5 / 30
5
しおりを挟む
皇帝陛下の説得でなんとかシアンと離れられて、私とリムはお庭に来ていた。リムは太陽の光を浴び、満腹も相まって直ぐにお昼寝に入ってしまった。
太陽の下だと、リムの真っ赤な鱗が鮮やかさが引き立てられて、さらに綺麗。
将来は、どんな子になるんだろう。この国に残るのか、去るのか。カルはリムの選択に全て任せている。
「・・・・・・あ、執事長さん」
「あ、あぁシェリアさん。その、良い天気ですね」
なぜか少し顔を赤らめて視線が迷子になっている。どしたんだろう?
「大丈夫ですか?」
「えぇまぁ。昨日は熱で倒れたとお聞きしましたが、大丈夫ですか?」
「はい、お騒がせしてすみません」
「いえっ、大きな病気ではなく良かったです」
親切なのは、皇帝陛下やシアン、カルだけじゃない。王宮に住む方々(一部を除く)は、私のことをよく気にかけてくれる。
シアンや皇帝陛下が強烈だからね、周りが霞んでしまうけど。奴隷の待遇じゃない。
「何度もお伺いしてしまいますが、シェリアさんは本当に貴族の出身ではないのですか? その、容姿が大変美しくいらっしゃるので」
容姿はあんまり気にしたことないかな。こんな身分だから。
「はい、母も庶民でしたし、父も庶民だと聞きました」
「お父様は、何をされていたのですか?」
父、父は・・・・・・何を、してたのだろう?
お母さんはお父さんのことを語ってくれなくて、仕事に行ってしばらくは会えないからと話していた。
だから、父のことは何も知らない。名前さえ、分からない。
「すみません、分からなくて」
「そうなのですね。ご家族が、恋しくはありませんか?」
もう会えないお母さんと、どこにいるか分からないお父さん。
恋しくないかと言われれば、嘘になる。
「幼いうちに父とは生き別れて、顔も朧気なんです」
「配下にある国に連絡し、お探ししましょうか?」
「いいんです。私は、父に会う覚悟がないので」
母が処刑され、私が奴隷として扱われるようになっても、父は姿すら現さなかった。ここに来ても、どこへ行っても。
でも、僅かに残る父の記憶は、とても優しくて、温かかった。私のことをいつも抱っこしてくれていて、家族を心から愛していた。そんな父が、なぜ助けに来なかったのか。
・・・・・・それはもう、考えたくない。
「すみません、暗い話をしてしまいました」
「いえ、お尋ねしたのは私なので、謝罪するべきは私の方です。申し訳ございません、そうですよね。思い出したくないはずです」
「そうですね。もう、昔の話ですから」
本当にもう、戻れない話だからする意味なんてない。もう、思い出さない方がいい。
「シェリアさん、良ければ今度私と──」
「シェリア、坊ちゃんがお呼びだよ」
執事長さんの話をさえぎって、カルが遠くから私を呼ぶ。
「すみません、失礼します」
「は、はい」
そういえば、執事長さんは何を言いかけたんだろう? 今度聞こうかな。
カルの所に行くと、私の腕に抱かれているリムを自分の腕に抱いて、額にデコピンをして起こした。
な、なんという起こし方。竜族のデコピンは洒落にならないらしいけど!?
「とと!?」
あーほら、額を押えて泣き目になっている。
「リムウェル、シェリアを置いて昼寝は駄目だろう。何かあったらどうするだい?」
「ととー・・・・・・」
私や皇帝陛下には優しいカルだけど、息子には少し厳しい。それは、竜狩りに遭わせないためだと前話していた。
母と、死んでいった同族たちと同じ目に遭わせないために。
だから、せめて私が母親代わりになればいいと思ってるのだけれど。
「カル、私が寝かしつけたの。怒らないであげて」
「分かってるよ」
すぐに穏やかな顔に戻った父親を見て、リムは嬉しそうに尻尾を犬のように振る。
「ところで、シアンってもしかして・・・・・・」
「シェリアがいないとやらないと駄々こね中だね」
「えー・・・・・・」
まだそんなに時間たってない。ねぇシアン、もしかして精神年齢、リムよりも下だったりする?
