに。
「私は、何をしたいのか分からない。どんな風に生きたいのか」
 そう言えば、シェリーはもう、19だ。この国では既に働きに出ている年齢でもある。何をして、どう生きるのかを定め、その道に従って生きる年代。
 だが、シェリーは考える時間をあの祖国に潰された。
 家族と過ごす時間も、母から愛情を貰う時間も少なかったはずだ。
 父親とも生き別れ、まともな愛情を受けぬまま、今まで育ってきた。
 ここに来たばかりの頃は、人間不信で周りの人間も、カルですら信用しないほどまでに傷付いていた。
「俺と生きるのは、嫌か?」
「私はシアンとは生きれない。身分も、何もかもが違うから」
 そんな傷を癒してきたが、未だにシェリーは自分のことを奴隷だと思っている。そうではないと、言葉と行動で伝えても、信じては貰えない。
 いや、分かっていても、国民のことを考えると自然にそういう思考に向かうのかもしれない。
 優しいシェリーは、周りのことをとても気にかける。
「ごめんなさい、分かってるの。シアンの想いも、皇帝陛下やカルの想いも。だけど、それを素直に受け取っていいのか分からない。昔もシアンと同じように優しくしてくれた人がいたけど、私を庇ったせいで・・・・・・」
 シェリーの目から、涙が溢れる。それを拭っても、まだ新しく綺麗な目から涙が生まれる。
 なるほど、自分のせいで周りの人間が不幸になるのを見たせいで、それがトラウマになってるんだな。
 シェリーのおかげで、俺こんなにも幸せなのに。
「ごめんなさいっ、ごめんなさい、私のせいで。お母さん、ごめんなさい」
 急に錯乱し始めたシェリーを精一杯抱きしめた。
 普段は何も無いように振る舞っていても、シェリーの心の中はまだまだ傷だらけだ。
「シェリーは何も悪くない。俺がいるから、大丈夫だ。俺はシェリーからたくさん幸せを貰ってるからな」
 頭を撫でて慰めていると、いつしか泣き声は止んでいて、代わりに静かな寝息が聞こえてきていた。
 まだ少し幼い寝顔。そんな顔も可愛らしい。
「シェリー、何も恐れることはないんだ。俺が必ず守るから、俺が愛されなかった分、愛してやるからな」
 その器から、溢れんばかりの愛情を注いでやるから。
 だから、周りの目を気にせずに自分が幸せになることだけを考えてくれ。
 シェリーにはその資格がある。
「シェリー、俺は諦めないからな」
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