24 / 27
第二の謎
下手人の告白①
しおりを挟む
登代は顔を伏せたまま、身体を震わせていた。泣いているのか、と貞次郎は思ったが、その読みは外れた。
登代は忍び笑いをしていたのだ。人を小馬鹿にするような笑い方をしながら、
「罪滅ぼしですって? 冗談を言っちゃいけません。そんなもの、あたしは死んでもしたくないですよ」
喉の奥から絞り出すような、しわがれ声だった。おそらく海女の仕事柄、海の塩分で日常的に喉を傷めているせいだろう。
「姉はあたしから、大吉さんを奪ったんだ。あたしたちが恋仲なのを知りながら、こそこそと色仕掛けを使ってね。大吉さんも大吉さんよ。将来は夫婦になろうと言っておきながら、あっさり裏切るんだから、男らしくないったらありゃしない。あんな仕打ちを受けるなんて、あたしは考えてもみなかった」
登代は悔し涙を流していた。
「大吉さんが頭を下げて頼むんですよ。『加代のお腹に赤ん坊ができたから、二人で所帯をもちたい。おまえには申し訳ないが、どうか、祝福してもらえないか』ってね。当然、許しませんよ。誰が許したりするもんですか。あたしと大吉さんが過ごした時間は姉との時間より、うんと長いんですよ。あたしは、『絶対に別れない』と言ってやりました。そしたら、二人とも江戸に逃げやがった」
「おい、大吉と加代に子供はいねぇぞ。人別帳(江戸時代の戸籍)を見ても、そいつは明らかだ」と、亀三が口を挟んだ。
「それは当然です。赤ん坊の件は嘘だったんだから。あたしに諦めらせるための嘘の皮ですよ。それを知った時、あたしの頭は真っ白になりました」
「それは登代さんが加代さんの家を見つけて、初めて訪ねて行ったときの話ですね。家にいたのは、加代さんだけだった」と、貞次郎。
「ええ、自分の耳を疑いました。そして、悟りました。大吉さんを奪った上に、そんな嘘を吐くような人間は姉じゃない。魔物だ。魔物にちがいない」
「トモカズキのような?」
「ええ、その通りです。姉はトモカズキですよ。妹の男を横取りした、人ならざるもの。なのに恥知らずにも、あたしの方がトモカズキだなんて言うんです。『大吉さんを好きになったのはあたしの方が先で、妹のあんたが横取りしたんだ』と」
登代は忍び笑いをしていたのだ。人を小馬鹿にするような笑い方をしながら、
「罪滅ぼしですって? 冗談を言っちゃいけません。そんなもの、あたしは死んでもしたくないですよ」
喉の奥から絞り出すような、しわがれ声だった。おそらく海女の仕事柄、海の塩分で日常的に喉を傷めているせいだろう。
「姉はあたしから、大吉さんを奪ったんだ。あたしたちが恋仲なのを知りながら、こそこそと色仕掛けを使ってね。大吉さんも大吉さんよ。将来は夫婦になろうと言っておきながら、あっさり裏切るんだから、男らしくないったらありゃしない。あんな仕打ちを受けるなんて、あたしは考えてもみなかった」
登代は悔し涙を流していた。
「大吉さんが頭を下げて頼むんですよ。『加代のお腹に赤ん坊ができたから、二人で所帯をもちたい。おまえには申し訳ないが、どうか、祝福してもらえないか』ってね。当然、許しませんよ。誰が許したりするもんですか。あたしと大吉さんが過ごした時間は姉との時間より、うんと長いんですよ。あたしは、『絶対に別れない』と言ってやりました。そしたら、二人とも江戸に逃げやがった」
「おい、大吉と加代に子供はいねぇぞ。人別帳(江戸時代の戸籍)を見ても、そいつは明らかだ」と、亀三が口を挟んだ。
「それは当然です。赤ん坊の件は嘘だったんだから。あたしに諦めらせるための嘘の皮ですよ。それを知った時、あたしの頭は真っ白になりました」
「それは登代さんが加代さんの家を見つけて、初めて訪ねて行ったときの話ですね。家にいたのは、加代さんだけだった」と、貞次郎。
「ええ、自分の耳を疑いました。そして、悟りました。大吉さんを奪った上に、そんな嘘を吐くような人間は姉じゃない。魔物だ。魔物にちがいない」
「トモカズキのような?」
「ええ、その通りです。姉はトモカズキですよ。妹の男を横取りした、人ならざるもの。なのに恥知らずにも、あたしの方がトモカズキだなんて言うんです。『大吉さんを好きになったのはあたしの方が先で、妹のあんたが横取りしたんだ』と」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
紫苑の誠
卯月さくら
歴史・時代
あなたの生きる理由になりたい。
これは、心を閉ざし復讐に生きる一人の少女と、誠の旗印のもと、自分の信念を最後まで貫いて散っていった幕末の志士の物語。
※外部サイト「エブリスタ」で自身が投稿した小説を独自に加筆修正したものを投稿しています。
【完結】天下人が愛した名宝
つくも茄子
歴史・時代
知っているだろうか?
歴代の天下人に愛された名宝の存在を。
足利義満、松永秀久、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。
彼らを魅了し続けたのは一つ茶入れ。
本能寺の変で生き残り、大阪城の落城の後に壊れて粉々になりながらも、時の天下人に望まれた茶入。
粉々に割れても修復を望まれた一品。
持った者が天下人の証と謳われた茄子茶入。
伝説の茶入は『九十九髪茄子』といわれた。
歴代の天下人達に愛された『九十九髪茄子』。
長い年月を経た道具には霊魂が宿るといい、人を誑かすとされている。
他サイトにも公開中。
死は悪さえも魅了する
春瀬由衣
歴史・時代
バケモノと罵られた盗賊団の頭がいた。
都も安全とはいえない末法において。
町はずれは、なおのこと。
旅が命がけなのは、
道中無事でいられる保証がないから。
けれどーー盗みをはたらく者にも、逃れられない苦しみがあった。
淡々忠勇
香月しを
歴史・時代
新撰組副長である土方歳三には、斎藤一という部下がいた。
仕事を淡々とこなし、何事も素っ気ない男であるが、実際は土方を尊敬しているし、友情らしきものも感じている。そんな斎藤を、土方もまた信頼し、友情を感じていた。
完結まで、毎日更新いたします!
殺伐としたりほのぼのしたり、怪しげな雰囲気になったりしながら、二人の男が自分の道を歩いていくまでのお話。ほんのりコメディタッチ。
残酷な表現が時々ありますので(お侍さん達の話ですからね)R15をつけさせていただきます。
あッ、二人はあくまでも友情で結ばれておりますよ。友情ね。
★作品の無断転載や引用を禁じます。多言語に変えての転載や引用も許可しません。
毛利隆元 ~総領の甚六~
秋山風介
歴史・時代
えー、名将・毛利元就の目下の悩みは、イマイチしまりのない長男・隆元クンでございました──。
父や弟へのコンプレックスにまみれた男が、いかにして自分の才覚を知り、毛利家の命運をかけた『厳島の戦い』を主導するに至ったのかを描く意欲作。
史実を捨てたり拾ったりしながら、なるべくポップに書いておりますので、歴史苦手だなーって方も読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる