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カルと私、リムは応接室から出て、することも無く廊下で世間話をしていた。
それにしてもディヴェルツェ、恐ろしい竜だったな。キグリフ国やあのお2人には恨みがないわけじゃないけれど、だからといって気にしない訳じゃない。
「でも、助けないと国民から批判されたりしない?」
「彼らの悪事はシェリアが思ってる以上に広まってるから、逆に庇うと批判を食らうと思うよ」
カルいわく、彼らはまだやらかしていたとか。
罪に罪を重ね、直接手を下していないにしろ間接的に奪った命が大量にあるらしい。
だから皇帝陛下も頭を抱えてた。
とはいえ、追い返そうにもお偉い大臣とのパイプもあるから、さらに面倒なことになってる。
皇帝陛下⋯⋯ただでさえシアンのことで悩んでたのに。大丈夫かな。
「シェリアは気にすることないよ。気になるのは分かるけど、ソルヴァイス帝国の国民なんだから」
「うん。ねぇ、全く会議終わらないけど、大丈夫?」
「一時は終わらないと思う」
かれこれ一時間は話してるのに、まだまだ終わる気配がない。
そのせいで暇しているリムは、カルの頭の上で、見事なバランス感覚でお腹を出して眠っている。
いずれ来るかもしれないディヴェルツェ、今の問題、そして不審者。
この国、大丈夫かな。
「お母さんは、美人だったんだ?」
「え?」
な、なに急に。カルがこんな質問するの、珍しい。
「うん、美人だったよ。それに明るかったから、ご近所にも人気があったの」
「それは良い事だね。それなのに、周りは誰も助けてくれなかったのか」
「事勿れ主義、って言うのかな。でも、庇えば自分の首もはねられるし、家族がいるならなおさら庇えないよ」
下手をすれば、家族まで処刑されることになるのだから、仕方がない。私は処刑されなかったけど、こんな身分に落ちてしまった。
天国にいるお母さんはきっと今頃、私に凄い勢いで謝ってるんだろう。そんな人だったから。
何も悪くない自分のことを責めて、娘に苦労させていると。
「シェリアはお母さんに似たのかな?」
それは意識したことないなぁ。
まだまだお母さんの後ろを付いて回る年頃だったから、正直お母さんのとの思い出もたくさんある訳じゃない。
「でも、この髪色とかはお母さんじゃなかったかな」
「へぇ。でも美男美女の間に生まれたのがシェリアなら、その容姿も納得がいくよ。気付いてなかったかもしれないけど、あの2人はびっくりしてたよ。シェリアの美貌を知らなかったなんてね~」
でも、あの国にいたままだったら、今頃私はこの世にいないよね? あの国ごと私もやられていたかと思うと、ゾッとする。
「お母さんの名前、覚えてるかい?」
「シオン。ちゃんと覚えてる。ただ、お父さんは曖昧なの」
「そうか。シオン、いい名前だね。僕の妻はね、イレイナって言うんだ」
「綺麗な名前! どんな竜だったの?」
「そりゃもう、凶暴だった」
あれ、私の想像の斜め上を言ったんだけど。
そこは優しかったとか、大人しかったとかじゃなくて、凶暴?
「ディヴェルツェと違って、正義感の強い子だったんだけどね。それが裏目に出て、魔術師に殺されたんだ」
魔術師に、何かしらの罰を与えようとして、返り討ちにされたのかな。
竜の鱗は武具を作るのに最高の材料になる。上位の竜の鱗なら、下位の竜の鱗を貫くことが出来る。牙も爪も、角も。
竜の守護下にある国は、竜狩りを厳しく規制している上に、罰も殺人と同様に扱われる。だけど、他国は無法地帯のところもあると聞く。
「竜は家族を愛する生き物なんだ。番を、子を、孫を裏切ることなんてできないし、雄なんかは特に家族に尽くしたくなる」
「じゃあ、カルの1番はリムなんだね」
「僕の1番は、選べないよ。リムもシェリアもラクアンも坊ちゃんも、僕の1番だから」
血の繋がりもなく、種族も違う。それなのにカルは、私たちを家族として愛してくれている。きっと、これからも。
「私も、カルのこと大好きよ」
「ありがとう。坊ちゃんが殴ってきそうだけど、嬉しいよ」
確かに! それは困る。迂闊だったなぁ。
シアンとはいえ、カルには勝てないだろうけど、同時にカルもシアンには決して手を出さない。
しばらくの沈黙の後、私は気になっていることをカルに聞くことにした。
「・・・・・・ディヴェルツェは、来ると思う?」
穏やかな会話を交わしても、不安は私を煽ってくる。
「来るよ。腐っても国の象徴である彼らを見逃すはずがない。最悪の場合は、明日にでも乗り込んでくる」
「そんなに早く・・・・・・!?」
「はた迷惑な奴。最凶の竜帝、ディヴェルツェなんてよく言うよ」
怖い。ディヴェルツェが、カルを殺したら。この国を滅ぼしたら。カルは自称とは言うけれど、実際これが許されているくらいの力はあるってこと。
色々と思考をめぐらせていると、目の前がぐらついた。
「ご、ごめんカル、ちょっと目眩が・・・・・・」
「大丈夫かい? 色々あったからね。部屋で休んだ方がいい」
「ごめんね、シアンには後で話しておいて」
「いいよ。部屋まで送ろう」
カルはめまいを起こした私を抱き上げ、私の部屋へと運び、そのままベッドへと寝かせてくれた。
「リムウェルもいいかい?」
「うん」
頭の上からそっとリムウェルを下ろし、枕の隣に寝かせる。
「おやすみ、シェリア、リムウェル。何かあったら呼ぶんだよ」
「おやすみ、カル」
まだお昼だけどね。
それにしてもディヴェルツェ、恐ろしい竜だったな。キグリフ国やあのお2人には恨みがないわけじゃないけれど、だからといって気にしない訳じゃない。
「でも、助けないと国民から批判されたりしない?」
「彼らの悪事はシェリアが思ってる以上に広まってるから、逆に庇うと批判を食らうと思うよ」
カルいわく、彼らはまだやらかしていたとか。
罪に罪を重ね、直接手を下していないにしろ間接的に奪った命が大量にあるらしい。
だから皇帝陛下も頭を抱えてた。
とはいえ、追い返そうにもお偉い大臣とのパイプもあるから、さらに面倒なことになってる。
皇帝陛下⋯⋯ただでさえシアンのことで悩んでたのに。大丈夫かな。
「シェリアは気にすることないよ。気になるのは分かるけど、ソルヴァイス帝国の国民なんだから」
「うん。ねぇ、全く会議終わらないけど、大丈夫?」
「一時は終わらないと思う」
かれこれ一時間は話してるのに、まだまだ終わる気配がない。
そのせいで暇しているリムは、カルの頭の上で、見事なバランス感覚でお腹を出して眠っている。
いずれ来るかもしれないディヴェルツェ、今の問題、そして不審者。
この国、大丈夫かな。
「お母さんは、美人だったんだ?」
「え?」
な、なに急に。カルがこんな質問するの、珍しい。
「うん、美人だったよ。それに明るかったから、ご近所にも人気があったの」
「それは良い事だね。それなのに、周りは誰も助けてくれなかったのか」
「事勿れ主義、って言うのかな。でも、庇えば自分の首もはねられるし、家族がいるならなおさら庇えないよ」
下手をすれば、家族まで処刑されることになるのだから、仕方がない。私は処刑されなかったけど、こんな身分に落ちてしまった。
天国にいるお母さんはきっと今頃、私に凄い勢いで謝ってるんだろう。そんな人だったから。
何も悪くない自分のことを責めて、娘に苦労させていると。
「シェリアはお母さんに似たのかな?」
それは意識したことないなぁ。
まだまだお母さんの後ろを付いて回る年頃だったから、正直お母さんのとの思い出もたくさんある訳じゃない。
「でも、この髪色とかはお母さんじゃなかったかな」
「へぇ。でも美男美女の間に生まれたのがシェリアなら、その容姿も納得がいくよ。気付いてなかったかもしれないけど、あの2人はびっくりしてたよ。シェリアの美貌を知らなかったなんてね~」
でも、あの国にいたままだったら、今頃私はこの世にいないよね? あの国ごと私もやられていたかと思うと、ゾッとする。
「お母さんの名前、覚えてるかい?」
「シオン。ちゃんと覚えてる。ただ、お父さんは曖昧なの」
「そうか。シオン、いい名前だね。僕の妻はね、イレイナって言うんだ」
「綺麗な名前! どんな竜だったの?」
「そりゃもう、凶暴だった」
あれ、私の想像の斜め上を言ったんだけど。
そこは優しかったとか、大人しかったとかじゃなくて、凶暴?
「ディヴェルツェと違って、正義感の強い子だったんだけどね。それが裏目に出て、魔術師に殺されたんだ」
魔術師に、何かしらの罰を与えようとして、返り討ちにされたのかな。
竜の鱗は武具を作るのに最高の材料になる。上位の竜の鱗なら、下位の竜の鱗を貫くことが出来る。牙も爪も、角も。
竜の守護下にある国は、竜狩りを厳しく規制している上に、罰も殺人と同様に扱われる。だけど、他国は無法地帯のところもあると聞く。
「竜は家族を愛する生き物なんだ。番を、子を、孫を裏切ることなんてできないし、雄なんかは特に家族に尽くしたくなる」
「じゃあ、カルの1番はリムなんだね」
「僕の1番は、選べないよ。リムもシェリアもラクアンも坊ちゃんも、僕の1番だから」
血の繋がりもなく、種族も違う。それなのにカルは、私たちを家族として愛してくれている。きっと、これからも。
「私も、カルのこと大好きよ」
「ありがとう。坊ちゃんが殴ってきそうだけど、嬉しいよ」
確かに! それは困る。迂闊だったなぁ。
シアンとはいえ、カルには勝てないだろうけど、同時にカルもシアンには決して手を出さない。
しばらくの沈黙の後、私は気になっていることをカルに聞くことにした。
「・・・・・・ディヴェルツェは、来ると思う?」
穏やかな会話を交わしても、不安は私を煽ってくる。
「来るよ。腐っても国の象徴である彼らを見逃すはずがない。最悪の場合は、明日にでも乗り込んでくる」
「そんなに早く・・・・・・!?」
「はた迷惑な奴。最凶の竜帝、ディヴェルツェなんてよく言うよ」
怖い。ディヴェルツェが、カルを殺したら。この国を滅ぼしたら。カルは自称とは言うけれど、実際これが許されているくらいの力はあるってこと。
色々と思考をめぐらせていると、目の前がぐらついた。
「ご、ごめんカル、ちょっと目眩が・・・・・・」
「大丈夫かい? 色々あったからね。部屋で休んだ方がいい」
「ごめんね、シアンには後で話しておいて」
「いいよ。部屋まで送ろう」
カルはめまいを起こした私を抱き上げ、私の部屋へと運び、そのままベッドへと寝かせてくれた。
「リムウェルもいいかい?」
「うん」
頭の上からそっとリムウェルを下ろし、枕の隣に寝かせる。
「おやすみ、シェリア、リムウェル。何かあったら呼ぶんだよ」
「おやすみ、カル」
まだお昼だけどね。
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