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第二の謎

下手人の告白①

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 登代は顔を伏せたまま、身体を震わせていた。泣いているのか、と貞次郎は思ったが、その読みは外れた。

 登代は忍び笑いをしていたのだ。人を小馬鹿にするような笑い方をしながら、

「罪滅ぼしですって? 冗談を言っちゃいけません。そんなもの、あたしは死んでもしたくないですよ」

 喉の奥から絞り出すような、しわがれ声だった。おそらく海女の仕事柄、海の塩分で日常的に喉を傷めているせいだろう。

「姉はあたしから、大吉さんを奪ったんだ。あたしたちが恋仲なのを知りながら、こそこそと色仕掛けを使ってね。大吉さんも大吉さんよ。将来は夫婦になろうと言っておきながら、あっさり裏切るんだから、男らしくないったらありゃしない。あんな仕打ちを受けるなんて、あたしは考えてもみなかった」

 登代は悔し涙を流していた。

「大吉さんが頭を下げて頼むんですよ。『加代のお腹に赤ん坊ができたから、二人で所帯をもちたい。おまえには申し訳ないが、どうか、祝福してもらえないか』ってね。当然、許しませんよ。誰が許したりするもんですか。あたしと大吉さんが過ごした時間は姉との時間より、うんと長いんですよ。あたしは、『絶対に別れない』と言ってやりました。そしたら、二人とも江戸に逃げやがった」

「おい、大吉と加代に子供はいねぇぞ。人別帳にんべつちょう(江戸時代の戸籍)を見ても、そいつは明らかだ」と、亀三が口を挟んだ。

「それは当然です。赤ん坊の件は嘘だったんだから。あたしに諦めらせるための嘘の皮ですよ。それを知った時、あたしの頭は真っ白になりました」

「それは登代さんが加代さんの家を見つけて、初めて訪ねて行ったときの話ですね。家にいたのは、加代さんだけだった」と、貞次郎。

「ええ、自分の耳を疑いました。そして、悟りました。大吉さんを奪った上に、そんな嘘を吐くような人間は姉じゃない。魔物だ。魔物にちがいない」

「トモカズキのような?」

「ええ、その通りです。姉はトモカズキですよ。妹の男を横取りした、人ならざるもの。なのに恥知らずにも、あたしの方がトモカズキだなんて言うんです。『大吉さんを好きになったのはあたしの方が先で、妹のあんたが横取りしたんだ』と」
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