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裏切り愛⑥

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「とにかく、部屋に上がって、お茶でも飲んでいってください」

 僕たちはオートロックのドアをくぐり、エレベーターで三階まで上がる。新しい部屋は2DKだけど、僕一人ではもてあます広さだ。住みはじめて、まだ一週間足らず。自分の部屋という実感はない。

 ちなみに、この部屋は『キャッスル』の所有する不動産の一つである。六本木周辺には、『キャッスル』の寮扱いになった部屋がいくつかあり、成績の優秀なコールボーイだけが入居を許される。格安の家賃で高級マンションに暮らせるのだから、とても恵まれた待遇である。

 とりあえず、タクマさんにはリビングのソファでくつろいでもらった。

「これ、あたたかいうちにどうぞ」

 買ったばかりのカップ式のコンビニコーヒーを差し出す。元より味にこだわりがないので、僕は買い置きの缶コーヒーで充分だ。

「あ、さっきまでタクマさんの常連さんと一緒だったんですよ。OLの麻里奈さん、覚えていますよね。他の常連さんもそうですけど、皆、タクマさんのことを残念がっていますよ」

 預かっていた言葉はこの機会に一つ残らず伝えることにした。「無味乾燥な日常の中で、唯一のオアシスだった」とか、「事業を立ち上げるつもりなら投資したい」とかも。
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