皇太子の溺愛

にゃこにゃこ

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 皇帝陛下の説得でなんとかシアンと離れられて、私とリムはお庭に来ていた。リムは太陽の光を浴び、満腹も相まって直ぐにお昼寝に入ってしまった。
 太陽の下だと、リムの真っ赤な鱗が鮮やかさが引き立てられて、さらに綺麗。
 将来は、どんな子になるんだろう。この国に残るのか、去るのか。カルはリムの選択に全て任せている。
「・・・・・・あ、執事長さん」
「あ、あぁシェリアさん。その、良い天気ですね」
 なぜか少し顔を赤らめて視線が迷子になっている。どしたんだろう?
「大丈夫ですか?」
「えぇまぁ。昨日は熱で倒れたとお聞きしましたが、大丈夫ですか?」
「はい、お騒がせしてすみません」
「いえっ、大きな病気ではなく良かったです」
 親切なのは、皇帝陛下やシアン、カルだけじゃない。王宮に住む方々(一部を除く)は、私のことをよく気にかけてくれる。
 シアンや皇帝陛下が強烈だからね、周りが霞んでしまうけど。奴隷の待遇じゃない。
「何度もお伺いしてしまいますが、シェリアさんは本当に貴族の出身ではないのですか? その、容姿が大変美しくいらっしゃるので」
 容姿はあんまり気にしたことないかな。こんな身分だから。
「はい、母も庶民でしたし、父も庶民だと聞きました」
「お父様は、何をされていたのですか?」
 父、父は・・・・・・何を、してたのだろう?
 お母さんはお父さんのことを語ってくれなくて、仕事に行ってしばらくは会えないからと話していた。
 だから、父のことは何も知らない。名前さえ、分からない。
「すみません、分からなくて」
「そうなのですね。ご家族が、恋しくはありませんか?」
 もう会えないお母さんと、どこにいるか分からないお父さん。
 恋しくないかと言われれば、嘘になる。
「幼いうちに父とは生き別れて、顔も朧気なんです」
「配下にある国に連絡し、お探ししましょうか?」
「いいんです。私は、父に会う覚悟がないので」
 母が処刑され、私が奴隷として扱われるようになっても、父は姿すら現さなかった。ここに来ても、どこへ行っても。
 でも、僅かに残る父の記憶は、とても優しくて、温かかった。私のことをいつも抱っこしてくれていて、家族を心から愛していた。そんな父が、なぜ助けに来なかったのか。
 ・・・・・・それはもう、考えたくない。
「すみません、暗い話をしてしまいました」
「いえ、お尋ねしたのは私なので、謝罪するべきは私の方です。申し訳ございません、そうですよね。思い出したくないはずです」
「そうですね。もう、昔の話ですから」
 本当にもう、戻れない話だからする意味なんてない。もう、思い出さない方がいい。
「シェリアさん、良ければ今度私と──」
「シェリア、坊ちゃんがお呼びだよ」
 執事長さんの話をさえぎって、カルが遠くから私を呼ぶ。
「すみません、失礼します」
「は、はい」
 そういえば、執事長さんは何を言いかけたんだろう? 今度聞こうかな。
 カルの所に行くと、私の腕に抱かれているリムを自分の腕に抱いて、額にデコピンをして起こした。
 な、なんという起こし方。竜族のデコピンは洒落にならないらしいけど!?
「とと!?」
 あーほら、額を押えて泣き目になっている。
「リムウェル、シェリアを置いて昼寝は駄目だろう。何かあったらどうするだい?」
「ととー・・・・・・」
 私や皇帝陛下には優しいカルだけど、息子には少し厳しい。それは、竜狩りに遭わせないためだと前話していた。
 母と、死んでいった同族たちと同じ目に遭わせないために。
 だから、せめて私が母親代わりになればいいと思ってるのだけれど。
「カル、私が寝かしつけたの。怒らないであげて」
「分かってるよ」
 すぐに穏やかな顔に戻った父親を見て、リムは嬉しそうに尻尾を犬のように振る。
「ところで、シアンってもしかして・・・・・・」
「シェリアがいないとやらないと駄々こね中だね」
「えー・・・・・・」
 まだそんなに時間たってない。ねぇシアン、もしかして精神年齢、リムよりも下だったりする?
「流石にシェリアも1人になりたいだろうし、リムウェルも大好きなお姉ちゃんに甘えたい時間だから逃がしたんだけど」
「やー! シェリねぇおひるね!」
「こればっかりは仕方ない。公務は国に関わることからね」
「そういう事だ」
 後ろから両肩に手を置かれ、私の体がビクッと跳ねる。
「じゃあシェリー、行こうか?」
 やっぱりこうなるのね・・・・・・。
 カルは今にもシアンに飛びかかりかねないリムをカルが片手で制しながら、こちらに笑顔で手を振っている。助けてはくれないみたい。
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