10 / 94
1
彩世先輩
しおりを挟む
6時間目の本鈴が聞こえた後、授業が始まってしまったのは分かっていたけど、しばらくの間那月は視聴覚室から動けなかった。
落ち着いてよく考えたら、こんな泣き腫らした状態で教室に戻れる訳がない。サボりになってしまうけど、周りにザワつかれるよりはいいと。那月は何とか時間をかけて制服を整えた後、三角座りで隅に小さく収まっていた。
一一一泣きすぎた。でも、だいぶ落ち着いた。頭がボーッとしてるし、きっと目も腫れてる。教室に戻らなくてよかったかも。
膝の上にあるセーターを見ながら、那月は考えた。これを返さないといけないと。3年生の人となんて関わることは無いと思っていたのに、まさかこんな形でとは思いもしていなかった。
先輩が出て行ってから、だいぶ時間が経っているし、きっと教室に戻っただろう。春とはいえまだ風が強い日もあるし、今日だってシャツだけでは肌寒いはずだ。
一一一出来るだけ早く返しに行かなきゃ。
時計をふと見ると、6時間目が終わる10分前を指している。終わってからでは人がたくさん通るし、委員会でここを使うと言っていた。今のうちに外に出ようと、那月は立ち上がった。
カラカラと視聴覚室の扉を開けて、ゆっくり足を踏み出そうとした時。廊下で、誰かがこちらに向かって近付いてくる声が聞こえた。
静かな廊下に急に聞こえてきたその声に驚き、那月は踏み出そうとした足を引っ込める。そして少し開いた扉の影に隠れた。
「おいおい、お前こんなとこで座ってなにやってんの?」
廊下から聞こえたのは男の人の声。那月には気付いていないようで、そこにいた誰かに話しかけているようだ。
「え?いや、そっちこそなんで?」
「俺はグループ研究終わって戻るとこ。お前んとこは今日なかったの?」
「あー…あったよ。今日は行けないって言っといた」
「はぁ?珍し!サボりとかするんだ」
恐る恐るその会話の方を見てみると、そこにはさっき助けてくれたシャツ姿の先輩と、同じ色の上履きを履いた3年生の男の人がいた。
一一一いや、ちょっと待って。なんで今もさっきの先輩がいるの?もうとっくにいないと思ってたのに…。しかも座ってたって?なんで?
「サボりじゃないけど、ちょっと腹痛かっただけ」
「じゃあ保健室とか行けよ!なんで視聴覚室の前で座り込んでんの?」
「いいから、教室戻るなら行こ。俺この後委員会あるし」
「はー?なになに?ちょ、おい!」
一一一もしかして、今までずっとここにいた?あ、セーターを返してもらうため?そうだ、それしか理由が思い浮かばない。だから僕が出てくるまで待ってたのか?いや、でもほぼ1時間分をサボってまで待つなんて…。
一一一僕がさっき変な態度取っちゃったから、返してって言いづらかったのかな。どうしよう、返したいけど人来ちゃったし今出て行けない…。
唾を飲んで潜んでいると、パタパタと歩いていく足音が聞こえてきた。那月は顔を出して2人の後ろ姿を覗いてみた。
「待てよ!彩世~」
すると、シャツ姿の先輩を追いかけながらもう1人がそう呼びかけている。きっとあの人の名前だ。
「……彩世、先輩」
返しそびれたセーターをぎゅっと握りしめながら、那月はその名前をポソッと呟いた。
落ち着いてよく考えたら、こんな泣き腫らした状態で教室に戻れる訳がない。サボりになってしまうけど、周りにザワつかれるよりはいいと。那月は何とか時間をかけて制服を整えた後、三角座りで隅に小さく収まっていた。
一一一泣きすぎた。でも、だいぶ落ち着いた。頭がボーッとしてるし、きっと目も腫れてる。教室に戻らなくてよかったかも。
膝の上にあるセーターを見ながら、那月は考えた。これを返さないといけないと。3年生の人となんて関わることは無いと思っていたのに、まさかこんな形でとは思いもしていなかった。
先輩が出て行ってから、だいぶ時間が経っているし、きっと教室に戻っただろう。春とはいえまだ風が強い日もあるし、今日だってシャツだけでは肌寒いはずだ。
一一一出来るだけ早く返しに行かなきゃ。
時計をふと見ると、6時間目が終わる10分前を指している。終わってからでは人がたくさん通るし、委員会でここを使うと言っていた。今のうちに外に出ようと、那月は立ち上がった。
カラカラと視聴覚室の扉を開けて、ゆっくり足を踏み出そうとした時。廊下で、誰かがこちらに向かって近付いてくる声が聞こえた。
静かな廊下に急に聞こえてきたその声に驚き、那月は踏み出そうとした足を引っ込める。そして少し開いた扉の影に隠れた。
「おいおい、お前こんなとこで座ってなにやってんの?」
廊下から聞こえたのは男の人の声。那月には気付いていないようで、そこにいた誰かに話しかけているようだ。
「え?いや、そっちこそなんで?」
「俺はグループ研究終わって戻るとこ。お前んとこは今日なかったの?」
「あー…あったよ。今日は行けないって言っといた」
「はぁ?珍し!サボりとかするんだ」
恐る恐るその会話の方を見てみると、そこにはさっき助けてくれたシャツ姿の先輩と、同じ色の上履きを履いた3年生の男の人がいた。
一一一いや、ちょっと待って。なんで今もさっきの先輩がいるの?もうとっくにいないと思ってたのに…。しかも座ってたって?なんで?
「サボりじゃないけど、ちょっと腹痛かっただけ」
「じゃあ保健室とか行けよ!なんで視聴覚室の前で座り込んでんの?」
「いいから、教室戻るなら行こ。俺この後委員会あるし」
「はー?なになに?ちょ、おい!」
一一一もしかして、今までずっとここにいた?あ、セーターを返してもらうため?そうだ、それしか理由が思い浮かばない。だから僕が出てくるまで待ってたのか?いや、でもほぼ1時間分をサボってまで待つなんて…。
一一一僕がさっき変な態度取っちゃったから、返してって言いづらかったのかな。どうしよう、返したいけど人来ちゃったし今出て行けない…。
唾を飲んで潜んでいると、パタパタと歩いていく足音が聞こえてきた。那月は顔を出して2人の後ろ姿を覗いてみた。
「待てよ!彩世~」
すると、シャツ姿の先輩を追いかけながらもう1人がそう呼びかけている。きっとあの人の名前だ。
「……彩世、先輩」
返しそびれたセーターをぎゅっと握りしめながら、那月はその名前をポソッと呟いた。
10
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話
さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ)
奏音とは大学の先輩後輩関係
受け:奏音(かなと)
同性と付き合うのは浩介が初めて
いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。
ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。
だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる