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ネイキッドと翼 ケモ耳天真爛漫長男夫/モラハラ気味クール美青年次男義弟/
ネイキッドと翼 8
しおりを挟む蓮が帰宅する頃に、茉世は夫の部屋に押し込まれていた。彼女は蓮とのことについて夫や義次弟には話さなかったが、長弟がもしくは次兄が、妻を或いは兄嫁を猛暑の車外に放り出した一点のみについて怒りを露わにした。
襖の向こうで言い争いが聞こえた。主に霖だった。声が近付いてきている。そしてすぱんっと切れよく襖は横へ滑った。車輪でも入っているかのようだった。
「何が帰ってきてない、だ。お前等が嘘を吐いてもGPSは嘘を吐かん」
蓮は茉世を睨みつけから、蘭と霖に向き直る。
「GPS?GPSですって?正気ですか、兄さん!」
天袋で寝ていたらしい白猫のルンが、霖の声が荒げたことに嫌気が差したらしい。天井いっぱいまで身体を伸ばし、欠伸をして降りてきた。
「逃げ出す前に、な。兄さん、悪かった。兄さんにあげるよ。自分の妻の動向を、弟とはいえ他の男が管理していたのではつまらないでしょう?」
言葉使いや呼び方については、蓮は蘭を目上としているようだった。だが態度や口の利き方でいうと、まるきり兄を軽んじている色を帯びていた。
「蓮くん。フツーは喧嘩しても、人を車から降ろさないんだよ」
侮蔑の眼差しが茉世に戻ってくる。
「そういう話になっているのか?」
だが彼は弁解しなかった。愉しげに口角を吊り上げた。薄い唇がさらに薄くなる。
「蓮兄さん!GPSだなんて人権侵害ですし、車から降ろしただなんてモラハラですよ。いつの時代の人間なんですか?この嫁いびりじじい!」
「もうしないさ。もう兄さんに渡す。ルンにも首輪が付いているだろう。何故だ?何故なんだ、霖」
霖は蘭が腕を割り入れなければ、掴みかからんばかりだった。
「嫁は猫と違うんですよ。嫁を動物と並べるですって?だめだ、この男は。この男はだめです。モラです。嫁いびりです。鬼姑のほうがまだ倫理ってものもを持ってますよ。蘭兄さん!蘭兄さんがしっかりするところなんですよ」
それは八つ当たりのような流れだった。霖は喉を擦り切らせるように叫んでいる。すまなく思った。
「霖くん。ありがとう。でも大丈夫ですから。永世さんが見つけてくれましたから……」
茉世が言うと、霖もすまなげに眉を下げた。
「口答えして刃向かってくる嫁さ。お前の心配よりも5倍は気が強い。猫をかぶるのがお得意みたいだがな」
霖は無表情になって、長兄を肘で小突いた。
「お、おでの妻が、蓮くんに何かした?」
蘭は蓮を恐れているようだった。古めかしい家柄のようだが、長男だというのに次男に対して威厳がない。
「長男の妻として、三途賽川の嫁として、躾がなっていない」
「なんですか躾って。一体蓮兄さんは、茉世義姉さんの何なんですか?三途賽川の狭い世界で勘違いしてるんじゃないですか?非常におモテになるから?五百歩譲ったとしても、茉世義姉さんは蘭兄さんの妻であって、蓮兄さんのじゃないんですよ。ああ、小舅として、こうはなりたくないです。こうは」
霖は冷めた様子だった。
「おでは、そのままの茉世ちゃんが好きだよ」
蘭は長弟よりも背が低いのが、並ぶと分かった。蓮は人を小馬鹿にしたように首を倒し、去っていった。
「蓮兄さんが異常なんです。気にしないでください」
霖は兄弟のやり取りを茫として見ていた茉世にすまなそうだった。
「すみません。わたしがしっかりしていないあまり……ありがとうございます」
この次弟がいなければ、夫は無言を貫いたか、長弟の言い分に賛していそうなものだった。
夕食時、襖のドブ縁が軽くノックされた。
「ぼくです、永世です」
「どうぞ……」
茉世は箸を持ち上げたばかりのところだった。
「茉世さん、夕食、ご一緒しませんか。ぼくの部屋ならクーラーもありますから」
「夫と召し上がったんじゃないんですか……」
乾いた声が出た。相手は苦笑する。
「分家ですからね……」
「無神経なことをお訊きしました」
「いいえ。今時、本家だの分家だの、ちょっと珍しいですもんね」
「お食事の件ですが、いいんですか。一緒にいただいても?」
アルパカのような目元が和らぐ。
「ぼくはそうしたいのですけれど……」
彼女は膳を持ち上げる
「こちらです」
永世に貸された部屋は南の端にあった。なかなか悪くない部屋である。すでにクーラーが点いていて、心地良い温度だった。
「寒かったら温度、上げちゃってください」
「ありがとうございます」
彼の部屋にはテレビもあった。ニュース番組がついている。
「何か観ますか?」
「いいえ……特には」
すると音量が2、3下げられた。
「永世さんは、泊まられるんですよね?」
「はい。迷惑でなければ、その間も誘わせてください」
「こちらこそ、どうぞ誘ってください」
互いに向かい合って飯を食った。夫ともしたことがない。それを、今日会ったばかりの者としている。
「お酒とか、飲まれるんですか」
「この後、お風呂行こうと思っているんです。車で。ぼくも泊まっていることですし、人が多いでしょう?」
「確かに……そうですね……」
「茉世さんも行きますか。すぐそこの銭湯なんですけど、市民なら300円ですし、ぼくに無料券くれたんですよ……三途賽川なら顔パスでしょうし」
今度は茉世が苦笑した。
「でも今、手持ちのもので三途賽川の人間であることを証明できるものがないんです」
「じゃあ、今日は霖さん禅さんを誘ってみます。入館券作りしょう、またそのうちに。でも、そうですね、いつか茉世さんと飲みたいです。得意なほうなんですか?」
鍾甌を掴んでくいりと手首を捻る仕草に微笑みながら彼女は首を振った。なんだか年寄り臭かった。永世という清楚な雰囲気の若い男に似合わなかった。
「あまり飲んだことがありませんので、分からないのですけれど……1杯くらいなら」
「最初の1杯が、結局一番楽しいですからね」
どう返そうとも肯定的に受け取られるようだった。まるで接待だ。だが彼は分家として共に飯を食えないと卑しまれている。本家の嫁と飯を食らうのはまさに接待に違いなかった。
「こちらでは何をされるんですか。何か行事があるんです?」
「少し庭を借りているので、それをいじったり、草刈りとか。住み込みバイトみたいなものです。表口から入ると、石階段の横に、ちょっとした畑があって……」
「ありますね」
夏野菜を育てているらしき小規模な、畑と呼ぶのも痴がましい、耕された場所がある。茉世の部屋の面積とそう変わらなそうであった。
「あそこで、夏野菜を育てます」
「いいですね、夏野菜。焼き浸しとか、煮浸しとか、カレーなんかも」
「自家製なので、あまり味は期待できませんけれど、土壌作りは頑張りましたから、それなりに美味しく作れるといいんですが。夕食に上がるのを待っていていただけると嬉しいです」
永世と飯を食い終わる頃には、夫は風呂に入っていた。普段は末弟と入っているようだった。禅は歳の割には幼く、長兄にはよく懐いていた。次兄と末兄にはそうではないようだった。反抗期を起こして、身内の誰と関わるのも嫌がりそうなものだったが、長兄には甘え、また長兄のほうも末弟が可愛いらしかった。無愛想で冷淡な蓮と、しっかり者の霖では、弟としての可愛げがなかったのだろう。
蓮が風呂の空いたことを告げにきた。永世ら下の弟2人を連れて、すでに市民銭湯へ出ていた。すぱんと開け放たれる襖に茉世は怯える。だが彼は用件だけ告げて去っていった。安堵した。だが短いものである。歯を磨き終わり、風呂に入っているときに、彼もやってきたのだった。それが当然であるかのように。
「わたしが、今……入っています」
驚いた声を予期していた。いいや、そういう余裕もなかったかもしれない。
「ああ」
「え?蓮さん、わたし……」
茉世は壁沿いに寄って、身を縮めた。
「蓮さん!」
「静かにしろ。風呂場は響く。貴方に言っておかなきゃならないこともあるからな、義姉さん」
「嫌です!嫌!ヘンタイ!」
自らの声が鬱陶しかった。反響している。浴室も脱衣所も宿と見紛うほど広く、名家を窺わせた。1人ひとり入浴しているのがばからしくなる。
「嫌!」
茉世は全裸であった。一糸も纏っていなかった。けれど蓮は腰に一枚タオルを巻いていた。生白いが均斉のとれた見事な裸体だ。着痩せするのかもしれない。黒いシャツの上からでは華奢に見えた。彼女は義長弟の肌に怯えた。相反する感情に弾かれている。夫の意地悪な弟か、優秀な肉体を持った牡か。理性と本能がぶつかった。彼女は羞悪に、屈みながら立ち眩みを起こしかけた。
「嫁が分家の息子と2人きりになって、何をしていた?」
「何をって……ふつうにご飯をいただいていただけです!」
「旦那が同じ屋根の下にいながら、恐ろしい嫁だな」
ひた、ひた、と蓮の足がタイルを模した撥水性の床を踏む。
「旦那を誘惑しろと言ったはずだ。それをなんだ?どうして違う男ばかり誑かす?」
逃げるという選択肢を取るには距離を詰められていた。足元は滑りやすく、彼女は裸を晒すことを厭うた。
「わ、わたし……そんな………」
「旦那が好みじゃなかったとしても、義姉さんのやることは旦那に抱かれて子を産むことだ。まずは"初夜"を済ませ。今夜でもいい。はっきり口にしないと分からないか?旦那とセックスをしろ。そんな難しい話か?今時、中高生でもやっているようなことに手を拱くな」
蛹や繭のようになってしまった茉世のすぐ傍まで、怕い義弟が迫る。
「い、嫌だと、わたし……」
「拒否権はない。抱かれろ。そして産め。そのあとのことは黙っていてやる。他の誰とどうなろうが」
彼女の眉間に皺が寄っていく。
「ヘンタイのうえにサイテーなんですね。今に知ったことではありませんけれど……」
「ヘンタイでサイテーでも構わん。俺のすべきことは決まっている。変わらない。貴方がきゃんきゃん吠えたところで」
無理矢理に、蓮は茉世の腕を取ろうとする。
「やめて!触らないでください……!」
「洗ってやるだけさ。間違いは起こらない」
力で敵うはずはなかった。逃げることをここで選んだ。だが誤りだった。風呂場の隅へと追い詰められてしまう。彼女は足場に不安を覚えていたけれど、蓮の足取りはしっかりしていた。
「新しい洗剤を買ってきた。そのボディーソープとシャンプーは使うな。色気のない。髪も悪くなる。旦那は嫌がるぞ」
「わたしは蓮さんのお人形じゃありません……」
「ああ。俺のじゃない。俺のだけではなく、三途賽川の着せ替え人形だ。子も産んでくれる、な」
一瞬、息ができなくなった。話の通じないどころか、悍ましい価値観を露呈する者を相手に恐怖した。人を人とも思わない。否、女を人と思っていないのだろう。嫁を。或いは兄のことすらも。
「洗ってやる。着せ替え人形は、俺が洗ってやらないと」
蓮はプラスチックの小型の桶にボディーソープやシャンプーだのリンスだのが入っている。
「あっち行ってください……」
「諦めろ。自分で選べたフェーズはもう終わりなんだ。義姉さん、貴方はどう行動した?どう選び取った?言ってやれることはすべて言った。だが貴方は嘘を吐くか否定してばかり。こうなったのは、貴方の選んだことだ」
茉世の傍で屈み、彼はプラスチックの桶を置いた。シャワーを出し、温度調節をしているらしかった。そして肩へ浴びせる。
「触らないでください……身体は自分で洗います……」
しかし、彼はスポンジにボディーソープを垂らし、揉みしだいて泡立てる。
「いや………ッ」
スポンジが無防備な背中に伸びた。彼女は身体を跳ねさせた。ボディーソープを塗りたくられるたびに震える。皮膚に触れる質感からして、その辺りで安価で売っているありがちなボディースポンジではない。しっとりとして、柔らかく、肌に吸い付く感じがあった。
「自分で……洗います」
他人の手が首を這い回るのが気味悪かった。締め上げられているような圧迫はないというのに、窒息してしまいそうだった。
「頼りにならん」
後ろから抱き竦めるようなかたちで、彼は腕を伸ばした。腹周りを洗われていく。茉世は力が入らなくなってしまった。やがて後ろ側へ尻餅をついて、人格破綻者の差別主義者の義長弟へ身を委ねるほかなくなった。
「あ……ああ…………」
腹周りを洗い、乳房の下へとスポンジが潜り込む。
「放してくださ………自分で………」
「だめだ。旦那は単純でありがちなシュミをしているんだ。無味無臭の綺麗清潔な女を抱きたがる」
脇腹を洗い、胸の膨らみと膨らみの狭間をスポンジが駆ける。
「ここは手のほうがいいか?」
スポンジが腹の上を滑り落ち、素手が彼女の乳房の先端を摘んだ。
「ぃあっ」
「あまり洗剤はよくないだろう?」
洗っている仕草ではなかった。刺激する動きだった。捏ねている。すべての体重を、後ろへ預けてしまいそうだった。ぼんやりとした淡い陶酔。
「だ、め………」
「痛むか?」
シャワーが泡を落としていく。それから、臍より下にスポンジが徘徊する。腿へ向かい、膝を洗った。彼は場所を替え、膕から脹脛へ。そして踵、爪先、指の間へスポンジを捩じ込む。
「い、いや………」
「まだ終わってない」
強張った身体で身動いだ。しかしそれも赦さないというのか、乱暴なシートベルトみたいに引き寄せられる。
蓮はスポンジを放した。そして泡のついた素手が、彼女の股ぐらにある草叢を刈る。
「そんな……!」
「よく洗え」
脚の付け根に這い込み、密やかなだけに汗もこもる肌を撫でさすっていく。肌理で肌理の隅々までを洗っていくようだった。
「放して!」
ボディーソープから薫る甘すぎない花の香りには、何のリラックス効果もない。ただの嗅覚情報であり、今は邪魔なくらいだった。
蓮は泡だらけの手のほうを本当に放した。だがシャワーを連れて帰ってくる。
「脚を開け。泡が残っていると気触れるぞ」
「い、いや………」
腹に巻きついた腕が両腿の間に入り込む。シャワーが股間に当たる。泡を落としていく。脚を開かせることに成功した彼の片腕は、今度はさらに奥まって秘められた肉の砦を開いてしまった。
「やめて!」
「ここを洗わなくてどうする?ぬるついているな洗うぞ」
茉世の正面でシャワーを持ち替え、彼は粘膜を漁りはじめた。
「ふ、あぁ……!」
突き出た群生地の隅を指が通る。湯の光線が避雷針のごとき肉峰に降り注ぐ。
「ゃ………あ、あっ………」
「洗っているだけで、どうした?そんな声を出して。旦那を誘う練習か?いいことだ」
腰が浮いた。膝が戦慄く。
「あ……!あぁ…………」
「ぬるつきがとれない」
蕊孔の窪みに指が這い回る。寒気に似た痺れが駆け抜け、艶やかに総毛立つ。
「ゃら……っ、んやァ!シャワーやめっ、あんっ」
彼女の叫びが届いたらしい。シャワーが止まった。荒い息と水滴の落ちる音が場を支配する。
「中も洗うことだな」
「だめ、だめっ!だめぇ……」
必死になった。踵が撥水性のタイル状の床を蹴った。しかし蓮の白く長い中指は、つぷと中へ入った。
「ああ……!」
「ここで旦那のものを締め付けて、悦ばせろ。何度もその気にさせて搾り取れ」
異物を押し出すように蠢いた。だが茉世の意思ではなかった。己の肉体の一部だというのに御せなかった。義弟の長指を食い締めている。
「抜いて……、抜いてくださ………抜い、」
蓮の指が抜かれていく、と思ったのはわずかな時間だった。引き抜かれる直前で、内部へ戻ってくる。
「ああ、いや………」
引き抜く様子を見せてはまた戻ってくる。同じ動きは徐々に速くなった。
「抜いて、抜いて……!出ていって……!嫌ぁ!」
「これは良くないな、義姉さん。自分で自分の性感帯も拓けないのか」
耳元でブランデーを染み込ませたシフォンケーキみたいな囁きを聞くと、腰が弾んでしまった。埋め込まれた指が一点を掠める。
「ああんっ」
「ここがいいのか。義姉さん。自分で自分の好いところを覚えておけ。旦那にたくさん、突いてもらうんだ。義姉さんがイけば、旦那も悦んで、子種を多く吐いてくれるだろうよ。義姉さんも旦那の種を吸い取って、孕みやすくなる」
「触っちゃいや……ッああ、あ……ん……」
「まずはイき方を覚えろ」
義弟の指に、異様な感覚を訴える箇所を圧迫される。下腹部から濃厚な電波が広がっていくようだった。
「ぃ、あ、あっ、放して……あ、はぁんッ」
水飴でも練っているかのような粘着質な音がした。潔い水の音ではない。比較対象がすぐ傍にあった。
「今すぐ旦那に聞かせてやりたいな。義姉さん。貴方のその甘い声を聞いて、いやらしい顔を見て、日頃いくら色気がなくても貴方を抱きたくなるだろうよ」