「流石にシェリアも1人になりたいだろうし、リムウェルも大好きなお姉ちゃんに甘えたい時間だから逃がしたんだけど」
「やー! シェリねぇおひるね!」
「こればっかりは仕方ない。公務は国に関わることからね」
「そういう事だ」
後ろから両肩に手を置かれ、私の体がビクッと跳ねる。
「じゃあシェリー、行こうか?」
やっぱりこうなるのね・・・・・・。
カルは今にもシアンに飛びかかりかねないリムをカルが片手で制しながら、こちらに笑顔で手を振っている。助けてはくれないみたい。
太陽の下だと、リムの真っ赤な鱗が鮮やかさが引き立てられて、さらに綺麗。
将来は、どんな子になるんだろう。この国に残るのか、去るのか。カルはリムの選択に全て任せている。
「・・・・・・あ、執事長さん」
「あ、あぁシェリアさん。その、良い天気ですね」
なぜか少し顔を赤らめて視線が迷子になっている。どしたんだろう?
「大丈夫ですか?」
「えぇまぁ。昨日は熱で倒れたとお聞きしましたが、大丈夫ですか?」
「はい、お騒がせしてすみません」
「いえっ、大きな病気ではなく良かったです」
親切なのは、皇帝陛下やシアン、カルだけじゃない。王宮に住む方々(一部を除く)は、私のことをよく気にかけてくれる。
シアンや皇帝陛下が強烈だからね、周りが霞んでしまうけど。奴隷の待遇じゃない。
「何度もお伺いしてしまいますが、シェリアさんは本当に貴族の出身ではないのですか? その、容姿が大変美しくいらっしゃるので」
容姿はあんまり気にしたことないかな。こんな身分だから。
「はい、母も庶民でしたし、父も庶民だと聞きました」
「お父様は、何をされていたのですか?」
父、父は・・・・・・何を、してたのだろう?
お母さんはお父さんのことを語ってくれなくて、仕事に行ってしばらくは会えないからと話していた。
だから、父のことは何も知らない。名前さえ、分からない。
「すみません、分からなくて」
「そうなのですね。ご家族が、恋しくはありませんか?」
もう会えないお母さんと、どこにいるか分からないお父さん。
恋しくないかと言われれば、嘘になる。
「幼いうちに父とは生き別れて、顔も朧気なんです」
「配下にある国に連絡し、お探ししましょうか?」
「いいんです。私は、父に会う覚悟がないので」
母が処刑され、私が奴隷として扱われるようになっても、父は姿すら現さなかった。ここに来ても、どこへ行っても。
でも、僅かに残る父の記憶は、とても優しくて、温かかった。私のことをいつも抱っこしてくれていて、家族を心から愛していた。そんな父が、なぜ助けに来なかったのか。
・・・・・・それはもう、考えたくない。
「すみません、暗い話をしてしまいました」
「いえ、お尋ねしたのは私なので、謝罪するべきは私の方です。申し訳ございません、そうですよね。思い出したくないはずです」
「そうですね。もう、昔の話ですから」
本当にもう、戻れない話だからする意味なんてない。もう、思い出さない方がいい。
「シェリアさん、良ければ今度私と──」
「シェリア、坊ちゃんがお呼びだよ」
執事長さんの話をさえぎって、カルが遠くから私を呼ぶ。
「すみません、失礼します」
「は、はい」
そういえば、執事長さんは何を言いかけたんだろう? 今度聞こうかな。
カルの所に行くと、私の腕に抱かれているリムを自分の腕に抱いて、額にデコピンをして起こした。
な、なんという起こし方。竜族のデコピンは洒落にならないらしいけど!?
「とと!?」
あーほら、額を押えて泣き目になっている。
「リムウェル、シェリアを置いて昼寝は駄目だろう。何かあったらどうするだい?」
「ととー・・・・・・」
私や皇帝陛下には優しいカルだけど、息子には少し厳しい。それは、竜狩りに遭わせないためだと前話していた。
母と、死んでいった同族たちと同じ目に遭わせないために。
だから、せめて私が母親代わりになればいいと思ってるのだけれど。
「カル、私が寝かしつけたの。怒らないであげて」
「分かってるよ」
すぐに穏やかな顔に戻った父親を見て、リムは嬉しそうに尻尾を犬のように振る。
「ところで、シアンってもしかして・・・・・・」
「シェリアがいないとやらないと駄々こね中だね」
「えー・・・・・・」
まだそんなに時間たってない。ねぇシアン、もしかして精神年齢、リムよりも下だったりする?
「流石にシェリアも1人になりたいだろうし、リムウェルも大好きなお姉ちゃんに甘えたい時間だから逃がしたんだけど」
「やー! シェリねぇおひるね!」
「こればっかりは仕方ない。公務は国に関わることからね」
「そういう事だ」
後ろから両肩に手を置かれ、私の体がビクッと跳ねる。
「じゃあシェリー、行こうか?」
やっぱりこうなるのね・・・・・・。
カルは今にもシアンに飛びかかりかねないリムをカルが片手で制しながら、こちらに笑顔で手を振っている。助けてはくれないみたい。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる