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「私はともかく、問題は魅子ちゃんよね。出版社が反応して、私の担当を外されるかも」
「そんな、私、エリさんと離れるのは嫌です。絶対に嫌です」
「私も同じ気持ちよ。もし、そんな判断を下されたら、私が編集長に直訴する」

 僕の前で、互いの愛情を確認する二人。
 二人のことを心から愛していながら、僕一人だけ取り残されていた。
 落ち込まなかったといえば嘘になる。
 失恋の悲哀。いや、それ以前に、驚愕の方が大きい。
 片想いの相手が実の母親と恋愛関係にあった。神様は何て荒唐無稽な筋書きを思いつくのか。
 僕は、もう何があっても驚かない。

 ベッドで横になっても、その夜は眠れなかった。混乱した頭を整理する時間はたっぷりあった。
 まず、一人前の社会人になったら魅子さんに告白する、という例の目標はペンディングだ。当分というか、永遠にその機会は失われたと思う。

 次に、今回の問題について。写真週刊誌を読む習慣はない。年に数回、コンビニで立ち読みをする程度だ。憎き写真週刊誌の発行部数は、おそらく数十万部を下らない。エリさんのファンが受けるショックは計り知れないと思う。

 エリさんは性的マイノリティというだけで、何も悪いことはしていない。隠していたわけじゃないけれど、他人の秘密を暴き立てるのも、考えてみればおかしな話だ。
 なぜ、そんな仕事があるのか?
 ニーズがあるからに決まっている。

 この国には、他人のプライベートを暴いては面白おかしく騒ぎたてる連中が多すぎる。ストレスの捌け口として、毎日標的をさがし求めているのだ。否定でしか自己表現のできない下劣な人々。そんなことをしても、本人の境遇が改善するわけがなく、ただ品性を貶めるだけなのに。

 他人を意味なく否定するような、ネガティブな妄想を日常的に抱いていると、認知症を起こしやすいという。最低な連中は皆、早く認知症になってしまえ。

 不毛な思考に区切りをつけ、僕に何ができるか思いを巡らせる。写真週刊誌側と取引するために、より大きなスクープを提供するとか?
 そんなネタは持ち合わせていない。

 武装して編集部に乗り込み、人質をとって直談判とか? 
 僕は腕力がないし、武闘派には程遠い。

 編集部に強い圧力をかけて、エリさんのネタを握りつぶすとか?
 だが、どうやって圧力をかけるのか? 出版社をねじ伏せる権力者?
 そんな人物に心当たりはいない。

 ……いや、一人いた。
 しかも、あの人はエリさんの〈秘密〉を知っていて、それを公にすることは好まない。この読みは、たぶん間違っていないはずだ。

 僕はベッドから跳ね起きて、ノートパソコンを開いた。協力を要請するには、まず状況を文書にまとめなくてはならない。
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