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第二の謎
疑われた男③
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「忠助さん、お勤め御苦労様。亀三親分は中にいなさるかい」と、貞次郎が笑顔で歩み寄った。
「ああん、誰だよ、てめぇは」背の低い忠助は、下から睨みつけてきた。
「丹葉貞次郎といって、以前、親分の手助けをしていた者だ。だから、おたくとは身内になると思うんだがね」
「たんばぁ? 聞いたことがねぇなぁ」
「まぁまぁ、親分に聞いてみてくれよ」
「お勤めの邪魔をすんじゃねぇ。さっさと行ってくんな」と、忠助は邪険に手を振る。
「悪いなぁ。急ぎの要件なんだ。行かせてもらうよ」
「この野郎、背が高いからって、なめんじゃねぇぞ」
二人は一触即発の雰囲気になるが、そこに声がかかった。
「忠助、何を騒いでいやがる。うるさくて、御検視ができねぇじゃねぇか」
声の主は座敷の中にいるのだろうが、よく通る声だった。
「亀三親分、御無沙汰をしています。丹葉貞次郎ですが、少しよろしいですか」
貞次郎が大声で応じると、
「おお、タンテーか、ちょうどよかったぜ。たった今、おめぇの知恵を借りたいと思っていたところだ。ちょっくら来てくんねぇか」と、返ってきた。
親分の許しが出たので、貞次郎はすんなり中に通された。
座敷で待っていたのは、恰幅のよい四十男だった。鋭い目つきで貞次郎を見やり、
「三河屋の一件以来だから半年ぶりか。タンテー、こいつはあん時より、厄介な捕り物になりそうだぜ」
「確かに、そのようですね」
貞次郎の目の前には、たっぷりと血を吸った布団の上に、若夫婦の遺体が仰向けに横わたっていた。
二人とも刃物で何度も身体を突かれていた。傍らに落ちていた包丁は家にあったものであり、魚の行商人をしていた夫の商売道具だという。
驚いたことに、女房の顔は執拗に傷つけられていた。無残にも、縦横無尽に切り刻まれているのだ。
「これほど無残な仏さんは、とんとお目にかかったことがねぇぜ」
「積もりに積もった、よほどの恨みがあったのか、それとも……」
貞次郎は二人の枕元に、奇妙なものを見つけた。
それは血文字というか、血で描かれた模様である。それは一言でいうと、星。五本の線で描かれた「星」だった。
「ああん、誰だよ、てめぇは」背の低い忠助は、下から睨みつけてきた。
「丹葉貞次郎といって、以前、親分の手助けをしていた者だ。だから、おたくとは身内になると思うんだがね」
「たんばぁ? 聞いたことがねぇなぁ」
「まぁまぁ、親分に聞いてみてくれよ」
「お勤めの邪魔をすんじゃねぇ。さっさと行ってくんな」と、忠助は邪険に手を振る。
「悪いなぁ。急ぎの要件なんだ。行かせてもらうよ」
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二人は一触即発の雰囲気になるが、そこに声がかかった。
「忠助、何を騒いでいやがる。うるさくて、御検視ができねぇじゃねぇか」
声の主は座敷の中にいるのだろうが、よく通る声だった。
「亀三親分、御無沙汰をしています。丹葉貞次郎ですが、少しよろしいですか」
貞次郎が大声で応じると、
「おお、タンテーか、ちょうどよかったぜ。たった今、おめぇの知恵を借りたいと思っていたところだ。ちょっくら来てくんねぇか」と、返ってきた。
親分の許しが出たので、貞次郎はすんなり中に通された。
座敷で待っていたのは、恰幅のよい四十男だった。鋭い目つきで貞次郎を見やり、
「三河屋の一件以来だから半年ぶりか。タンテー、こいつはあん時より、厄介な捕り物になりそうだぜ」
「確かに、そのようですね」
貞次郎の目の前には、たっぷりと血を吸った布団の上に、若夫婦の遺体が仰向けに横わたっていた。
二人とも刃物で何度も身体を突かれていた。傍らに落ちていた包丁は家にあったものであり、魚の行商人をしていた夫の商売道具だという。
驚いたことに、女房の顔は執拗に傷つけられていた。無残にも、縦横無尽に切り刻まれているのだ。
「これほど無残な仏さんは、とんとお目にかかったことがねぇぜ」
「積もりに積もった、よほどの恨みがあったのか、それとも……」
貞次郎は二人の枕元に、奇妙なものを見つけた。
それは血文字というか、血で描かれた模様である。それは一言でいうと、星。五本の線で描かれた「星」だった。
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