彼の息が耳に当たり、頸をそよいでいく。鼓膜を蕩けさせる音吐も毒だった。
「イけよ、義姉さん。これが中でイくってことだ。覚えておけ。貴方が感じるのはここだ」
今までの指遣いは惰性であったのだと知る。動きが変わった。的確にポイントを捉え、力加減も絶妙だった。茉世は迫り上がり、臍の裏で澎湃する活力に恐れ慄いた。同時に期待していた。だが認めることをしたくなかった。
「イけ」
その一言が何かのヒントやキーワードでもあるかのようだった。
「あああああ!」
彼女は絶頂した。視界を明滅させた。陸に揚げられた魚を孕んだみたいに腰が跳ねている。自身で聞いた淫らな叫びは、反響したものだった。下肢が溶けてしまっている感じがした。しかし恐怖もない。
「またぬとついたな。何度洗えばいい?」
水飴を練っていたのは蓮だったようだ。指にそれが纏わりついていた。だが、あれほど粘着質な音が出るほどに練っていた水飴は、まったくの無色透明で、粘性こそ帯びていたが、水飴そのもののようだった。
「も……はな、………して………」
気付けば義弟に抱えられていた。蜜煮のようになった眼は、睨むだけ、縋るような色を帯びて彼を差していた。
「今晩こそ、旦那と寝ろ」
「あっちに、行って……」
茉世は義弟を押し除けようとする。まだオーガズムの余韻のなかにある彼女は気怠るさのあまり、大した力は出ていなかった。
「だめだ。徹底的に指導する。この家で嫁に自由だの権利だのがあると思うな」
彼女は本当に着せ替え人形だった。美容師の真似事に付き合わなければならなかった。髪を洗われて、湯船に肩まで沈められるのだった。
風呂上がりには、艶冶な下着の着用を強要される。
「こんな下着じゃ眠れません……」
抵抗するのも疲れてしまっていた。身体にバスタオルを巻いて、壁のほうを向いているのでやっとだった。
「寝るな。嫁が寝るのは、旦那と寝てからだ。何を言っている?そのあとに着替えればいい」
目の前に紐とレースを縫い合わせて下着と銘打ったものをぶら下げる様は、露出狂や痴漢に対する不気味な滑稽さと根はそう変わらない。
「嫌です……」
「嫁が旦那より早く寝るな。着ろ。あの色気のない寝間着も、やることをやってから着替えろ。嫁は旦那を気持ち良く寝かせるものだ」
風呂場の出入り口は塞がれていた。熱い湯に監禁された後では、湿気が苦しい。着てしまえば出られるのだ。着て、すぐに脱げばよい。
ぼうっとした頭で紐にレースを縫い合わせたような下着と呼べないものを身に付けた。乳房が透けている。それでいて乳頭の辺りで刺繍が入るところに淫猥な感じがある。真珠の飾りが連なった紐を秘裂に沿うように履く。さらには脚の付け根へと回る紐が肉扉を強調している。腰回りは胸元のものと同じレースで、上下セットらしかった。
彼女は背を向けて身に着け、それをタオルで隠してしまった。
「見せろ」
「夫に見せればいいのでしょう。何故、蓮さんに見せる必要が?」
虫の寄ってきそうな、しかし人工的な花の匂いがぷんぷん漂った。
蓮は答えなかった。
「寝間着はこれだ」
今度はネグリジェだった。黒い小さなスカラップレースのついた白いドレスのようだった。彼女はそれを着た。
「髪はすぐに乾かせ。傷むと色気がない」
乾かすタオルはこれでブラシはこれで、ヘアオイルもこれ、ドライヤーはこれで云々と、細かかった。嫁を女優か何かのモデルと勘違いしているかのようだった。
彼女は面倒臭かった。すべて従うつもりはなかった。
部屋に戻る途中で、永世とすれ違う。彼は足を止めた。茉世もそれに気付いて足を止めた。
「いい匂いがしたので」
振り返ると目が合った。きょとんとして彼は言った。それが気拙く感じられた。匂いにも好き嫌いがある。嫌味ではないのだろうけれど、申し訳なく感じたのだった。
「ヘアオイルのせいです、きっと」
肩に敷いたタオルごと、髪を持ち上げる。
「ああ、ヘアオイルでしたか」
茉世は着せられた身形が恥ずかしくなって、短いやり取りで切り上げた。部屋に戻ってから、それを悔いた。
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