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急接近
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一一一頭熱いな…。ふわふわしてるし、体も重い…。あれ?でも、見覚えある天井だし寝心地もいつもの感じ…。
「ん…」
一一一えっと、僕は保健室にいて車乗って…そこから全然覚えてない。どうやってベッドに…あれ?ていうか、ここって僕の部屋…!?
目を覚ました那月は徐々にぼんやりする意識の中で状況を把握する。ベッドに仰向けに寝た状態で額には冷えピタが貼ってあり、服もスウェットに着替えられている。
「…!わっ」
そして、顔を横に向けると那月のベッドに突っ伏して眠っている彩世がいた。
一一一な、な、なんで先輩が僕のベッド…いや、僕の部屋にいるの!?そうだ、確か保健室に先輩が来て…家まで付き添ってくれるって言って…タクシー乗って…そこからどうなったっけ。
どうしていいか分からずまた上を向き布団を握りしめて固まっていると、彩世はモゾモゾと動き出し体を起こした。
「…ん一、あれ。ナツくん起きた?」
「あ!!は、はい…!」
「勝手に家上がってごめんね。一応ナツくんから鍵もらって開けたんだけど…覚えてる?」
「っ覚えてない、です…。すいません、あの、家に連れてきてもらって…」
「いいよ。それと、さっきナツくんの携帯にお母さんから電話かかってきてナツくん上手く話せてなかったから、俺が代わりに状況説明しといた。あと家に上がることも了承は得たから」
「え!!そ、そこまで…ありがとうございます」
「気にしないで。さすがにあの状態のナツくんを家に転がして帰れなかっただけだからさ」
一一一つまり母さんとも電話で話したってことだし、僕をベッドまで運んでくれたってことだよね…?しかも、僕の部屋に先輩がいる!!!なんだこの展開は!!
「あ、あの、そういえば僕の服…って、なんでスウェットに…」
「え?ああナツくんに渡したら、自分で着替えてたよ。運んだ時以外は触ってないから安心して」
「…っあ、は、はい」
「スポドリ飲める?体調はどう?」
「あ、はい。学校にいた時よりも少し楽です。ありがとうございます…」
彩世はベッドから少し離れ、スポドリの蓋を開けて起き上がった那月に手渡す。それを受け取り喉に流すと一気に乾いていた喉が潤った。
自分の部屋に彩世がいるという事実に落ち着かない那月だが、それよりも彩世が自分と距離を取っていることが気になってしまう。
ソワソワしていると、彩世の方から口を開いた。
「…あのさ、ナツくん」
「は、はい」
「今日はごめんね、昼休みの時。俺が近付きすぎて怖がらせちゃって…。たぶんその熱出たのって知恵熱…とかかなって思って」
「え…」
「色々考えすぎて疲れちゃったんだとしたら、俺のせいだなって…」
「せ!!先輩のせいじゃ、ないです!!」
「……っえ」
俯いていた彩世は那月の声に驚き顔を上げる。那月は顔を真っ赤にしながら眉を下げている彩世を真っ直ぐ見つめた。
「確かに、そ、その…先輩と会って先輩と過ごすようになって…色々考えたり気にしたりすることは、増えました。で、でもそんなの初めてで…男の人でも、先輩は違くて、こ、この熱も、きっと僕があれこれ考えすぎただけで」
「でも…」
「それに!僕、先輩のこと、怖くないです…!昼休みの時は怖がってたんじゃなくて、あの、なんていうか…緊張しててドキドキしてたからで!!」
「えっ…」
「う、上手く言えなくて、ごめんなさい…。でも、僕は…先輩といると、何だか緊張してしまうんです…!男の人が怖い時とは違う感じで…、で、でも恐怖の対象ではないので、もう!」
「…そうなの?」
「さ、さっきも、先輩に支えられて車に乗る時、大丈夫でしたし…!」
ペットボトルを握りしめながら必死に言葉を発する那月を見て、思わず彩世の手が那月へと伸びる。でもその動きはピタッと止まり、彩世は下を向いた。
「近くなれたと思ったら、やっぱり遠くに行っちゃう気がして…でも俺にだけ慣れたんだって思ったら嬉しくてさ」
「せ、先輩…?」
「ナツくんが男に慣れて、いい方向に変われてよかったって思うのに…誰相手にでも大丈夫になるのかって思ったら何となくモヤモヤする」
ボソボソと低い声でつぶやく彩世に、那月は耳を傾ける。ギシ…とベッドをきしませ那月が近寄ると、彩世は目を背けた。
「あの…」
「クラスメイトのあの子…保健室にいた男子にも体支えられて大丈夫だったんだよね?」
「え、あ、相野くん…ですか?」
「そう、その子」
「えっと…そうですね、あの、前よりは…。やっぱり話す時とかさっきも体が触ると、緊張して少し強ばりますけど…前ほどの酷い恐怖心は無いと思います…」
「そっか…。俺にも触られると体強ばる?」
「えっ」
「俺といると緊張するって言ってたけど…相野くんとか他の人に対する緊張と同じ?強ばる?」
「え、えっと…」
突然そう聞かれて那月は頭の中で考えてみた。彩世に対する緊張と他の人に対する緊張が同じなのか、どうか。
一一一思い返してみても何か違う…。他の人に対しては冷や汗が出るか出ないかっていう緊張だし…。相野くんは話してみて良い人だって分かったから少し他の人より大丈夫で…でも先輩には…それのどれでもない。
「あの…、先輩」
「ん?」
「試しに、もう一度僕に、さ、触ってみてくれませんか?」
「…え」
「ん…」
一一一えっと、僕は保健室にいて車乗って…そこから全然覚えてない。どうやってベッドに…あれ?ていうか、ここって僕の部屋…!?
