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第一の謎
判じ物④
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それは、大福餅に似ていた。雪のように真っ白である。貞次郎は皿を目の高さに上げて、ためつすがめつ眺めた。うっすらと黄色い中味が透け見えている。
「中味にあるのは何でしょうな。小豆ではなさそうですが」
「小豆では、ありふれた柏餅になってしまします。それでは趣がない」
左衛門はニヤリを笑って、食すように促した。太一はいち早くパクついて、
「うめぇ、こいつはうめぇよ」と、目を輝かせている。
貞次郎も一口かじる。もっちりした食感とともに、ふわりと甘みが口の中に広がった。甘すぎず、ほどよい加減の甘さである。
目を閉じて、ゆっくり咀嚼した。どこか覚えのある甘味だが、餅との組み合わせが絶妙である。これは蒸したイモか? いや、違うな、これは……。
「左衛門ども、この中身は蒸したカボチャ、ですな」
「御名答。ただし、一工夫を加えたカボチャですよ。よその店では決して作れません」自信たっぷりの笑顔を浮かべて、「これは寿屋一世一代の菓子になる、と信じております」
この時代、饅頭や羊羹といったスイーツは、江戸っ子に馴染みの味だったが、それとは別にキュウリやニンジン、タケノコといった野菜の砂糖漬けも食べられていた。餅でカボチャをくるむのは、決して荒唐無稽なことではない。現代で言えば、イチゴ大福といったところだろう。
貞次郎が食べ終わり、お茶を口にした人心地ついたところで、左衛門は貞次郎に鋭い眼を向けた。
「丹葉さん、判じ物を一番に解いてくれたのも何かの縁だ。あなたの頭を見込んで、腹を割って話しますが、一つ頼みを聞いてもらえませんかね」
「ふむ、私の頭を? 聞くだけなら構いませんが、もし知恵袋としてお使いなら、決して安くはありませんよ」
そう言って、貞次郎は不敵な笑みを浮かべた。
この時、左衛門からの頼まれごとが、ただならぬ騒動に発展するとは貞次郎には知る由もなかった。
「中味にあるのは何でしょうな。小豆ではなさそうですが」
「小豆では、ありふれた柏餅になってしまします。それでは趣がない」
左衛門はニヤリを笑って、食すように促した。太一はいち早くパクついて、
「うめぇ、こいつはうめぇよ」と、目を輝かせている。
貞次郎も一口かじる。もっちりした食感とともに、ふわりと甘みが口の中に広がった。甘すぎず、ほどよい加減の甘さである。
目を閉じて、ゆっくり咀嚼した。どこか覚えのある甘味だが、餅との組み合わせが絶妙である。これは蒸したイモか? いや、違うな、これは……。
「左衛門ども、この中身は蒸したカボチャ、ですな」
「御名答。ただし、一工夫を加えたカボチャですよ。よその店では決して作れません」自信たっぷりの笑顔を浮かべて、「これは寿屋一世一代の菓子になる、と信じております」
この時代、饅頭や羊羹といったスイーツは、江戸っ子に馴染みの味だったが、それとは別にキュウリやニンジン、タケノコといった野菜の砂糖漬けも食べられていた。餅でカボチャをくるむのは、決して荒唐無稽なことではない。現代で言えば、イチゴ大福といったところだろう。
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「ふむ、私の頭を? 聞くだけなら構いませんが、もし知恵袋としてお使いなら、決して安くはありませんよ」
そう言って、貞次郎は不敵な笑みを浮かべた。
この時、左衛門からの頼まれごとが、ただならぬ騒動に発展するとは貞次郎には知る由もなかった。
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