零下3℃のコイ

ぱんなこった。

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僕のもの

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うそ、まじか…嘘じゃない。
日下部も僕と同じ気持ちって……。

顔が余計に熱くなる……。

「……家まで送ってくよ」

「えっ!?大丈夫だよ、1人で帰れ……」

「送らせて」

「……わ、分かった」

急すぎる色んなことが起こって、いちいちドギマギしてしまう。こんなんで僕持つのか……?

いやいや、でも浮かれてる場合じゃない。
雪菜さんのことがある……。

あ、そうか。

ていうか、僕が雪菜さんから日下部を奪うことになるの…?
冷静に考えたらそういうことだよな……。


「……送ってくれてありがとう」

「うん、じゃあまた明日ね」

近くまででいいって言ったのに、本当に家の前まで送ってくれた……。もう薄暗いからって。
心配されてるの?

送られた経験がないから、初めての感覚。

「うん……」

でも、どうしよう。色々不安なことがあるせいかな。離れがたいような、少し寂しいような……。

「もしかして心配してる?」

「えっ」

「雪菜のこと」

「……あ、えっと」

「やっぱり分かりやすいね、風音くんは」

日下部は、そう言って僕の頭をポンポンと撫でる。

「……いや、あの。お前のこと信じてるし、待ってるって言ったのも本心だけど」

「けど?」

「…そ、その。雪菜さんんから日下部を奪おうとしてるのかって思ったら…」

「罪悪感がある?」

ないとは言い切れなくて……ゆっくり頷くと、日下部は僕の頭に乗せていた手を頬に優しく添えてきた。

「2年になったばっかの保健室で、雪菜と僕のこと話した時、覚えてる?」

「えっ……覚えてるけど」

「あの時さ、雪菜を奪ってくれなんて言って、戸惑ってた風音君に、僕はあいつの気持ちなんて無視していいよって言った……今思うと本当に冷たい奴だったなっていうか……あの時は全部どうでもいいって思ってたんだと思う」

「……うん」

「でも今は…風音くんの優しいとこに触れてきて……ちょっと僕にも移ったような気がする。それに、大事にしたいものもできたし…無視していいとは思ってない。ちゃんと雪菜と向き合って、ちゃんと苦しむよ」

「日下部…」

「だから、風音くんは何も心配することないよ。罪悪感が分からなくなるくらい僕のことだけ想って待ってて」

頬に添えられた手をぎゅっと握ると、少し震えているのが分かった。日下部も、変わろうとしてるんだ。

「……苦しむの僕にも分けてほしい」

「え…」

「日下部は、今まで1人で十分苦しんできたんだ。これからは…僕もいるから。上手く言えないけど…苦しいのも嬉しいのも2人で……って思う、から」

「……うん、ありがとう」

日下部はちゅっと音を立てて、僕の手にキスを落とした。
手の甲の感触が……唇にキスをするのとはまた違って、ドキドキしてしまう。

「じゃあ……おやすみ」

「お、お、おやすみ」

そう微笑んでから、日下部は今度こそ振り返って、来た道を戻り歩き始めた。
その後ろ姿が見えなくなるまで、僕はそこに突っ立っていた。

明日から…どうなるんだろう。

でも…キスされた手をじっと見て、やっぱり思う。

いくら罪悪感を感じても…だったら譲るのかって言われたら、無理だ。

僕も、日下部が誰かのものになるのは嫌だ。

あの笑顔も、あの視線も、涙も、肌も全部…僕のものにしたい。

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