目を覚ました那月は徐々にぼんやりする意識の中で状況を把握する。ベッドに仰向けに寝た状態で額には冷えピタが貼ってあり、服もスウェットに着替えられている。
「…!わっ」
そして、顔を横に向けると那月のベッドに突っ伏して眠っている彩世がいた。
一一一な、な、なんで先輩が僕のベッド…いや、僕の部屋にいるの!?そうだ、確か保健室に先輩が来て…家まで付き添ってくれるって言って…タクシー乗って…そこからどうなったっけ。
どうしていいか分からずまた上を向き布団を握りしめて固まっていると、彩世はモゾモゾと動き出し体を起こした。
「…ん一、あれ。ナツくん起きた?」
「あ!!は、はい…!」
「勝手に家上がってごめんね。一応ナツくんから鍵もらって開けたんだけど…覚えてる?」
「っ覚えてない、です…。すいません、あの、家に連れてきてもらって…」
「いいよ。それと、さっきナツくんの携帯にお母さんから電話かかってきてナツくん上手く話せてなかったから、俺が代わりに状況説明しといた。あと家に上がることも了承は得たから」
「え!!そ、そこまで…ありがとうございます」
「気にしないで。さすがにあの状態のナツくんを家に転がして帰れなかっただけだからさ」
一一一つまり母さんとも電話で話したってことだし、僕をベッドまで運んでくれたってことだよね…?しかも、僕の部屋に先輩がいる!!!なんだこの展開は!!
「あ、あの、そういえば僕の服…って、なんでスウェットに…」
「え?ああナツくんに渡したら、自分で着替えてたよ。運んだ時以外は触ってないから安心して」
「…っあ、は、はい」
「スポドリ飲める?体調はどう?」
「あ、はい。学校にいた時よりも少し楽です。ありがとうございます…」
彩世はベッドから少し離れ、スポドリの蓋を開けて起き上がった那月に手渡す。それを受け取り喉に流すと一気に乾いていた喉が潤った。
自分の部屋に彩世がいるという事実に落ち着かない那月だが、それよりも彩世が自分と距離を取っていることが気になってしまう。
ソワソワしていると、彩世の方から口を開いた。
「…あのさ、ナツくん」
「は、はい」
「今日はごめんね、昼休みの時。俺が近付きすぎて怖がらせちゃって…。たぶんその熱出たのって知恵熱…とかかなって思って」
「え…」
「色々考えすぎて疲れちゃったんだとしたら、俺のせいだなって…」
「せ!!先輩のせいじゃ、ないです!!」
「……っえ」
俯いていた彩世は那月の声に驚き顔を上げる。那月は顔を真っ赤にしながら眉を下げている彩世を真っ直ぐ見つめた。
「確かに、そ、その…先輩と会って先輩と過ごすようになって…色々考えたり気にしたりすることは、増えました。で、でもそんなの初めてで…男の人でも、先輩は違くて、こ、この熱も、きっと僕があれこれ考えすぎただけで」
「でも…」
「それに!僕、先輩のこと、怖くないです…!昼休みの時は怖がってたんじゃなくて、あの、なんていうか…緊張しててドキドキしてたからで!!」
「えっ…」
「う、上手く言えなくて、ごめんなさい…。でも、僕は…先輩といると、何だか緊張してしまうんです…!男の人が怖い時とは違う感じで…、で、でも恐怖の対象ではないので、もう!」
「…そうなの?」
「さ、さっきも、先輩に支えられて車に乗る時、大丈夫でしたし…!」
ペットボトルを握りしめながら必死に言葉を発する那月を見て、思わず彩世の手が那月へと伸びる。でもその動きはピタッと止まり、彩世は下を向いた。
「近くなれたと思ったら、やっぱり遠くに行っちゃう気がして…でも俺にだけ慣れたんだって思ったら嬉しくてさ」
「せ、先輩…?」
「ナツくんが男に慣れて、いい方向に変われてよかったって思うのに…誰相手にでも大丈夫になるのかって思ったら何となくモヤモヤする」
ボソボソと低い声でつぶやく彩世に、那月は耳を傾ける。ギシ…とベッドをきしませ那月が近寄ると、彩世は目を背けた。
「あの…」
「クラスメイトのあの子…保健室にいた男子にも体支えられて大丈夫だったんだよね?」
「え、あ、相野くん…ですか?」
「そう、その子」
「えっと…そうですね、あの、前よりは…。やっぱり話す時とかさっきも体が触ると、緊張して少し強ばりますけど…前ほどの酷い恐怖心は無いと思います…」
「そっか…。俺にも触られると体強ばる?」
「えっ」
「俺といると緊張するって言ってたけど…相野くんとか他の人に対する緊張と同じ?強ばる?」
「え、えっと…」
突然そう聞かれて那月は頭の中で考えてみた。彩世に対する緊張と他の人に対する緊張が同じなのか、どうか。
一一一思い返してみても何か違う…。他の人に対しては冷や汗が出るか出ないかっていう緊張だし…。相野くんは話してみて良い人だって分かったから少し他の人より大丈夫で…でも先輩には…それのどれでもない。
「あの…、先輩」
「ん?」
「試しに、もう一度僕に、さ、触ってみてくれませんか?」
「…え」
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