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第二の謎

幽霊の正体①

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 亀三の持ち前の行動力を発揮した。手下を総動員した上に、馴染みの岡っ引きにも声をかけて、総勢50人がかりで川べりの捜索を行ったのだ。

 隅田川の下流といえば広範囲になるが、若い女が潜むような繁みや小屋は限られている。人海戦術が功を奏して、陽が暮れる前に、一人の女が捕らえられた。

 加代の友人知人が彼女を加代と思いこんだのも不思議ではない。彼女が身に着けていたのは元々加代の着物であり、彼女は加代と瓜二つだったのだから。

 亀三は捜索に協力してくれた仲間と手下に礼を言い、縛り上げた若い女を横山町の自身番に連れ返った。自身番とは町内警備の施設であり、番所とも呼ばれる。現代でいえば、交番と集会場の中間のようなものだろう。

 亀三は早速、女の取り調べを行った。

「おい、おまえは何者だ」
「……」

「今、着ているのは殺された加代の着物だな。二人を殺めた時に盛大な返り血を浴びたので、そいつに着替えたというわけか」
「……」

「血まみれの着物はどこにやった。石を包んで川に捨てたか、穴を掘って埋めやがったか」
「……」

「いいかげん名前を吐きやがれっ。おまえは一体、何者なんだ」

 女は恫喝どうかつを受けても、口を閉ざしたままだ。翌日になっても状況は変わらず、女は黙秘を貫いている。

 女相手に拳をふるうのは気が進まないが、この状況では仕様がない。亀三が暴力の行使を決意した時、ひょいと自身番に顔を出したのは貞次郎だった。いつも通り寝坊をしていたところ、下っぴきの熊太郎に叩き起こされて、やってきたのだ。

「さすが親分、ものの見事に幽霊を捕まえましたね」

「それがよ、この女、うんともすんとも言わねぇんだ。このままじゃらちがあかねぇ。逆さ吊りにするか石抱えにするか、大いに迷っていたところだぜ」

 逆さ吊りや石抱えは拷問の種類だが、行使するには奉行の許しが必要である。亀三の目論見は女への脅しだったが、女の表情に変化はなかった。

「親分、私がちょいと話しても構いませんかね」

 貞次郎の提案に、亀三は鷹揚に頷いた。貞次郎は女の前に座り込み、

「はじめまして。私は親分の世話になっている、丹葉貞次郎という者です。人が人を殺めるのは、よほどのことです。さぞ、つらかったことでしょう」にっこり女に笑いかけ、「あなたは加代さんの妹、登代さんですね」

 女の目に初めて、感情が宿った。
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