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蜜花イけ贄(18話~) 不定期更新/和風/蛇姦/ケモ耳男/男喘ぎ/その他未定につき地雷注意
蜜花イけ贄 34
しおりを挟む桔梗は膝を開かれ、下から突き上げられていた。こうはならないように叔父と逃げたが、それは結局のところ無駄な抗いであった。叔父は無為に自由を失ったのだ。彼女が虚しさを突き詰めるだけ、貴人の突き上げは速くなる。
「ああ……いいよ、桔梗。濡れ濡れになって、よく締まる。葵。桔梗のお饅腔を舐めてあげなさい」
感嘆の呻めきを漏らし、茉莉はわずかに彼女の躯体を持ち上げ、さらにぱんぱんと腰を振った。粘こい強靭な泡を纏わりつかせ、女の窪みに牡の棍棒が突き刺さっている。
彼等の目の前にいた葵は四つ足の獣みたいに結合部へ顔を寄せた。陰阜の茂みが風に戦ぐ。
「ひ、ぃ……」
「どうだい、牝の薫香は。牡はこの匂いに逆らえない。酒よりも厄介な匂いだよ。女の核を舐めてあげて。この腫れ物をね。優しく。舌先で揺さぶって抉っておやりなさい。君も陰核でお射精ができたらいいのにね。生憎、女の射精はここか」
貴人は女の脳天から己の漲った肉棒を突き出すみたいに彼女を落とした。
「あ、ううう!」
結合部から霧が噴き出る。女の射精と貴人の御唇は喩えるが、それは無色透明であった。
「気をやってるね、いいよ……よく締まる」
真夏の犬みたいに荒く浅い呼吸をする女に構わず、貴人は自らの肉串を突き刺す。貫くのをやめなかった。
彼女の膝の間に居座る男は生臭い牝牡の匂いを嗅いでいた。
「ああ、君も舐めたいよね。愉しんじゃってごめんね……?」
なめらかな色の白い御手が、女の脚をさらに大きく開かせた。
「あっ!」
恥ずべきところはすべて晒した。目の前で四つ這いになり、舐め狗に扮した男に対して、桔梗の秘めておくところはもう何もなかった。
「女の雛鳥を愛でてあげて」
隠すことのできない雛鳥の嘴を、同じような色をした葵の舌が舐め摩った。張りのある肉が捩れる。
「ん、あああ………っ」
桔梗は暴れた。だが線の細い、どちらかといえば嫋やかな部類の貴人の腕は力強かった。
「もっと下品に舐めなきゃいけない。君は今、卑しい女の蜜狗なんだよ」
水を飲む猫みたいだった。小刻みに舌先で小振りなりに膨れた肉粒を掬う。
桔梗は震えた。咥えている残忍な肉棍を締め上げてしまう。食い千切りそうだった。
「いい!……いいね。射精したくなってきたよ」
徐ろに、茉莉は腰を持ち上げる。わずかな摩擦で隘路が掻き分けられていく。
「あ~、出したい。出したい、出したいよ、桔梗。中にびゅるびゅる、泥みたいな子種を吐き出したい。腐った山羊乳みたいなのを……」
麗しい唇は、迫り来る放精の兆しを鎮めようとしているらしかった。桔梗の背中を吸っている。
「ぅ、あ、あ………っは………」
貴棒は上下運動をやめ、女体を脚の間に押し付けた。
桔梗は首を垂らし、汗ばんだ真っ白な頸を晒していた。
「くっさい汁出しちゃところだった。桔梗のナカをねばねばにしちゃうところだったね、危ない、危ない。ああ~、でも気持ちいいよ。ぷりぷりのおめこに扱かれて、男の生臭汁注ぎたい」
貴人は喋りながら、抱いている女の股に顔を埋める家臣を見下ろしていた。瑞々しい御手が、舐め犬の夢中になっている肉房を左右に割り開く。
「あ……!」
遠慮がちに抉り込んでいた舌先が自由を得る。剥き出しにされた雛頭の両脇を舐め吸われ、生温かく揺さぶり叩かれるのだった。
「あ、あ、あ………あぁ、!」
逃げ場のない鋭い快楽は、真下で咥えているものに八つ当たりをして解消するしかなかった。
「ダメだよ、桔梗。締めすぎだよ。動いてないのに、逝きそうだ」
彼女は艶やかな吐息を耳殻の裏で感じた。股ぐらでは舐め狗の唇が小さな肉に焦れていた。角度を変えては何度も甘く食む。そのたびに舌の質感に嬲られるのだった。内外の刺激によって恍惚の悪寒が背筋を走る。
「ふ、ぁあ、あ……」
「いいよ、逝って。葵、桔梗の逝く顔見てあげなさい。つびは指でしてあげて」
舐め犬は下唇を大いに濡らして徐ろに顔を上げた。目は虚ろだが、偉大な飼主の声を聞く耳はあるらしい。桔梗の顔の高さに合わせ、接近する。
「葵。見てあげてと言ったんだよ、おれは。口で交合えなんて、まだ言ってないよね」
唇を近付けたまま、貴人の傀儡はそこで止まった。そして忘れていたように、剥かれた小さな女果実を摘んだ。
「あっ、」
「いいね、桔梗。葵にお豆を摘まれて、奥を締めてしまったんだね。葵、たくさん桔梗のお豆を捏ねてあげなさい」
そのときばかりは、舐め狗が貴い飼主を操っていたも同然だった。唾液に覆われた突起を長い指が器用に揉みしだくと、貴い尻が浮いた。
鼓動よりも随分と緩やかな速さで、しかし安定した調子で活塞している。
「ああ、………まつ、りさ、ま………」
桔梗は襲いくる大きなものの兆しに恐れ慄いた。
「うん……?逝くときは逝くと言うんだよ。おめこがびっくりしちゃうからね」
「逝、きま………す……う、んんッ……あああ………!」
絢爛な布に覆われた女は激しく身悶えた。拳ひとつ鼻先に置けるかどうかというところには、虚ろながらに粘こい眼差しがある。片栗粉の溶き水を張ったような眸子は、彼女の瞳の中に刻まれた襞を数えているようである。桔梗も肩まで跳ねるような激しい快感と腹の中で起こる地響きを覚えながら、その頑な眼に縋りついていた。
「ぁ、ああ、……」
「葵、もし桔梗がおれの種で孕んじゃったらごめんね?娶らないから安心して。貧民窟に捨てるよ。孕んでる吾妻形なんて要らないでしょ?……要るの?要るなら口交尾みしてやりなさい」
舐め狗は飼主の大切な吾妻形人形の唇を吸った。舌を捩じ込み、竜巻でも起こさんばかりである。
「要るんだ?おれの種を育てる気なんだ。あっはっは。興奮してきた。おれの種を、葵は、自分の子供みたいに育てる気なんだ。おれと桔梗の子を葵が………ああ、珍宝がまた勃ってきちゃった。袋が、桔梗の中で稚児になりたいって、どくどく疼いてる。生まれたって苦獄大穢土なのに。でも、この種汁の自分で選んだ道だね。おれと桔梗の子を、葵が自分の子みたいに育てるんだな。愛した女を吾妻形にして産ませた子供を?おれの種だから?桔梗の胎だから?どっち?どっちもだろうね。違うな!桔梗が望んだ子じゃないからだろう?桔梗が吾妻形にされて産む子だからだろう!異常者め!あのアサガオとかアジサイとかアカマツとかいうのの子畜生なら間引いてたくせに」
偉大な、現在天下を統べている飼主の声は、いくら忠実であろうと飢渇した狗には届いていなかった。堕ちた忠犬は、よく濡れた餌箱を漁るのに必死であった。甘い蜜を啜り、熟れた肉を食うのに夢中であった。
「ああ……ダメだよ、桔梗。そんなに締め付けたら…………貴種を搾り取ろうとして…………そんなにおれの落とし胤があったら困るだろう?困らない?そうだね、この宮殿を血の湖にして、天下をまた戦火と死肉で覆い尽くそうか。蛾の羽搏きで狂飆鬼雨が起こるように、君のおめこの一蜿りで、この国を燃やすことができるかもしれない。ああ、でも君にそうさせているのは葵か。葵、君もとんだ破滅願望があるんだな。桔梗と口交尾みして、国を傾けさせるつもりだなんて」
貴人ははしたない吾妻形人形の最奥を打ち据える。
「あ、ふんんっ……!」
四つの花弁が入り乱れたところから滴り落ちていた水蜜は、その衝撃で引き千切れてしまう。
「葵………葵。こら、葵。このバカ狗」
御手が女の片脚を離れ、言うことを聞かない暴れ狗、駄犬の耳を抓った。水甕から手を引き抜いたときのように、彼等の口元は濡れていた。
「そこに仰向けで寝て。桔梗のナカにおれが入ってるの見なよ。桔梗とおれの交尾汁、浴びて?」
「御意」
葵は恍惚とも虚無とも判らない顔をして、徐ろにそこに寝そべった。貴人は大変お気に召している吾妻形人形を抱き上げて膝で歩いた。駄犬の頭の上で四つ這いにさせ、貴人は膝で立ちながら腰を前後に振った。
「あ、あ、あ……!」
「見て、葵。じっくり、見なよ。おれのかちかちの珍宝が桔梗のつびを抉ってるところ。腐れ珍宝の返が古い精を掻き出してるだろ?おれの玉袋が、桔梗の女陰を叩いてるところ!」
桔梗は下から串刺されていたときよりも、多面的で深い接触をしているように思えた。芯を包み、核まで小突くようだった。
「あ、あ、あ……」
一突きで思考がぼやける。一定の速さになった抽送で朦朧とする。
何も考えられなくなってしまった。ここが死体まみれであることも、あらゆるものを捨てても拒んだ男に犯されていることも、穢らわしい交接の局部を見られていることも、好い人が死んでしまったことも。考えてみたところで、すべてを良しとしてしまいそうだった。
「逝き汁かけてあげな?その前に交尾汁飲ませてあげなきゃ。ほら葵、おれの子種と桔梗の饅腔汁、飲みなさい。おれと桔梗、どちらを愛するか、君は決められないんだもんな。じゃあ両方手に入れたらいいよ。手に入れられてあげよう。ほら、葵。おれと桔梗の交尾汁飲め!」
蝋人形みたいになった葵は萎びた唇を開いた。活塞が貴人の古い精を掻き出し、蕊から溢れて落ちていく。貴種も下種と同じく白濁として粘性を帯びていた。牝の芳醇な甘い匂いのなかに牡の生臭さが混在している。
死忠犬は喜んで貴い淫飴を口に迎え入れた。忠烈に仕える主君と、娶ることのできなかった女の悦楽汁を。
「桔梗、見なよ、葵の聳り勃つものをね。大好きなおれの珍矛が、愛してる君の饅腔に突き刺さっているのが嬉しいんだよ。え?翳って見えない?あっはっは。葵!よく見ておきなよ。死骸の中で、見ておきなよ!」
貴人の御手が吾妻形人形の腿を持ち上げた。
「あ!あ!あ!ああんっ」
彼女の声がいっそう高くなる。
「逝け」
それは命令であった。強情な女もいざ肉体に命じられると従順なものだ。括れた腰をくねらせて、媚襞の疼きを擦り付けるように貴茎を扱いた。
彼女は目を閉じた。快楽以外、身体の内側に関する他の感覚のない中で、腹に飛び散る水滴については無視できなかった。貴人は抽送をやめない。水面を叩くような飛沫が外で起こっている。蝋人形は霧雨を浴びていた。
「あ、んっ、あっ、だ、め………まつ、りさま………あっ、んあっ!」
身体中が熱かった。ゆえに腹に飛び散る水滴が際立つ。羞恥に冷めることを穢らしくも貴い肉竿が赦さないのである。
「い、や……ぁんっ、いや……あっ、あっ」
彼女の上体はついに落ちた。葵の腹へ頬を擦り寄せる。彼の身を包む布は返り血が乾いて固くなっていた。
「妬けるな、桔梗。ほら、身体を起こして。君愛してるのは誰?葵の匂いと肉感に溺れながら、おれの珍棒で気をやるの?」
だが桔梗は上体を起こすことができなかった。
「よかったね、葵。もしここでおれの種が実を結んだら、葵、それは桔梗と俺と君の、3人の子だよ」
貴人の戯れは長く続いた。畳の血溜まりも乾き、罅が入るまで続いた。
神馬藻隠密衆が大打撃を受けた出来事が起きた後に、宮中では盛大な祝い事が催された。しかし見世物小屋に放り込まれている桔梗の生活は何も変わりはしないのである。紗を被り盛り塩の上の拝香枝に合掌した。そしてその横では催事に参加すべき男が檻のなかで文机に向かっている。
足音が近付いてきていた。祝事といえど奉公人たちには関係のないことだった。むしろ忙しさが増しているようだった。格子の奥で次から次へと左から右に、右から左に、行き交う様が見られるのだった。ところがそれとはまた別の足取りであった。
「葵様」
糖花みたいにかわいいらしい声がかかる。粉の吹くように乾ききって閑とした座敷牢にそぐわなかった。艶やかな衣装や華やかな装飾品は平生の身形よりも豪勢であった。後ろに控えた侍女2人も煌びやかだった。
「葵様……茉莉様のお祝い事ですわ。参加いたしませんことには……」
「書類はそちらへ……」
彼は熱心に筆を動かしていた。
「薺でございますが」
紙面を駆けていた筆が止まる。そして筆置きに手が伏せられた。貴人の御前に出るには見窄らしい、質素な仕事着で葵は立ち上がる。ゆったりとした仕草は美しかった。だがその目付きも顔色も健康とは言い難い。彼は熱心に仕事を処理していたのだろうか?文机の上には、妻の名を書き連ねた紙が乗っていた。妻の名を書き連ねる業務があったというのだろうか。
「私はお休みをいただきました。お酒はお持ちしましたか」
格子越しに夫婦は話す。
「お休みならば、ご自宅でなさるべきですわ」
「仕事も残っていますから……貴女の心配するところは何もありません」
夫婦の視界に紗の繭などは入っていなかった。だがぼんやりとして喋る夫に、妻は不満げであった。
「ここで仕事をなさるんですの?ご自宅ではできませんの?あたくしのお家では……」
「ここでするのが捗るのです。茉世様によろしくどうぞ」
「ご自分でおっしゃって!」
「私は病んでいますから………私は病んでいますので……」
葵は妻から文机へと逃げてしまった。そして羽虫を払うような素っ気無さでそこに乗っていた紙を投げ捨て、新しい紙を敷いた。
「葵様!」
「夜に……夜にまた逢いましょう」
彼は妻から逃げきった。彼の妻はまだ諦めきれないようだったが、格子の前を通り過ぎていった。
妻に対して、心配するところは何もない、と彼は言った。言って大した時間は経っていなかった。にもかかわらず、葵は四つ這いになって、紗の繭へと躙り寄った。そして裸に剥き、昨日何度も貴種を受けた女穴を突いた。今夜、妻と夜の約束を交わしたばかりだというのに、後先も考えていなかった。彼の肉体はまだ若いが、その外貌にたがわず精力的ではないようだった。しかし女の奥を漁った。仰向けに倒された女に圧しかかり、緊と抱き締めて腰を進める。貴人の腹も膨らみ喉が潤い、あらゆる者が救われるようなありがたい蘊蓄によれば、肌の接触が増え、挿入されている実感が薄らぐそうであるが、葵はこの体位を好んだ。女の柔肌に腕が食い込むのが気に入っているようだった。そして口腔を漁るのも。
祝事で吏員たちは出払い、奉公人たちは駆けずり回る忙しさである。誰もこの交尾を気にする者はなかった。
「桔梗様…………」
葵は市場の鮪同然の吾妻形人形の冷たい頬に頬擦りしながら射精した。吾妻形人形も両胸の実を捏ね繰られ、奥を突かれては無事ではいられなかった。死にゆく毒蜘蛛みたいに暴れて絶頂する。
吐精の余韻に浸りながら、彼は収斂する女の中を往来した。そして毛繕いする猫みたいに女の毳立ってかさついた肌を舐めた。
「山奥で暮らしませんか」
繋がったまま彼は訊ねた。
「山奥で、静かに、暮らしませんか。世間の大騒ぎを横目に、毎日ここを擦り合わせて、過ごしませんか」
葵はどこを擦り寄せるのか、言葉にはせず、実際に擦り合わせて教えた。鎮まりかけていた収縮と逆行する。
「俺は剣を捨てて、薬売りも辞めます。都のことは忘れて、平穏に暮らしたい……桔梗様と…………」
無邪気に語っている。
「御令妻は、どうなさるのです………」
桔梗の喉は挽き潰れていた。貴人の御手に、昨日散々締め上げられていた。この忠犬が取り縋って中断を求めたほどだ。
「別れません」
つまり3人で山に住むというのだろうか。所詮は現実みのない戯言である。
「桔梗様……もう1回、したいです」
彼は女の尻を叩くように腰を突き入れた。拒否権はないのだった。爆ぜたばかりのものは硬さを戻していく。桔梗は下腹部に重みを感じた。
「もう……離れてください」
「嫌です。出したい。桔梗様のなかに、出したい」
女体を抱き締めていた腕が、投げ出された細腕を各々拾った。葵は気怠そうに身体を起こし、彼女の腕を引きながら腰を振る。
「う、う、う、う……っ」
窶れて疲れ切っている彼女の身体にも肉の波が起こる。
「田舎でなくても……貴方と静かなところで抱き合って暮らしたい……貯えも少しはありますから……桔梗様……………俺と、」
だが言葉と共に抽送は止む。彼は真っ白い顔をして、急に涙を流しはじめた。薄い目蓋を屡瞬き、長い睫毛が光った。溜め息を吐きたくなるような美しさだった。全体像さえ見なければ。彼は女を手籠めにして、情けなく腰を振っている最中であった。忽如として泣き始めた男に勢いはない。
「俺は病んでいるのです。休息が必要なのです。労わってください。慰めてください。俺を愛してください。俺の懸想に応えてください……」
吹いたら消し飛んでしまいそうな儚い容貌とは真逆の、図々しく太々しい性格のようであった。涙をはらはら落としながら、恥じらいもなく要求するのである。
だが彼が病人を自称するのは、彼の大好きな飼い主、死忠を誓った主人が何度もそう復唱させたのだ。
「俺は病んでいます。俺には休息が要るのです……」
桔梗の耳にも、昨日の貴人の哄笑が甦った。忠犬をオウムやインコにして遊んでいた。
「俺はどうしたらいいのでしょう。俺はどうしたら……?」
「休息をとれば、よろしいのです」
喉に痒みを覚え、彼女は咳をした。さらに痒みが増し、自ら咳き込む。違和感は残り続ける。
葵は文句を言いたいだけ言い、巻きたいだけ管を巻き、諄々と延々と、長たらしい御託を並べていたが、その咳を聞くと、ふっと口を噤んだ。そして自身の懐に手を入れると、飴玉を取り出した。彼は己の口に放り込んでから、桔梗を起こした。そして彼女の口に飴玉を押し付ける。否、彼は他人の口を使って飴を舐めた。咳の衝動に拒まれても、彼は他人の口を使い続ける。飴玉が小さくなると、ばりばりと噛み砕いた。破片を纏った舌を捩じ込んで喜んでいる。
「俺は桔梗様の飴玉人形になればいい……?」
桔梗は無言のうちに男の胸を突っ撥ね、背中から落ちる。しかし葵は受け止めにかかる。女腹に打ち込んだ肉杭はまた張り詰めていた。
「俺は病んでいます。俺は病んでいるのです。桔梗様………癒してください。俺の消えない傷を癒してください………」
この文言を考えたのは、今頃大広間で宴を開いている貴人であった。そして忠犬はとうとうオウムだのインコだのの類いになったのだ。けれど、そのほうが愛でられ、慈しまれるのかもしれない。
「桔梗様……俺を哀れんでください。何もない、しがない男です」
乱雑で的外れ、安易で短絡的な謙遜であった。桔梗の目線はこの男よりもずっと下方にあったけれど、見下さずにはいられなかった。「何もないしがない男」というものの惨めさを、この男が知る日は来るのだろうか。
桔梗は口の端を吊り上げていた。それは嘲笑であったのか。だが虚空を望んでいる瞳が何度か閉ざされると、その口元は柔らいでいった。
「桔梗様……」
「何もない、しがない人でも、わたし………楽しかった………」
大笑いし、高揚感を覚えるような楽しさとは違っていたことは認めねばならなかった。だが長続きしていくのだとしたら、おそらく倦むことになるのは分かりきっている平穏だった。失ってから、楽しさだと気付く、幸せだった。恋しさだった。
見上げられながら見下されている哀れなオウムは眉根を寄せた。まだ濡れている睫毛が伏せる。
「嫌です、桔梗様………俺を見て………俺を見て、桔梗様………」
止まっていた腰が拍手みたいに打ち鳴らされた。健康な肉体同士の衝突ではなかった。あまり快い音にならなかった。
葵は唸り、奥歯を噛み締める。女の肘を引き寄せて上体を屈めた。
夜のことだった。噛み付かれ、鷲掴まれの交合に疲れ、寝ているときのことだった。夜着に身を包んだ奉公人が格子の前へやってきた。
熱い湯呑を渡される。祝事で出された貴重な飲み物だという。
桔梗は寝ていたかったが、飲まなければ帰れないらしかった。湯呑の片付けがあるのだろう。改めて見ると、華美な器であった。
彼女はそれを数回に分けて飲んだ。葵に食わされた「しょくらあ糖」が液体になったような味だった。粘度があり、仄かに苦く、かなり甘い。喉から肚に落ちていくのが分かった。
礼を言って、湯呑を返した。酒に似た風味に小さく咳をする。奉公人は去っていき、彼女はまた横になった。爪先に痺れるような疼きが起こる。冷えていたところが温まったような感覚であった。それが指先にも起こる。徐々に範囲を広げながら。
病熱とはまた異質の気怠さに彼女はくったりと溶けてしまった。息が荒くなる。
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