上 下
255 / 294
【BL】「そりは"えちぅど"」から 

お題「ミスター・ポジティブ」ねじねじぽじてぶ

しおりを挟む

 仕事で嫌なことがあった。誤解だった。それは解けないまま、まるで公開処刑のような目に遭って、恥ずかしくて、今日もまた俺は俺を嫌いになっていく。
 別に八つ当たりをするわけではないけれど、きっと、体内を駆け巡る負のエネルギーってやつを、もしかした、体外に解き放ちたかったのかもしれない。なんて、スピリチュアルか?
「お前はポジティブでいいな」
 嫌味のつもりじゃなかった。ただ言葉を口にする。この物理的な作業も、放熱や放電みたいに必要だった。
 リビングのソファーでテレビを観ていた頭が振り向いた。
「急にどした?なんかヤなコトでもあったん?」
 彼の声も口振りも、陰気で浮きがちな俺とは正反対。きっと彼なら俺みたいなことにはならなかったのだろうけれど……比べてどうする。俺の出会した災難で、俺でなければ事前に回避できたことなのかもしれないのに。
「ないよ。ただ、なんとなく……」
「オマエも結構ポジティブだと思うけどな、オレは」
 根暗。陰気。性格が暗い。怖い。昔から何度か言われた。家族や親戚からすらも。だからその言葉は意外だった。ポジティブかネガティブか、なんて褒め言葉ではないだろうし、彼がここで俺におべっかを言う必要はない。それか、励ましているつもりなのか。
「ウワァーって悩んでるけど、次の日にはけろってしてる。そこの切り替え方じゃね?オレだってオマエみたいにウワァーってなるコト、フツーにあるし」
 彼は何でもないふうな顔をしている。
「あるのか?」
「ある、ある。でも家帰ればオマエいるしさ。簡単に悩み解決してくれちゃうじゃん。自覚ねぇんだ?」
「……ない」
 俺の情けないネガティブ思考は本当に小さなことみたいだった。彼の大らかな笑みを見るとそう思う。忙しい日々のなかでアイドルの動画にハマっている同僚がいたけれど、こういうことなのかも知れなかった。ここが俺の帰るところで、彼が俺の憩う場所なのかもしれない。
「だいじょぶ。オマエはちゃんとポジティブだよ。今はちゃんと向き合ってネガティブになってるだけさ。牛丼作ったから食えよ。考えてもしょーがないって分かってんなら、気が紛れるまで考えてるのがいいよな、きっと」
 彼はソファーから立ち上がってキッチンへ回っていった。
「オマエはネガティブなんじゃなくて真面目で反省しぃなの。ポジティブなことも、オレに言ってて、オレがそれに救われてるってコト、忘れんなよ」
 優しさが、急に目に沁みた。
<2023.10.6>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...