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第一の謎
穴蔵①
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貞次郎は予定外ではあったが、二日連続で寿屋を訪ねることになった。
左衛門からの頼まれごとは急ぎではないし、そのうち気が向けば取り組んでやろう、と考えていたのだ。
しかし、お目付け役の桐野兵吾にうろつかれては、そうもしていられない。せっつかれるのは不愉快だし、気がかりを抱えたままなのは性に合わない。厄介ごとは手早く済ませておくべきだろう。
貞次郎が寿屋を訪ねると、左衛門は笑顔で出迎えてくれた。
「昨日の今日で早速さがしてもらえるとは、ありがたい。穴蔵は元より屋敷の隅々まで、どうぞ見て回ってくだされ。桐野さんと店の者が一緒なら、気遣いは無用ですよ」
貞次郎が桐野と一緒にやってきたのは、桐野の話の真偽を見極めるためだった。しかし、左衛門と桐野は笑顔で言葉を交わしている。どうやら、桐野の話に嘘はなかったらしい。
「丹葉さん、一番気になるのはどこだ」と、桐野が訊く。「やっぱり、肝心要の一の穴蔵から、当たってみるかい」
「いや、一番気になるのは別口ですね。左衛門殿、庭に涸れ井戸はありますか?」
「涸れ井戸? 使用中の井戸はありますが、涸れ井戸はございませんな」
「だそうだ。丹葉さん、当てが外れたな」
「いや、当てになど端からしていないよ。見込みのある場所を一つずつ潰していくだけさ」
強がりではなく、心底そう思っている口振りだった。
そこへ番頭がやってきて、左衛門に何事か耳打ちをする。
「では、これで失礼します。もし何かあれば遠慮なく声をかけてくだされ」
左衛門が席を外すと、桐野は砕けた口調で、
「で、丹葉さん、どうするよ。やっぱり最初にあたるのは、一の土蔵かい?」
「いえ、まずは、庭から見せてもらえますか?」
「おい、左衛門殿から涸れ井戸はねぇって聞いたばかりだぜ。どうして、一の土蔵じゃねぇんだよ」
「とりあえず、庭を見てからですよ」
独り言のように呟くと、貞次郎はさっさと廊下に出ていく。無言で桐野を振り向くと、顎をしゃくって庭への案内を乞うた。
左衛門からの頼まれごとは急ぎではないし、そのうち気が向けば取り組んでやろう、と考えていたのだ。
しかし、お目付け役の桐野兵吾にうろつかれては、そうもしていられない。せっつかれるのは不愉快だし、気がかりを抱えたままなのは性に合わない。厄介ごとは手早く済ませておくべきだろう。
貞次郎が寿屋を訪ねると、左衛門は笑顔で出迎えてくれた。
「昨日の今日で早速さがしてもらえるとは、ありがたい。穴蔵は元より屋敷の隅々まで、どうぞ見て回ってくだされ。桐野さんと店の者が一緒なら、気遣いは無用ですよ」
貞次郎が桐野と一緒にやってきたのは、桐野の話の真偽を見極めるためだった。しかし、左衛門と桐野は笑顔で言葉を交わしている。どうやら、桐野の話に嘘はなかったらしい。
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「いや、一番気になるのは別口ですね。左衛門殿、庭に涸れ井戸はありますか?」
「涸れ井戸? 使用中の井戸はありますが、涸れ井戸はございませんな」
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左衛門が席を外すと、桐野は砕けた口調で、
「で、丹葉さん、どうするよ。やっぱり最初にあたるのは、一の土蔵かい?」
「いえ、まずは、庭から見せてもらえますか?」
「おい、左衛門殿から涸れ井戸はねぇって聞いたばかりだぜ。どうして、一の土蔵じゃねぇんだよ」
「とりあえず、庭を見てからですよ」
独り言のように呟くと、貞次郎はさっさと廊下に出ていく。無言で桐野を振り向くと、顎をしゃくって庭への案内を乞うた。
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